狂うcrew

 1963年、アメリカの建築家・思想家であるバックミンスター・フラーが、資源の有限性や、資源の適切な使用について語るために、こんな言葉を提唱したらしい。

     宇宙船地球号

 僕らはその乗組員。昨日も、今日も、そして明日も。宇宙船は水とタンパク質といっぱいの夢を乗せて、広大な宇宙を旅している。

 乗組員は、宇宙船の中に宇宙船を作って、またその中にも宇宙船をたくさんの宇宙船を飛ばした。今日は、その中の一つの宇宙船に他の宇宙船たちが集まる日らしい。でも、なんだかおかしい。宇宙船たちは、1年も放置したおにぎりにたかったハエみたいに無秩序に飛び回っている。レイノルズ数が、大きすぎたのかな。

 宇宙船に乗った人が、別の宇宙船を見かけたら「ヤッホー」ぐらいのあいさつはするだろう。でも今は誰も何の声もかけない。自分の宇宙船の中のことで、忙しいからね。しかも声をかけたとしても、聞こえないらしい。空気がないからあたりまえだよね。

 それでも、向こうの宇宙船に誰かを見つけた。僕を見て何か言う。何を言っているかはわからない。狂っていることだけはわかった。僕も、狂ってみることにした。

狂う❗狂う❗クレラップ❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う狂う狂う狂うクレラップ❗クレラップ❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗

 奇怪な踊り付きだ。相手も、同じように踊り出した。賑やかに、しかし静かに。ひとりで、しかしふたりで。踊り狂ううちに相手の宇宙船は見えなくなっていた。

 宇宙船はさらに集まってきていた。クレラップはしてあったみたいだけど、もうそんなの意味もない。1年も放置してたんだから。ハエたちが言う。

狂う❗狂う❗クレラップ❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う狂う狂う狂うクレラップ❗クレラップ❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗狂う❗

 宇宙船の窓に立つ。窓を殴った。破れてしまった。頑丈に見えて、実はクレラップだったらしい。僕は広くて狭い宇宙の中に、一瞬のうちに放り投げられてしまった。

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