コーラと過去と今と将来

小さい頃、私はあまりコーラが好きな子供ではなかった。
「コーラは骨が溶ける」と言っていたのは今年で77になる祖母だったであろうか、私はそれを信じていたわけではないと思うが単純にコーラという飲み物が好きではなかった。そのくせ三ツ矢サイダーやファンタなんかはガブガブ飲んでいたから不思議なものである。
コーラが美味しい飲み物であると思うようになったのはむしろ20を超えてからだ。暴力的な糖分と抜群の炭酸感は夏の焼けた喉への最大級の勲章である。どうして幼少期にはこの味を敬遠していたのか、今では到底理解できない。

幼少期に抑圧された欲求が大人になって何らかの形で現れることはよくあると、心理学系の授業で聞いた気がする。まあそんなに大層な話ではないが、実は私は昔からコーラを飲みたくて、その欲求が大人になってようやく解放されただけのことかもしれない。

当然だが炭酸飲料というのは蓋を開けたまま放置するとどんどん炭酸が抜けてしまう。ポコポコ、ポコポコ。実は地球温暖化は化石燃料ではなく、炭酸飲料から抜けた二酸化炭素に起因するものではないかと思ったことすらある。ポコポコ、ポコポコ。まるで私のようだ。管理された場ならある程度真面目な顔をしているかもしれない。だが放置的な環境ではすっかり気が抜けに抜けきってコーラも黒い砂糖水だ。どうも大学院という場所は後者らしい。ポコポコ。ポコポコ。

去年、祖父を亡くした。2人ともだった。この夏が初盆というやつなのだが、院試を口実に実家にも帰らずこうして東京でpcを叩いている。ポコポコ、ポコポコ。残る院試はオンライン口述試験だけなのだから、帰ろうと思えば、帰れたはずだ。ポコポコポコ、ポコポコポコ。さっき調べて気づいたのだが、東京の盆は7月中旬で、もう過ぎているらしい。東京、3年以上いるのに未だに慣れない土地。故郷とは何もかも違う土地。彼らの魂は、ここには来ないかもしれない。



ポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコ。

ポコ

ポコ

ポコ

まあしかし、炭酸の抜けきったコーラが無価値であるとも限らない。炭酸抜きコーラがエネルギー効率がいいという話もある。炭酸抜きコーラは、炭酸抜きコーラの戦い方をしようや。ポコ、ポコ、ポコ。

あの夏も、炭酸の抜けきったコーラが、あったかもしれない。抜けた炭酸は戻ることはなく、外気に混じって地球温暖化に多大なる貢献を果たすだけだ。でも人は、意外と変わるものかもしれない。十数年前は、三ツ矢サイダーは大好きだったが、コーラはあまり好きではなかった。でも今は、コーラも普通に大好きだ。ちなみにコカコーラよりペプシ派だ。


砂糖水を飲み干した。

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