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「贈与」がつくる社会の話

最近、社会学について学んでいるのですが、贈与についての自分の考え方がある程度まとまってきた感があるので、今日はそれをシェアしたいと思います。

贈与とは

「贈与」という言葉は、単に誰かが他の人に何かを与えることだけを意味するわけではありません。社会学者のマルセル・モースは、贈与には「与える義務」「受け取る義務」「返礼する義務」の3つの義務が含まれると言いました。

義務というと少し固い印象があるのですが、要は何かを「贈与」されると、「お返しをしなきゃ!」というプレッシャーを感じて、これが「返礼の義務」として作用し、贈与と返礼の循環を回すというのが「贈与」の全体像ということです。

贈与は、物質的なプレゼントだけでなくて、「人から親切にしてもらった」「助けてもらった」などというったことも含まれます。

また、この返礼は必ずしも贈り主に直接返すものではなく、別の人に返す場合もあります。

サークルの先輩に奢ってもらいまくった人は、大体後輩にちゃんと奢る先輩になるアレです。

つまり、贈与とは 一 対 一 の関係のみではなく、一 対 多 の関係を構築していく社会的行為だと言えます。

贈与と交換

贈与と同じように語られがちで全く違うのが交換です。交換を否定するというよりは、全く別ものであることを示す意味で触れておきたいと思います。

交換は等価のものを物物する行為です。交換をよりメリットのある形で行おうとする考え方が経済活動です。

100円で100円以上の価値があるものを買いたい(お金と者の交換)や、
できるだけ少ない時間で会社で働いて、そこそこ稼ぎたい(給与と時間やスキルの交換)といったことです。

交換は自ずと「早い・美味い・安い」に代表されるような、タイパやコスパといった利害を重視した考えに至ります。この指標をみんなで目指し、競走し、競走に勝てばその分だけ富を得て、その富でまた競走に参加する。
交換という側面から資本主義を説明した場合の根底にある考え方です。
結果として世界の生産性は上がり、人々の生活が豊かになっていました。
その上を私達はいま生きています。

それに対して、贈与は見返りを求めるのではなく、「もらったから返す」の動機に基づいて行われ、 贈与を与える行為自体は一方的であり、贈与が生み出す連鎖は一 対 多であり、与えることによって、得することを意図しないという点で全く別の考え方になります。

行き過ぎた資本主義に警笛を鳴らす論者が贈与を引き合いに出して議論する背景には、交換と贈与の混同や、交換を基底にした倫理観で育ってしまった人々では社会が作れないという問題意識があると思います。

コスパやタイパを重視した人間関係などありえない。
贈与から関係を作っていくんだということです。

贈与は受け取る技術

贈与と社会の議論をするうえで重要なことは、人は生きていく上で、外の世界に開かれていくことが大切であるということです。

モースが語る3つの義務に基づく議論は、人間や社会が自己完結するのではなく、他者に心を開くことの重要性を示しています。彼は、贈与による交換関係が「人間存在の基底」であると考え、人間が個人的にも集団的にも自分の殻に閉じこもるのではなく、外の世界に心を開くことが大切だと主張しました。

※以下一部抜粋
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00115.html

贈与の連鎖を始めるために重要なのは、自分が何かを受け取っていることに気づくことです。そのため、贈与を行う人にとって大切なのは、自分が誰から何を受け取っているのかに気づこうとする感受性です。心のテクニックとも言えるのかもしれません。
たとえば、両親からの愛情や、先人から託されたものを受け取ることができれば、「もらったから返そう」という意識は勝手に生まれて、それが贈与の連鎖を生み出します。

締め

交換の関係性の渦中の人間は孤独です。
仕事を頑張り方を間違えて、それ以外のものをすべて軽視したり、切り捨てたりしていく中で、気づいたら、すべての人間関係が交換可能なものになっていきます。昔の自分です。
自分自身も利用されたり、利用されそうになったりということがたくさんある中で、自分から関係性を作りにいったり、こころ配りをしたり、困っている人を無条件で助けたりと、本来できていたはずの人間らしいことができなくなって、一人ぼっちな気持ちで心をすり減らして生きていた時期がありました。

でもそれでは、経済回って社会回らずになってしまう。

自分が何を受け取って来たのかをただ見つめて、周りの人に少し返してみること。挨拶程度からでも、一人一人が少しずつ始めていけば、社会包摂が機能する、みんなで笑える社会ができるのではないかと考えます。

そこにパワフルさはいらない。優しさだけあればいい。

啓蒙の一矢をここに残します。自戒を込めて。



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