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宙ぶらりんに耐える力

21世紀は医学に「正解がある」と信じられている時代です.だからその正解を学びマスターしたと信じるひとが,その分野の指導的な役割をやっています.そういったひとにとって,わかっているのは当然のことであって,それにたいし「わからない」というのはバカかもしれません.

わからないから自分の思考法でものを考えると,「なんだそれは」とへんな顔をされます.「正解」の有効性を信じるひとたちには,それはふまじめでおもしろくない行為なのかもしれません.しかしわたしがわからないと思うのは事実で,そのわたしが自分なりにわかろうとしてもいいのではないでしょうか.

もしかしてわたしたちにとって,わけのわからないことやどのようにしたらいいか決められない状況というのが,いちばん耐えがたいことかもしれません.わからないことが目の前にあると,わたしたちは不安でしかたがないのですが,わたしたちの心というのはもともとそのようにできているものなのでしょう.

だからわけのわからない,解決の道筋がまったくみえない問題にぶちあたったとき,適当につじつまをあわせて強引に終わらせたり,あるいは解決の方法がありそうなちがう問題にすりかえてしまうこともしばしばです.そんなときにもっとも有用なのが実は「ガイドライン」といわれる公認の解決法なのです.

しかし考えてみてください.わたしたちのもともと人生というものは,そういったどうしようもない,とりつくしまもないことがらに満ちあふれているはずです.わかりやすくて,解決の方法がすでにあるような問題のほうがまれなのです.わたしたちはそういった答えのない宙ぶらりんのなかを生きています.

そんなときでも,性急に結論めいたものを求めず不確実さや懐疑とともに生きていけるか.わからないことや解決できない不安を,それはどうしようもないことと受け入れながら,そういった宙ぶらりんの状態で生きていけるか.そういった能力はわたしたちにとってとても重要ではないかと最近思っています.

これはなにも医学だけの話だけでなく,人生の多くについて言えることです.妊娠して不安だから出生前検査をうける.新型コロナが流行し不安に耐えかねてPCRの無料検査をうける.原発事故後の福島で甲状腺検査を受ける.そうではなく不確実性のなかで宙ぶらりんの状態を受け入れていく力が重要なのです.

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