2023年度心臓血管麻酔専門医認定試験体験記〜その4〜
前回は、勉強方法について紹介してきました。
iPad勉強法についてはまた別の機会に紹介します。
今回は、過去問を見返した時、JSCVA推奨の各ガイドラインで得られる情報は何かについてそれぞれ記載していこうと思います。これを見れば、どの情報を得たい時にどのガイドラインを読めばよいか大まかにわかるようになるかと思いますので大幅な時短になるかと思います。
ただし、基本的に日本語版のガイドラインしか追っていませんのでご了承ください。
日本循環器学会のガイドラインシリーズのサイトでそれぞれのガイドラインの解説動画なんかも載ってたりするので参考にしてみてください。
JSCVAguideline推奨の参考ガイドライン
冠動脈疾患
a. 安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版) (日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン)
・血行再建のための評価方法の推奨(coronary CT, FFR, iFR, 心筋血流SPECTなど)
・Optimal Medical Therapy
・血行再建術前リスクスコア(SYNTAXスコアなど)
・血行再建の推奨とエビデンスレベル
・弁膜症合併症例の血行再建の推奨
・CABG前合併症治療の推奨
・CABGのグラフトについての推奨
・術中グラフト評価の推奨(Qm, PI, DFIなど)
b. 急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版) (日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン)
・ACSの診断における各検査の推奨
・ACS初診診断時のリスク評価(TIMI, GRACEなど)
・初期治療の推奨とエビデンス(MOANSなどについて)
・各病態の時のprimary PCIの推奨
・抗血小板療法・抗凝固療法
・各病態におけるCABGの適応(緊急適応やNSTE-ACSについて)
・ACSの機械的合併症の評価と治療の推奨(LVFWR, VSP, PMRなど)
c. 冠動脈疾患患者における抗血栓療法
(2020 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版)
・出血リスク(HBR, HASBLED score, 手術や処置のリスク)
・血栓リスク
・周術期抗凝固薬の扱い
・ACS後の非心臓手術(タイミングなど)
・周術期抗血小板薬の扱い
d. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018 年改訂版)
・慢性冠動脈疾患に対する各検査(核医学検査, PET, coronary CT, CAG, FFRなども含む)
e. 2021 ACC/AHA/SCAI Guideline for Coronary Artery Revascularization
f. A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines
弁膜症
a. 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease
b. A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines
c. 弁膜症治療のガイドライン(2020 年改訂版) (日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガ イドライン)
・術前リスク評価(重症弁膜症患者の侵襲的検査の適応や総合的評価など)
・各弁膜症疾患の成因・重症度・治療適応(FMRにatrialMRの記述は追加されているが、MitraClipの適応は最新ではない)
・機械弁と生体弁の比較(TAVI後も含む抗血栓療法など)
・人工弁機能不全の評価・治療適応(弁形成の術中評価含む)
・手術及び手技による非心臓手術のリスク分類
血管
a. 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020 年改訂版)
(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガ イドライン)
・大動脈基部・上行拡大の手術適応(Marfan, 二尖弁など含む)
・大動脈瘤の分類と手術適応
・大動脈解離の分類・手術適応・合併症(真/偽腔の鑑別, DICのタイプや治療,管理目標など)
・TEVAR/EVARの推奨とエンドリーク
・臓器保護(Adamliewicz動脈や腎など)
・遺伝性大動脈疾患の診断と治療
・大動脈炎や外傷性大動脈損傷、大動脈食道・気管支瘻の治療
b. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017 年 改訂版) (日本循環器学会 他 合同研究班)
・血栓形成の成因とスコアリング(PESIスコア)
・急性PTEのリスクと治療アプローチ(Wellsスコア, ジュネーブスコア)
・急性PTEの薬物治療に関する推奨(DOACの可否など)
・下大静脈フィルターの適応
・CTEPHについて
・DVTの診断・予防・薬物治療・理学療法(周術期の対応も含む)
・妊娠に対するVTEの管理について
心不全
a. 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン(2021 年改訂版)
(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン)
・Destination Therapy選択基準(適応と除外については補助人工心臓治療学会協議会のHPの方が確実に載っています。)
・LVADの統計
・BTTにおける適応基準
・INTERMACS profile
・LVADの周術期管理と遠隔管理
b. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021 年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版)(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)
・心不全の病態分類(HFpEF, HFrEFなど)
・心不全のステージ分類とNYHAの関係(SCAI分類も含む)
・心不全治療アルゴリズム
・一次予防や治療薬の推奨(Fantastic four含むが、イバブラジン・ARNI・SGLT-2阻害薬は2017年版の方が記載が多いです。)
c. 心筋症診療ガイトライン(2018 年改訂版)
(日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン)
・心筋症の分類
・肥大型心筋症について
・拡張型心筋症について
※敗血症性心筋症の記載はほぼなく、周産期心筋症についての記載はほぼないので専門医試験直前講習を参考にしましょう。
d. 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂版) (日本循環器学会 他 合同研究班)
・ACHDの統計やその他総論
・各先天性心疾患の総論
e. 先天性心疾患、心臓大血管の構造的疾患(Structural heart disease)に対するカテー テル治療のガイドライン(2021 年改訂版)(日本循環器学会 他 合同研究班)
・ASDに対する経皮的治療の推奨
・ASD閉鎖術の合併症
・FenestrationありFontan術後の閉鎖の推奨
・左心耳閉鎖や切除の推奨
・TAVIの合併症やアプローチにおける推奨
・TAV-in-SAVの推奨
・PTMCの推奨
・MitraClipの適応の2023年度受験における最新版
・心筋梗塞後心室中隔穿孔の管理に関する推奨
・TEVAR/EVARの推奨
f. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017 年改訂版)(日本循環器学会他 合同研究班)
・肺高血圧の定義
・ACHDにおけるPAHへの治療と推奨(未修復のアイゼンメンジャー/非アイゼンメンジャー症例への対応も含む)
・進行する右心不全の管理
・肺移植の適応
g. 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018 年改訂版)
・心房・心室・大血管の各解剖学的特徴(左右位置, 弁の付着など)
・発生と正常の総論
・先天性心疾患の病態
非心臓手術
a. 2014 ACC/AHA Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Management of Patients Undergoing Noncardiac Surgery
b. 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン(2022 年改訂版) (日本循環器学会 他 合同研究班)
・周術期の心疾患別リスク
・術前精査アルゴリズム(RCRI, DASIスコアなど)
・心合併症発症率から見た非心臓手術のリスク分類
・PCI後の非心臓手術に対するリスク評価と管理方法
・非心臓手術後心筋障害=MINS
・冠動脈病変に対する非心臓手術の応対
・重症弁膜症に対する非心臓手術の応対
・各薬剤の周術期の管理
・周術期新規発症心房細動=POAF
不整脈
a. Practice Advisory for the Perioperative Management of Patients with Cardiac Implantable Electronic Devices: Pacemakers and Implantable Cardioverter- Defibrillators 2020: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Perioperative Management of Patients with Cardiac Implantable Electronic Devices.
Anesthesiology. 2020 Feb;132(2):225-252. PMID: 31939838
b. 不整脈薬物治療ガイドライン(2020 年改訂版) (日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
・心房細動について
・心室細動について
・JET(=接合部異所性頻拍)について
・妊娠中の不整脈対応について など
c. 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版) (日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
・各植え込み型デバイスの種類と説明
・ペースメーカー適応
・ICD適応
・CRT適応
・経皮的リード抜去術の推奨
・アブレーションと不整脈外科手術について
医療安全
a.「WHO 安全な手術のためのガイドライン 2009」 http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/20150526guideline.pdf
・タイムアウトの方法
・周術期予防的抗菌薬の推奨
・清潔操作について
・周術期の患者環境について(剃毛など)
・手術室環境について(気圧や教育習慣など)
・消毒薬について
・SSIのリスクや統計について
その他(集中治療、感染、輸血、合併疾患)
a. 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版) 日本循環器学会 他 合同研究班
・手術適応について(緊急かどうか、中枢神経系合併症の場合どうするかなど)
・予防的抗菌薬投与の考慮(歯科治療、ACHDなど)
・IEの診断と治療
・心臓デバイス関連IEの対処法
b. 脳血管障害、慢性腎臓病、末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドラ イン(2014年改訂版)日本循環器学会他 合同研究班
・頸動脈狭窄症に対する治療適応(CEA, CAS)
・周術期脳血管障害のリスク因子
・CKDの分類と定義
・コレステロール塞栓症について
・末梢血管障害を合併した心疾患の管理について
c. Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018
・ABCDE bundleについて
・POD/POCDについて
d. 心臓血管麻酔における近赤外線脳酸素モニターの使用指針(2017 年改訂版) (日本心臓血管麻酔学会 学術委員会脳脊髄部門報告)
・周術期脳障害やPODの統計
・心臓手術のNIRSの変化に対する対応
・CEAの適応と術中NIRSの変化についての解説
・小児心臓血管手術における脳障害とリスク因子
・rSO2の基本的事項と過大・過小評価される場合について
e. 心臓血管麻酔における血液粘弾性検査の使用指針(2019 年改訂版) (日本心臓血管麻酔学会 学術委員会血液凝固部門報告 )
・人工心肺使用症例における周術期凝固障害の病態と特徴
・周術期一般凝固関連検査
・周術期血液粘弾性検査の特徴と比較(TEG6s, ROTEM, Sonoclot)
・血液粘弾性検査結果から見る周術期止血治療の推奨
f. 心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(日本循環器学会 / 日本産科婦人科学会合同 ガイドライン 2018 年改訂版)
・妊娠・分娩時の循環器系の変化
・妊娠・分娩時の凝固系の変化
・心疾患妊婦のリスク分類(modified WHO score)
・心疾患合併患者の帝王切開の適応と麻酔法について
・妊娠中の不整脈について
JSCVA推奨以外に参考にしたガイドライン
術後感染予防抗菌薬適正使用のガイドライン(2016年改訂版)
・周術期の抗菌薬の使用方法について
MEPモニタリング時の麻酔管理のためのプラクティカルガイド(2018年改訂版)
・MEP値変化時の病態の把握と対応について
心臓血管麻酔におけるスワンガンツカテーテルの使用指針(2020年改訂版)
・SGCカテーテル縫込みによるアクシデントの対策について
不整脈非薬物治療ガイドライン(2021 年改訂版) (日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン・フォーカスアップデート版)
・リードレスペースメーカーについて
・終末期医療におけるICD
・経皮的リード抜去術について
・AFの予防や停止目的の心房ペーシングについて
・カテーテルアブレーションについて
・左心耳閉鎖デバイスについて
まとめ
長くなってしまい申し訳ありません。
目次からとんで参照していただければ幸いです。
ガイドラインは全て最新のものが試験範囲とは限りません。どれが試験範囲に該当するものなのかをしっかり確認した上でどこに何が書いてあるかを確認していくとよりスムーズなものになると思います。
今回受験して感じたのは、一般問題はガイドラインに載っている内容かつ過去問から少しずらしたような問題が多い印象でした。過去問を中心に、その派生知識までを各ガイドラインで読み深めていただくといいかも知れません。
巷に出回っている過去問は回答が間違っているものも多々見受けられます。それを鵜呑みにすると思いがけず点数を落とすことが多いです。自分で確認されることをお勧めします。