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治験てなんだ。 (3)

-2009-


(前回までのあらすじ)
ロンドンまで治験を受けにやって来て、病院で1週間の入院を経て、間に1週間程時間があったので、僕はアイスランドへ行こうと計画にウキウキして宿に帰ったのだが…


1週間ぶりの宿へ帰ってから、預けた荷物を返してもらった時の事だ。
大きなバックパックを開けた瞬間、何か違和感を感じた。
一番上に入れておいた、カメラを入れたカバーがない。

それも、カメラごとだ。

一瞬で血の気が引きつつ、バックパックに手を突っ込んでカメラを探す。
そういえば硬く結んでいた紐が解かれてるし、中の荷物がパッキングした時と微妙に違う。

僕は焦ってバックパックの中身を全部出して驚愕した。


ない!
ないないない!!
カメラがない!
まるっきりない!!!
かけらもない!
カメラがなーい!!


そんなはずはないでしょ!と、独り言を言いながら、荷物を預けてた部屋を何度も探すのだけど、やっぱりない。


パニックだった。
すぐ様宿のオーナーに電話すると、彼は慌ててやって来た。

彼はそんなはずはない!と言う。
僕は、それでもない物はない!と、怒りと驚きで大分興奮してるのが、自分でもわかる。
オーナーの留守中、この部屋には鍵をかけてるのかと聞くと、してないと言う。
(それどころか、裏の勝手口はいつも鍵が開いていて、誰でも部屋に入れると聞いて、完全に死んだ)

ともかく、明日のアイスランド行きまでにカメラを見つけないと、僕はアイスランドへ行く事が出来ない。

他の部屋の人が何か知ってるかもしれないから、ちょっと聞いて来る!と、部屋へ行こうとすると、オーナーは僕を引き止めた。

そんな事が他の人に知れると、宿の評判に関わるから、言わないで欲しい。

僕は耳を疑った。
何言ってんだ、この人は。
アホなのか?

喉まで出かかった言葉を何とか飲み込んで、僕は、それは無理だと答えた。

警察にも届けなきゃいけないし、その前に全部の部屋を探してみないと、もしかして、何かの間違いで、他の部屋から出て来るかもしれないじゃないか。

僕は一秒でも早く探しに行きたいのだけど、なんとオーナーの答えは、

警察沙汰になるのも困るから、言わないで欲しい。

という、スーパーミルクチャンもびっくりのミラクル発言が飛び出したのだ。




【スーパーミルクチャン】

-2000年に放映-


僕にフリーザくらい力があったら、「消えちゃえ!」と、地球ごと破壊していたかもしれない。

(ドラゴンボールより)




もう宿に泊まってる人も、このオーナーも、みんな信じられなくなった。

警察に行く!
困る!
部屋の人に聞いて回る!
困る!

の繰り返しで、話が進まない。
行き場のない怒りを抑えきれず、僕はそんな都合良い話あるか!!と感情的になりながらも、しばらくお互いの解決策を話し合った結果、
結局最後は、宿のオーナーが盗まれたカメラとレンズ代の半額を僕に支払う事で、僕は警察に行くのも、他の部屋の人に聞き回るのも止めることになった。



外はすっかり夜が明けかけていた。
時計を見ると、アイスランド行きの飛行機が飛ぶ30分前だった。


既に、アイスランド行きの事なんてどうでもよくなっていた。
それから文字通りふさぎこんだ。
誰かがカメラを盗んで笑ってる姿を想像しては、何度も悔しさが込み上げて来た。

俺は一体何しにロンドンまで来たんだ!
稼ぐはずが、これじゃあまるっきり赤字じゃないか!
てか、治験に来ない方がお金あったじゃん!
治験損じゃん!
ふがー!うごー!!



カメラが無くなる前にパソコンにコピーしてた、このカメラ最後のロンドン写真が、切なくも好き。


長く使ってたカメラが、自分のミスで急に無くなったのもショックだし、中に入ってたメモリーカードには、まだ数日分の写真データが入っていたのが一緒になくなってしまったのが悲しかった。

なんで一緒に病院へ持って行かなかったんだ!!(病院に預けるのが心配だった)

次々後悔の波が起こって、もうロンドンにいるの事が全然落ち着かなかった。
治験仲間の2人からずっとなぐさめられて、その度、何度も泣きそうになった。


数日間、完全にふさぎこんだ後、やっと怒りが徐々に落ち着いて来た。
そうだよ、カメラだって道具なんだ。
なくなる事もあるし、壊れることもある。
次をまた買えばいいじゃないか!
治験してるんだし!(泣きそう)


まさかの展開だったけど、こうして僕は、治験の報酬でカメラ一式を新たに買い換える事にした。

でかい!
恐ろしくでかい出費だった。
この事件の数ヶ月前に、パソコンが突然ショートしてしまい、新しくノートパソコンを買ったばかりだったのもさらに焦りを生んだけど、それでも、もうやるしかない。

悔しかったので、せめてもの思いで、以前のカメラよりも新しい機種にしてやった。
レンズは高額なズームレンズを止めて、50mmの単焦点にした。


1週間後、病院で再開した治験仲間のみんなから、
アイスランドどうだった?
の質問に答えるの頃には、カメラの盗難事件は、完全にネタになっていた。

僕達は強い!
こうなったらネタにして、笑って笑って生き抜くんだ!

僕は、ベッドの上で血を抜かれながら、二度とお金だけに目が眩む行動は止めようと決心したのだった。

案外すぐに揺らぐけど。

これはきっと神様からの教訓だ!(治験所は何も悪くないのに、完全にとばっちり)

うまい話には、ちゃんと落とし穴があるもんだ。

僕はこの教訓を、孫の孫の世代まで語り継いでいこうと思う。
子供、いないんだけどね。



追伸:
その後、宿のオーナーからいつまで立っても約束の代金を振り込んでもらえず、翌年、自ら宿まで取り立てに行くロンドンの旅!という事件がまた発生するのだけど、その話はまた今度。






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いや、これ誰かからサポートあった時ほんまにむっちゃ嬉しいんですよ!!