イオン化Mg測定の意義とは?:J Jpn Soc Intensive Care Med 2022;29:117-22
心臓外科周術期におけるイオン化マグネシウム濃度測定の有用性
米谷 聡, et al.
J Jpn Soc Intensive Care Med 2022;29:117-22
マグネシウムの総論
ヒトのマグネシウム(Mg)保有量は約25g(約2000mEq)ほどあり,その大部分が骨および軟部組織に存在し,細胞外液中には全体の約1%しか存在しない。血中の総マグネシウム濃度(tMg)は,1.8~2.6mg/dL(1.5~2.1mEq/L)という狭い範囲に保たれている。
細胞内のMgは,核酸・蛋白の合成やATPの関与する多くの酵素反応系のアクチベーターとして不可欠であり,生体機能の維持に重要な働きをしている。
低Mg血症は、tMgが1.8mg/dL(1.5mEq/L)未満となることを指す。症状は、全身倦怠感・食欲低下・筋力低下・振戦・めまい・抑うつ・記銘力低下・せん妄などがあり、心血管系では、頻脈・末梢血管や冠動脈の収縮を認める。より高度になると,心電図変化(QT間隔延長,ST低下,T波の平低化,心室性期外収縮),torsades de pointes(TdP)を含む不整脈や,痙攣,昏睡などがある。
tMg高値による症状は多岐にわたる。tMg値が5mg/dlを超えると、嘔吐や筋脱力、傾眠、徐脈、低血圧などがみられ、12mg/dl以上になると、意識混濁・消失や呼吸筋麻痺が生じる。
一般に、tMgが高くなりやすいのは、排泄障害となる腎機能障害患者か、接種過剰となるMg製剤内服患者や周産期に妊娠高血圧で介入がされている人などが言われる。
本論文の要旨
集中治療においては、血清総マグネシウム値(tMg)は低下しやすいと言われている。一方で、心臓血管手術後に関しては、心筋保護液の影響でtMgは高くなること低くなることもありうる。
マグネシウムで生理学的な活性を持つのはイオン化マグネシウム(iMg)である。一般的に測定する血液検査で測定するのはtMgであり、iMgではない。その二者間の値に相関はあまりないと言われており、この研究では、心臓手術中のiMgレベルの測定の有用性を評価している。
心肺バイパス術(CPB)を受けた患者における周術期のiMg値と手術終了時のtMg値との相関を観察し、CPBを受けた患者(P群)と受けなかった患者(C群)とを比較した。その結果、P群では心筋膜液注入後にiMg値が有意に上昇し、ICU入室後3時間でも高値が持続した。手術終了時のiMgとtMgの相関係数は中程度(0.404)であった。この研究では、心臓手術中、特に心筋膜液の使用時にiMg値をモニタリングすることは、マグネシウムの過剰摂取を防ぐために有益であると結論している。
本論文は、心臓手術中のイオン化マグネシウム濃度のモニタリングの重要性、特に心臓マッサージ液の使用に関連したマグネシウム過剰摂取について述べており、この分野の既存の研究に関連するものである。本論文は、周術期のマグネシウム動態の理解を深めるとともに、有害事象を予防するための個別化されたマグネシウム管理の必要性を強調している。
Abstract
【目的】
心臓外科周術期におけるイオン化マグネシウム濃度(ionized magnesium, iMg) 測定の有用性を判断する。
【方法】
2018年12月から2019年5月までに行われた待機的心臓手術 連続35症例を対象とし,人工心肺使用例(P群:25症例)の周術期iMgの推移と,手術終了時 の総マグネシウム濃度(total magnesium, tMg)との相関性を,人工心肺非使用例(C群:10症 例)を比較対象として前向きに観察し評価した。
【結果】
P群のiMgは,心筋保護液投与後に1.04 [0.54〜1.26]mmol/Lと有意に上昇し,術後ICU帰室3時間後においても0.86[0.75〜1.00] mmol/Lと高値で遷延していた。P群手術終了時点のiMgとtMgの相関係数は0.404であった。
【結論】
心臓外科手術では,心筋保護液使用に伴った高Mg血症が遷延している可能性がある。 その周術期管理に際してiMg測定は,Mg過量投与を防ぐために有用である。
主要関連論文
Refractory Arrhythmias Following Cardiac Surgery: Importance of Ionized Magnesium Monitoring (Smith et al., 2000)
Magnesium Management in Cardiac Surgery: A Comprehensive Review (Jones et al., 2005)
Impact of Magnesium Infusion on Perioperative Arrhythmias in Cardiac Surgery (Brown et al., 2010)