植物分類学者 牧野富太郎博士や植物の専門家の視点で見る「かんきつ類」の話
はじめに
クラフトコーラ製造販売を行うにあたり、構想段階から原材料として考えている素材に関する専門的な知識はつけておきたいという気持ちをもっています。
『かんきつ類』は高知県の特産品のひとつであり、私のクラフトコーラの原材料でなくてはならない存在です。
いろいろと調べる中で、植物分類学者の牧野富太郎氏が執筆した『植物知識』という書籍の中に、かんきつ類に関する非常におもしろくて興味深い記述がありました。
2023年4月に室戸健康大学で講演させていただく機会があり、今回の記事の内容で講演しました。受講生(室戸市民や室戸市街の高知県民の方々)も興味をもって聴いてくださっていたようです。
講演原稿・スライド内容を再編集し、また、講演後に質問をいただき勉強不足のため回答できなかったことについて、こちらで掲載させていただきました。
また、私自身は植物学の専門家ではありません。
しかし以前、植物学の専門家に調べ方など様々なご指導をいただいた経験があるため、それを活かしながらの執筆となっております。
文章の誤りなどお気づきの点がございましたら、遠慮なくご連絡ください。
質問1 『花』とは、何ですか?
花は種子を作るために存在しています。
では、なぜ種子を作るのでしょう。
種子が必要な理由は子孫を残すためです。
つまり、植物にとって、花は生殖器なのです。
地球が存在する限り、種子さえあれば、その種は絶滅することはありません。
種子さえあれば、その種の植物が絶滅することがない。
ということは、生物の本能として、守りたいハズです。
だから『果実』があります。
質問2 『かんきつ類』の『果実』『果肉』はどこですか?
皮まるごとの部分が果実です。
私たちがよく食べている部分は、何という部分なのでしょうか?
実は
『毛』
なんです。
正しくは『毛状体』と言います。
この『毛』の中に汁があって、これがめちゃくちゃおいしいのです。
『毛』が内側に向かって生えていることが不思議に思う方が多数だと思います。私も、はじめは不思議に思いました。
そんな方たちのために、内側に向かって「毛」が生えている例を出します。
私たち人間のや喉・腸には、異物を排除したり栄養分を吸収するために「毛」が生えています。(喉は線毛、腸は腸絨毛)
かんきつ類の『果実』の中に『毛』があってもいいと思いませんか?
では、『果肉』はどこですか?
かんきつ類に『果肉』はありません。(植物学上の話)
植物学上、『内果皮』(上の画像参照)が肉質もしくは多汁質のものの時にその部分を『果肉』といいます。
かんきつ類の『内果皮』は、ペラペラです。肉質とも多汁質とも言えません。
したがって
かんきつ類に『果肉』はない。
ということになります。
質問3 『たちばな』って、どんなかんきつ類ですか?
その1 田道間守(たじまもり)由来のもの
『キシュウミカン(コミカン)』
大昔に田道間守(たじまもり)が中国東南部から持ち帰ってきました。
田道間守:古代日本(日本書紀や古事記の時代)の人物。かんきつ類の神様ということからお菓子の神様としても祀られています。
その2 日本にあった野生由来のもの
九州・四国ならびに本州の山地の野生のミカン類の一種。
この『タチバナ』は黄色の果実、小さく、果汁が少ない上に種子が大きいものでした。
高知(土佐)出身の2人の人物が名付けに関わった『たちばな』
日本にあった野生由来のものは、高知(土佐)出身の人物2人が関わっていくことになります。
この種は後に『ヤマトタチバナ』と田村利親(たむらとしちか)氏が改称しました。
この田村氏、実は、当時のかんきつ類の第一人者で土佐出身でした。
そしてその後、『ニッポンタチバナ』に牧野富太郎氏が改称しました。
なぜ牧野氏が改称したかというと『ヤマトタチバナ』という名前が、田村氏が名付ける前に、他の種の名前になっていることが判明したためです。
つまり『たちばな』は複数の品種の呼び名として使われている
『キシュウミカン(コミカン)』
『ニッポンタチバナ』
よく見る表記『橘』は、どちらを指しますか?
『キシュウミカン』でも『ニッポンタチバナ』でもありません。
クネンボの漢名(中国語での表記)を指しています。
ちなみにクネンボとキシュウミカンの掛け合わせでウンシュウミカン(温州ミカン)が誕生しました。
植物学における植物名の表記について
植物学において、日本にある植物を漢字表記することはないようです。ラテン語で学名を表記するか、カタカナで標準和名を表記するかのどちらかということです。
この記事は『学者視点』と銘打っているので、植物の分類上の名称はカタカナ表記にし、一般的な呼び名はひらがな表記にし、漢字表記は避けるようにしております。
ひな飾りの『たちばな』の植物学的な分類は何ですか?
ひな飾りの『たちばな』は『右近のたちばな』と呼ばれています。
田道間守に由来する果実ということなので『キシュウミカン(コミカン)』を指していると思います。
余談
植物は『種子さえあれば絶滅しない』
この言葉から故・アントニオ猪木氏の名言のひとつを思い出しました。
それは『元気があれば何でもできる』
『元気』というと『健康』という言葉が真っ先にイメージされますが、この『健康』は『明るさ』『充実』というふうにも考えることができると思います。
『身体』面でだけではなく、『精神』面での『元気』があれば、大抵のことはできる。私はそう感じています。
さいごに
今まで『なんちゃあない(土佐弁:なんでもない。いつものこと)』と思っていたことでも、視点を変えると、全く新しい世界が見えることもあります。
視点を変えることを怖がったり、めんどくさがることせず、いろいろなことに目を向けてみてください。
たぶん、楽しくて、おもしろい世界が見えてくると思います。
実際にわたしは、先入観を取り除いて、視点を変えたら、その楽しくて、おもしろい世界が見えてきました。
そして今、この記事を執筆しています。
皆さんも、たまには『視点を変える』ということをやってみてください。
参考資料
『植物知識』 講談社学術文庫529 牧野富太郎 講談社
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
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