【クッキー☆SS】新年には永遠の一瞬を君だけに
この記事はブロマガからの移植記事です
正月の朝に思いついた
ほんへ
新年には永遠の一瞬を君だけに
正月が二階から落ちてきた。えてして季節とはそういうものだ。
「あーねんし。ついに始まっちゃいましたよ2021年が」
「そうっすね、録画したガキ使と紅白いつ見ようかな~」
年末、私たち二人は各部屋でお互い作業通話しながら年を越すことになった。
実にMAD作者らしい年越しだ、そうだルルォ?
私の部屋にテレビはないので(デジタルに移行するのがめんどくさかった)年始用に特別に組まれた番組は見ることができない。
一応新年用の演出としてコンビニで小さいおせちを31日に買っていたのでこたつがあるしりりの部屋に行く。
今年の寒さはほどほどに記録的なものでありもうそろそろ雪でもちらついてくるのかしらとふと脳裏によぎった。
「凍えてしまうよ~、毎日吹雪吹雪氷の世界~♪」鼻歌を歌う。初鼻歌かこれ?
「あっ、あけおめっす。今年もぼちぼちやっていきましょう」
「おめでとう、いや~寒いですね~」作業中に来ていた着る毛布を脱いで私はこたつに潜り込んだ。
……新年だもの、こたつで丸くなったっていいじゃない。
先に入っていたしりりの温かい足が、私の冷たい足に触れた。
「うわっ冷たっ、くっつかないでくださいよ寒いから」
「許し亭許して」
「やだ、許さない、暖かくなるまではね」
ふふっとしりりが笑った。私もつられて笑う。
数の子や黒豆をポリポリつまみながらしりりのタブレットで新年に作られたクッキー☆動画を見る。
しりりはもうすでに日本酒を2.3杯と煽っており私もそれにつられて飲むことになった。まあ多少はね?
「この動画いいっすね~」
しりりが感想を言う、私も感想を言った。お互いMAD作者であることの幸せだろう。
「ん~、ここの部分はこうしたほうがいいんじゃないですかね?」
「あー、確かにそうですね、でもこれは多分こうなんじゃないかな」
作者としてのタイプが結構違う二人なので意見が食い違うこともあるがそこを議論するのはまた楽しい。
そうやってしばらくこたつとニコニコ漬けになっていた自分たちだがそこにあっというマヌケな声が響いた。
「そうだ、午後になったら初詣に行きません?」
「え、やだ」
「そんな~」肩を落とすしりり
「私祭りとかって苦手なんですよね、あの人が大量に集まるところとかにぎやかなところとか」
……自分だけ一人取り残されたように感じるから。
「知ってますよそれくらい、近所にクッソ寂れた神社あるじゃないですか、そこに行くんですよ」
「あーあそこか」
そういえばそんなところあったな……
「一年の計は元旦とおみくじの運試しにあり! ということでサクッと行ってサクッと帰ってきましょう」
「まあしりりがそう言うなら……」
実のところ今年の運勢は気になっていたので私たちはおせちもそのままに外へ出かけることになった。
外は凍えるくらい寒く二人して真っ白い息を吐く。
近所にある神社はこのかき入れどきでも人がほとんど居なくて実に私好みの場所になっていた。
「こっとしの運勢は何かな~」
セルフ販売のおみくじ箱を振る。
「36番、普通だな! じゃあ次矛盾さん」
「……2番ですね じゃあいっせのせでおみくじ開けましょう」
そこには大凶と大吉が書かれていた。
「大凶! ふ、普通だな!」
「というかこの神社大凶とか入ってるんですね……」
「やだよ~ 速攻でぶら下げちゃお」
読み上げもそこそこにおみくじをぶら下げる ところでこのぶら下げる奴はなんて名前なんだろう?
「いや~、いい新年になりそうですね!」
「クッソ、かなしい。お前も大凶になれ~」
「近づかないでくださいよ、大凶が移る」
「大吉だからといい気になりやがってよ~」
恨みがましい目で見つめられた。勝負(?)に勝つというのは素晴らしいことだ。多分、
「じゃあ次はお参りですね、私作法とかわからないんで適当にすませて帰りますよ」
「はいはい、五円玉っと……」
五円玉を賽銭箱に投げ入れる、カランコロンと鈴の音が響いた。
お願い、そういえば考えてなかったな…… まあ現状維持で。
「よしっ 終わったんで帰りますかー」
「おっそうだな、こたつが恋しいです」
神社を後にする。
「そういえばしりりはなんて新年のお願いしたんです? 私は現状維持で」
「無難ですね、俺は一攫千金かな~、MADだけ作って生きていきたい」
「同感です」
年明けの仕事は多分つらいだろうが今は考えないことにした。
「……本当はですね」
「はい」
「二人で楽しく動画とか作りながらずっと過ごしていきたいなって願いました。現状維持と似たようなものっすね」
「……なんだ、私と同じじゃないですか、ハッピーアイスクリームってね」
「それ俺でもギリギリ伝わらないすよ」
「ということでアイスでも買っていきますかー、ふふっ」
なんだか私は無性に嬉しくなってコンビニへとしりりを引っ張るのであった。
いつかはこの幸せな日々も終わるのだろう、だけれど今この瞬間だけは永遠だ。
そんな永遠の一瞬を感じた。
終
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