ムサビ授業1:もっといい林業って何か?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース
クリエイティブリーダーシップ特論 第1回(2021/04/12)
ゲスト講師:足立成亮さん、陣内雄さん
◆「クリエイティブリーダーシップ特論」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。
◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。
outwoods ~フリーの木こり達~
今回のお話は札幌を拠点に活動される「outwoods」のお二人、足立さんと陣内さんです。outwoodsとは屋号のようなもので、個人事業主(「木こり」もしくは「林業屋」)として活動されています。
彼らの活動の場は主に「ヤマ」であり、他のインタビューでは「木がたくさん生えているところ。平地の森でも「ヤマ」と呼びます」と表現されています。
既存の林業に対するアンチテーゼ
木材を大量に伐採して、市場へ持ち込み従来のやり方は持続性がありません。彼らがやっていることは、ヤマを起点として「良い木を残しながら、森を残す」ということであり、「環境保全型の林業」と呼ぶことができます。
既にWeb上でも情報が得られますので、詳しい説明はそちらに譲ります。
(どれも、ハッとさせられるような内容なので是非ご覧ください)
・孤独な木こりたちが道をつける。林業の未来を照らす森林作業道
・木こりビルダーズ+製材機で、森と建築を直結し、タフでラフな田舎建築を供給したい!
・陣内さんご自身のHP
これらの活動は、既存の林業に対するアンチテーゼと捉えることができます。林業のあり方や林業の見られ方について、「今のままではいけない」という強い信念が表現されていると思うのです。その根底にあるのは、「どうやったら林業が良くなるのか?」を純粋に突詰めていることだと思います。
現状を変えていく際には、摩擦も起きます。
陣内さんがヤマに入ったのは30年前。足立さんは12年前。ヤマへの強い思いを持っていた一方、林業の実状や一緒に働く人との熱量の差に乖離を感じ「現場って寂しい」という所で息があった、という話が印象的です。
周りの理解も得にくく、閉ざされた業界。仲間が増えていったことで色々なな活動に派生してきたのだと言います。足立さんの描いた「山と人と暮らしをデザインする 林業という生き方」という絵の通り、活動の領域は多岐にわたっています。
林業の現実
筆者自身が林業に明るくなかったので、日本の林業の現状を調査しました。統計的な情報であり、北海道の現場にいる彼らから見ている景色とは異なるかもしれませんが、客観的な事実として抑えることは重要だと思います。
「林業」と辞書で引くと「森林を育成,維持し,これを経済的に利用する産業をさす。狭義には育林から立ち木販売までをさすが,広義には製材業や木材を原材料とする諸工業を含めていうこともある」と説明されています(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)。
他の一次産業と同じように、産業として原材料、加工、流通の分業で成り立っています。一般的に「木こり」と聞いて思い浮かべるのは、川上(下図の左側)のイメージでしょう。
想像に難くありませんが、課題は多く存在しています。
林野庁から最近(2021年3月8日)報告された資料を見ても、これだけの課題が挙げられます。
林野庁『林業の現状と課題』https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/genjo_kadai/attach/pdf/index-158.pdf
○木材価格は高度経済成長に伴う需要の増大等の影響により1980年にピークを迎えた後、木材需要の低迷や輸入材との競合等により長期的に下落してきたが、近年はほぼ横ばいないしやや高まりをみせて推移。
○日本の森林保有構造は、保有面積10ha未満が林家数の9割を占めるなど小規模・零細。
○ 生産性は向上しつつも低位であり、意欲ある者への施業集約化や低コストで効率的な作業システムの普及・定着等が課題。また、林家の所得や林業従事者の平均賃金は低い現状。
(林業所得は104万円/1家族経営体、林業従事者の平均給与は343万円)
〇山村は、日本の林野面積の6割を占め、それを全人口の3%で支えている状況。また、過疎化・高齢化が進行し、就業人口も減少。
〇林業従事者は減少傾向で推移し、2015年で4.5万人。高齢化率は依然として全産業平均と比べると高い。ただ、全産業の若年者率が低下する中、林業従事者についてはほぼ横ばいであり、平均年齢は若返り傾向。
要するに、高度成長期以降、国内需要はピークアウトしており、輸入材との競争で木材価格は低下、収入源として心許ないものとなっている。
そして、林家の保有している森林は規模として小規模・零細であり生産性が低く、就業者も新しいことをする意欲が生まれていない。また、若年者率は横ばいであるものの、高齢化が顕著というのが実情です。
もっといい林業って何か?
このように林業にはたくさんの課題があります。ではどうするのか?
ビジネス的な課題解決で言えば、「集約して生産性向上しましょう」とか、「機械化によって効率化しましょう」とか、「日本の木材をブランディングして海外に輸出しましょう」とか、そういった方針で考えていくと思います。
(現に、先ほどの林野庁の資料でもそういった打ち手が提案されています)
ただ、彼らは川上の立場から、あるべき姿を考えて川下をデザインし、実際に幾つもプロジェクトとして進める、というアプローチをとっています。考えはつくかもしれないけども、ともすると課題ばかりが気になり、机上から実行に移せる人がいないという類のものだと思います。
同時に、ヤマが生み出す価値を地域に還元しています。別の言い方をすると、かつて成立していたはずの「循環型の林業」を新しい形で体現している、これがすごいと思う所です。
色々なことに気付くはずだから、ヤマに来てよ
2021年3月3日、彼らの活動は、国産材の新しい魅力を発見するプロジェクト「WOOD CHANGE CHALLENGE」において、100を超える応募から最高位であるGOLDを受賞しました。
(参考)WOOD CHANGE AWARD受賞作品
傍目から見れば、長い間苦労してきた活動が認められ、ある種社会的にも認められた瞬間でもあると思います。それに至るまでの苦労について積もる話が出てきてもおかしくなかったと思います。
にもかかわらず、淡々とこれまでの活動と今後のことを語っていた姿は印象的です。「色々なことに気付くはずだから、ヤマに来てよ」。常時そんなトーンで話が続いたのが、むしろ心の芯の強さを感じさせるようでした。
印象的だった話
◆足立成亮さん
・とにかく人を呼び込んでいる。仕事を止めてでも森を見て欲しい。
・逆に森のことを街に持ち込む。
・良い木を残しながら、森を残す。
・森に興味がない人は、本当に興味がない。「遊びに行く、飲みに行く、共通話題」。まずは森のことより自分のことを好きになってもらう。
◆陣内雄さん
・色んな形容詞を付けるが、「ずーっと、やっていける林業」。そういうのを目指している。
・森がずっと森であり続けるために。
・足を引っ張られないように、地道に仲間と協力者を増やしていく。
クリエイティブリーダーシップとは?
~「何か違う」をまっすぐに問うていくこと~
今回は第1回目のレポートとなりますが、結びはクリエイティブリーダーシップについて自分なりに考えてみることとしたいです。
クリエイティブや、リーダーシップということを考えるにあたって、自分が強く感じたのは「何か違う」をまっすぐに問うていくこと重要性です。ビジョンを現実に変えていくためには、自身の内面から上がってくる問いかけがあるかが大事だと思います。
outwoodsにおいては、「ヤマを良くしたい」「ヤマと人々の関係を変えたい」をベースに、ビジョンの解像度が上がっていき、そのビジョンに共感が集まることで、現実を変えているのだと考えました。
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