世界一周航空券を、上手に紙くずに変える３つの方法

2018年12月28日 10:08

-2009-

僕は、カサカサという日本人宿のリビングに座っていた。
時計の針は深夜０時になる１０分前。

メキシコのサンクリストバル・デ・ラス・カサスという街に着いてから、もう1週間が過ぎていた頃だ。
とても居心地のいい街と人、そして宿。

ここだ、ここで終わるのだ。

世界一周を志して、とりあえず買った世界一周航空券（５０万）
その有効期限が切れる日が、あと１０分で訪れるのだ。
全２０回使える航空券を、これまでで使った回数は、

5回。

１/４しか使ってないじゃないか。
値段で言えば１２万円分。
そう考えると、なんか損しかしてない感が、僕の心を暗くさせる。
黒い黒い暗黒だ。

でも、でもね、奇跡は起こったんだ。
リビングルームで、０時を過ぎた時のことだ。

日本人宿、カサカサでは、シェア飯という制度があって、食材費をみんあでシェアして食事を作るという、料理の苦手な僕にとっては神的制度。

カサカサの屋上で喋ってるうちに、段々と打ち解けて仲良くなる事が多かった。

旅人と一括りに言っても、本当に色んな人がいて驚く。
サパティスタ（メキシコ民族解放軍）の研究に来ていた、ひょっこりとの出会いも強烈だった。

永遠のアイドルこと、コビッチが管理人をやっていた事で、確実に旅の方向性が変わったと思う。

ああ、終わった。

完全に終わっちまった。

もう、もうこれで世界一周出来ないかもしれないんだ。（今更）

絶望、この言葉はきっと今の事を言うんだ。
そう思った時、いや、そう思うのが普通だと思っていた自分に、新たな気持ちが芽生えていることに気づいた。

もう、もうこれで、

一年で旅を終えなくてもよくなった！

そうなんだ。何年旅を続けたって、航空券の予定に沿わなくても好きな場所に、好きな行き方で行っていいのだ。

そもそも一年という期限を決めたのも、航空券を買ったから。という理由だ。
これまで一人で海外に出たこともない僕は、一年も一人で旅が出来れば上出来だろうと踏んでいた。
ところがどうだ、一年経って僕の感情は、もっと旅を続けていたい！という、予想外の心境になっているじゃないか。

日本が恋しいと思ったことも一度もないし、帰りたいなんて思えない。
いや、帰りたくない！
まだまだ旅をしていたい！

僕は幸運なのか、旅を始めてから、良い出会いが本当に多くて、今まで知らなかった事を、ただ生きてるだけで毎日知れるようになった。

突然不意に出会う人との会話、屋台が並ぶ通りの匂い、自然豊かな山から見える風景、現地の人に進められる見た事もない食べ物。

海外の事だけじゃない。
日本の各地から旅に出てる人達の話は、僕の住んでいた街の人とは全く違う感覚で、日本の常識だと思っていた事も、実は僕の周りだけでの常識でしかなかった事を知った。

孫悟空だ。
僕はお釈迦様の手のひらで生きてきた孫悟空なのだ。
虫かごの中で生きてきたバッタなのかもしれない。

そう思うと、なんだか一年で終わらなかったこの旅の先が、眩しい太陽のように見えてきた。

宿に泊まっていた人達に、おめでとう！と祝福されて（それもなんだかだけど）僕は威勢良く、ついさっきまで世界一周航空券だった紙切れ (５０万) を破り、ゴミ箱へと投げ込んだ。

無期限。

これで完全に予定がなくなった。

最高じゃないか。
やってやろう！

このまま、ここにもっと長く滞在して、運命的かわい子ちゃんと結婚したっていい。

いや、明日知り合うかもしれない運命の美女と一緒に、明日アルゼンチンに飛んだって良いんだ！（運命多めの妄想です）

こうして、僕の旅はこの後４年間にも及ぶきっかけになった夜は更けていった。