楽器に命が吹き込まれる時
誰だって人生の中で、一度くらいは楽器を使って自由に音楽を奏でてみたいと想像した事があるんじゃないだろうか。
オーストラリアでワーホリ生活を堪能していたある日、クラフト&オーガニックマーケットで、ひとりのおじさんが、アフリカの太鼓を並べて売りながら、ポコポコと楽しそうに叩いてるのを見かけた。
そのおじさんがとても楽しそうに叩いてるもんだから、目は自然とおじさんと、その周りに並べられてる太鼓にいってしまう。
そして、僕の目に、それは映り込んでしまった。
鮮やかな木彫りの施されてるジャンベが並ぶ中にひとつ、ひときわ目立つ、大きなハートが掘られたジャンベ。
ジャンベにこんな可愛いデザインもあるんだ!と、そのハートのジャンベの前で、おじさんの奏でる音を聞きながら、一瞬、その太鼓を僕が持ち歩く姿を想像した。
いやいやいや、僕は今世界一周中、ジャンベなんて持って旅出来るほど、僕の荷物は軽くない。
おじさん、すごい可愛いの作るなあと、僕はその場を後にした。
太鼓を売りながら叩いてたおじさん。
目を引く人には、何か特別なオーラがあるもんだ。
帰りの車の中で、今日出会った太鼓の話をみっちゃんに話すと、
あー、俺その人知ってるよ。
という、思いがけない言葉が返って来た。まじっすか!?
彼はビートさんと言って、この辺りでアフリカの太鼓の作り手として、有名な人なのだそうだ。
近くのリズモアという街に、アトリエがあるという。
連れて行こうか?
え、ええー!!
そして翌日、太鼓の事が気になってる4人(しゅりちゃん、かなちゃん、ゆうじ、そして僕)は、みっちゃんの運転で、先日のおじさん(名前はビートさん)のアトリエの前に来ていた。
みんな楽器を持たない人達ばかりだ。
わかる!わかるよ!!
毎日、道端や宿で誰かが楽器を気持ちよさそうに奏でてるのを眺めてると、自分も楽器を使って自由に音楽を奏でてみたいと思うもんだ!
おおー!心の友よー!
音楽の美しさを、僕はオーストラリアで何度も直面している。
誰かと一緒に楽器が奏でられるって、それはそれは素敵な事なんだと、心からそう思うのだ。
僕は太鼓が叩ける様になって、色んな人とセッションがしたい!
ただ、それだけなんだ。
リズモアという街のはずれに、彼が夫婦で営むアトリエはあった。
アトリエに着くと、すぐ奥さんが中へ迎え入れてくれて、中には沢山の種類の太鼓が並び、壁には見たこともない工具が掛けられていた。
奥で待っていたビートさんは、にっこりしながら、アトリエを案内してくれた。
そして、そこにあいつはいたんだ。
あのマーケットで見たハートの太鼓。
その他にも、アフリカの風景を彫った物や、模様を彫った物など、色々置いてある。
みんな、すごいすごいと、あれこれ触ってみる。
ビートさんは、そのひとつひとつの太鼓をポコポコ叩いては、それぞれの太鼓の特徴や感想を教えてくれてる様子。
僕には何を言ってるのか、殆どわからない中、ハート型の太鼓の時に、
これは悪くないよ。
と言ってたのは理解できた。
なんだ、なんか嬉しい。
僕の太鼓でもないし、買うのだってもう諦めてるはずなのに、あの太鼓を褒められると、むちゃくちゃ嬉しい。
これは、、、
恋だ。
僕は、この旅で初めて、恋をしている。
ハートの太鼓との再開した瞬間の事を写真で表現してみた。
広めのアトリエには、色んな工具、すごい種類の太鼓や皮などが置かれていて、見て周るだけでも面白い。
奥さんも職人さん。アーティスト夫婦。
僕たちが気になる太鼓を、チェックしてくれる。
軽いワークショップもしてくれた。
もし買うならこの人からが良い!と思わせてくれる人と出会えるのは、とても幸運な事だ。
だが、現実は今世界一周中。(しかも一カ国目!)
既にバックパックいっぱいにカメラ機材が入ってる上、太鼓まで持って残りの国々を歩くのは、あまりにも無謀すぎる。
他の3人もそれぞれ悩んでる様で、一度落ち着いて考えようと外へ出て、この欲しい気持ちをどう抑えたもんか悩んでいたら、突然、しゅりちゃんが、叫んだ。
虹だー。
彼女の声の先には大きな虹がかかってる。
みんなですごいすごいと、虹の下で騒いでると、しゅりちゃんが一言。
決まったね。
新潟が生んだナウシカこと、しゅりちゃんが言っているんだ。
決まった!と。
つまりは、そういうことなのだ。
まあ、とりあえず買ってから考えよう。
いざとなったら、日本に送ってもいい。
こんなに楽器を欲しくなった事なんて初めてだし、何より、ビートさんから太鼓が買いたい。
立派な虹がかかったのだった。
合図だと、しゅりちゃんは言う。
みんなが買った太鼓と、みっちゃん自前の太鼓(右)
僕はハートの太鼓を買った。
しゅりちゃんとかなちゃんも、それぞれ気に入ったのに出会えたらしく、買ったばかりの太鼓達を持って、みっちゃんの車に戻った。
みっちゃんも、なんだか嬉しそうに、3人の買った太鼓を順番に触ってる。
まさかみんな買うとは思ってもみなかったらしい。
帰りの道中、みっちゃんの粋な計らいで、夕暮れの滝の上に連れて行ってもらい、超豪華な「叩き始め」になった。
みっちゃんのサプライズなはからいに、みんな歓喜。
楽器と本気で向き合ってる人の側で学ぶと、楽器をちゃんと愛せるようになるんだと思う。
買い物とは、出会いだ。
欲しい物と、どういう経緯で、どうやって手に入れたのか、その感情のドラマが、持ち物を大事にしていける秘訣なのだと思う。
旅に出て、持ち歩ける分しか物が持てなくなると、自分が本当に必要だったり、欲しい物がわかってくる。
その太鼓は、10年経った今、ドイツにも持って来てて、
昨年みっちゃんが訪ねて来てくれた時に、皮の張り替えをお願いして、今もばっちり側にいるのです。
あの時買って本当によかった。
ちなみに、計画では、既に色んなリズムで叩けてるはずなのだけど、どうやら、それも計画だけでは上手くいかないみたいだ。
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