不全心筋のβ2アドレナリン受容体は普段と違う働きとなる:Science. 2010 Mar 26;327 (5973):1653-7.
Beta2-adrenergic receptor redistribution in heart failure changes cAMP compartmentation
Viacheslav O Nikolaev, et al.
Science. 2010 Mar 26;327 (5973):1653-7.
要旨
通常、β1, β2両方を刺激して、cAMP-PKAによるホスホランバンや心臓収縮性タンパクのリン酸化が生じるのはβ1のみである。このリン酸化により、細胞の肥大やアポトーシスを促進することがわかっている。β2は通常局在的にしか存在せず、その意義は不鮮明である。また、β1はPDE4によって制御されているが、β2はさまざまなサブタイプのPDEによって制御されている。
by V. O. Nikolaev, et al. Circ Res. 2006 Nov 10;99(10):1084-91.
正常心筋と比較して不全心筋では、β受容体密度が 50 ~ 56%減少し、イソプロテレノール (ISO) を介したアデニル酸シクラーゼ (AC) の最大刺激が 45%減少し、ISO刺激による最大筋収縮が 54 ~ 73 %減少した ( P 値<0.05 )。対照的に、細胞質クレアチンキナーゼ活性、フッ化物イオンおよびヒスタミンによって刺激されたAC活性、ヒスタミン刺激による筋収縮、および収縮性タンパク質のレベルは、2 つのグループ間で差がなかった。
よってCHFにおける心筋では、β受容体密度の低下がβ経路の感受性低下とβアゴニスト刺激による筋収縮の低下につながる。
by M R Bristow, et al. N Engl J Med. 1982 Jul 22;307(4):205-11.
48のヒト心臓から得られた組織において、非心不全の左心室では、β1(77%)およびβ2(23%)であり、心不全の左心室では、β1:β2の比率は大きく異なり、60:38だった。この心不全心室におけるβ1の割合の減少とβ2の割合の増加は、β1サブポピュレーションの62%の「選択的」なダウンレギュレーションによるものであり、β2受容体にはほとんど変化がなかった。
β1およびβ2アドレナリン受容体の両方が陽性変力作用を認めた。非心不全の心筋では、β1反応が優勢であり、選択的β1作動薬デノパミンによる反応はイソプロテレノールによる総収縮反応の66%を占めました。心不全心筋では、β1成分は大幅に減少しましたが、β2成分はさほど減少しませんでした。さらに、心不全ではβ2成分の重要性が増加し、選択的β2作動薬ジンテロールによる収縮反応が、非心不全では39%だったが、心不全心筋では総反応の60%に増加した。
よって、心不全心筋はβARサブタイプの中でβ2の割合が多くなり、収縮もβ2が2/3を担うように変化する。
by M R Bristow, et al. Circ Res.1986 Sep;59(3):297-309.
本研究では通常心筋細胞と不全心筋細胞とでβ受容体の局在を調べることが目的である。isoproterenol+ICI(β2 antagonist) or CGP(β1 antagonist)でそれぞれのサブタイプを選択的に刺激してcAMPの局在を調べた。そして、PDE阻害薬であるIBMXやGiを抑制する(PTX)を追加投与することで、PDEによる過剰な分解の影響かβ2のGiタンパク共役型受容体の影響かを調べた。
通常心筋
β1 : Gs-cAMP-PKA at T-tubules and cell crest
β2 : Gs+Gi at only T-tubules
cAMPのT-tubulesでの発現はIBMXでは増加, PTXでは変化なし
cAMPのcell crestでの発現はIBMX, PTXで変化なし
β1 KOマウスでも検証し, β2はT-tubulesのみでcAMP発現+
不全心筋
β1 : at T-tubules and cell crests
β2 : at T-tubules and cell crests
ただし, どちらも通常心筋のT-tubulesの発現量より少ない
cAMPのT-tubulesでの発現はIBMX, PTXともに増加
cAMPのcell crestでの発現はIBMX, PTXで変化なし
Ht31 peptideはRⅡ subunitsとA-kinase anchoring proteinsの連絡を断つ
=PKAを細胞内の局所に留める働きを阻害する
不全心筋のβ2と通常心筋にHt31 peptideを加えたもので同じ局在変化が生じ、これはβ1を刺激した時と類似した変化となった。
※ PKAの構造とRIIサブユニット
PKAは四量体の酵素で、通常は2つの調節サブユニット(Rサブユニット)と2つの触媒サブユニット(Cサブユニット)で構成されている。Rサブユニットには、cAMPの結合部位があり、cAMPが結合すると、RサブユニットはCサブユニットから解離し、Cサブユニットが活性化されて標的タンパク質をリン酸化することができる。Rサブユニットには、主にRⅠ型とRⅡ型の2種類があり、これらのうちRIIサブユニットは、A-キナーゼアンカリングタンパク質(AKAPs)と呼ばれるタンパク質と相互作用することで、特定の細胞内コンパートメントにPKAを固定する。この相互作用により、PKAが細胞内で局所的に作用し、特定の機能を効率的に調節することが可能になる。PKAが活性化されると、PDE4(ホスホジエステラーゼ4)などの酵素が活性化され、cAMPの分解が促進される。これにより、過度のcAMPシグナルが防止され、細胞機能の適切な調節が維持される。
まとめると…
通常時はT tubulesに局在し、心筋保護的な役割を持つβ2受容体は、不全心筋となると、その局在性を失い、広範にcAMPを撒き散らすようになり、その活性は心筋障害へとつながる。
これはPDE(特に4)によってcAMPの総量の制御や、PKAの構造であるRⅡサブユニット-AKAPsによる局在性の保持が障害されることによって発症するかもしれない。GiによるGsのnegative feedbackは不全心筋にのみ影響を与えるかもしれない。
Abstract
心筋細胞表面のβ1-およびβ2-アドレナリン受容体(βAR)は、セカンドメッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)の産生を制御することにより、心機能および心不全の発症に異なる影響を媒介する。ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)と結合しているこれらのβARの心筋細胞における空間的な局在と、その局在の機能的な意味は不明であった。我々は、ナノスケールのライブセル・スキャニングイオン伝導顕微鏡法と蛍光共鳴エネルギー移動顕微鏡法を組み合わせ、健康な成体ラットとマウス由来の心筋細胞では、β2AR誘導cAMPシグナルが空間的に限定された深部横管にのみ局在するのに対し、機能的なβ1ARは細胞表面全体に分布していることを発見した。慢性心不全モデルラット由来の心筋細胞では、β2ARが横管から細胞堤に再分布し、受容体を介したcAMPシグナル伝達が拡散した。したがって、心不全におけるβ(2)ARの再分布はcAMPのコンパートメントを変化させ、不全心筋の表現型に寄与している可能性がある。