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to doではなく、to beであろう

大家さんとして、自分の物件を差別化しようとして情報収集を頑張っていると、アクセントクロスやDIY可、最近では猫ブームにあやかってか、保護猫付き賃貸!なんて思い切ったコンセプトの物件まであることに気がつきます。

もちろん、他の物件と横並びでは決め手にかけて選ばれないので、なにか差別化をしないと…という考え方は大正解だと思います。

ただ、その時の差別化に向き合う姿勢について、実は重要なことがある。というのが今回のnoteでお伝えしたいこと。


「選べる壁紙」と「DIY賃貸」

最近、僕が仲良くしてもらっている大家仲間に、大家の学校を運営する青木純さんと、HandiHouse projectの加藤渓一くんがいます。


青木さんは2011年の震災の年の1月に、おじいさんの代から続く東池袋の賃貸マンション「ロイヤルアネックス」を引き継ぎ、大家さんになりました。そして3月に忘れもしないあの大震災があり、空室率が一時30%近くまで上昇してしまいました。

そこで青木さんは、新たな価値を提供しないといけないという危機感から、入居者が数千種類もある壁紙のカタログ帳から自由に選んだ壁紙を、入居前に大家側の負担で無料で貼って引き渡す、「選べる壁紙」というサービスをつくりました。

この仕組みは様々なメディアにも取り上げられることで瞬く間に評判になり、空室だらけだったマンションは入居待ちの行列ができるような人気マンションへと生まれ変わりました。

この成功から、賃貸物件においてアクセントクロスは入居者に人気らしい、という噂が広まり、差別化のためのテクニックとして盛んに謳われるようになったように思います。

青豆ハウス_1


次に、加藤くんの話。

2011年に結成されたHandiHouse projectは、「妄想から打ち上げまで」をコンセプトに、自分たちの暮らす空間をDIYで作りたいと願う施主に寄り添って、設計から施工までの全プロセスに施主を巻き込みながら家づくりを完結させる建築家集団です。

彼らが登場した頃から、URがDIY可能な賃貸の提供をはじめたり、国交省がDIY賃貸のガイドラインを作成したりと、以前は許可を得ることが難しかった賃貸物件のDIYが、貸主・借主双方にとってメリットがある形で可能になることが増えてきました。

アパートキタノ_1



2019年には、京王線の北野駅から徒歩15分と、恵まれているとは言いにくい立地に建つ、築26年の単身者向け3点ユニット18㎡のよくあるワンルームマンションの床と壁の一面だけを合板に貼り替え、合板の部分だけは改装自由&原状回復不要にした「アパートキタノ」のプロジェクトをスタートさせます(こちらで募集中です)。

そして結成から10周年を迎えた2021年、HandiHouse project自体が貸主となって、入居者が自らの手で空間をカスタマイズしながら暮らせるDIY賃貸事業、『Handi Apartment project』を立ち上げました(第1弾となる物件はこちらで募集中です)。

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2つのプロジェクトに共通するのは、そのままでも暮らせる最低限の改装までは大家側で行った上で、改装自由とする箇所を合板部分に限定していることです。


最近では僕がはたらく東京R不動産でも、築年が経過した実家を引き継いだ相続人の方などから、最低限住める状態にするまでに多大なコストがかかりそうな物件を、DIY可能物件として募集できないか?というご相談を受けることも多くなり、DIY賃貸というジャンルが広く認知されはじめてきたことを感じています。


本質はどこにあるのか?

このように差別化の手段として語られがちなアクセントクロスやDIYですが、実はこれをテクニック論、すなわち『to do』の文脈で捉えると、入居者が本当に求めているものとはズレが生じてしまうことが多いんです。


青木さんの例でいうと、重要なのはアクセントクロスが貼られて見た目が変わったという事象ではなく、入居者が自ら選んだという行為だということです。

壁紙を選ばせてもらった入居者には青木さんに対する感謝の気持ちが生じ、新たにマンションの入居を検討する方に対して、自らが居住中の部屋を青木さん立ち会いのもと内見させることに進んで協力をするようになりました。

このことで新たな入居者は、このマンションでどのような暮らしが広げられているのかや、入居者と大家である青木さんの良好な関係を目の当たりにして、ここに住みたい!と背中を押されるわけです。


「選べる壁紙」がはじまる前の従来の賃貸物件の常識では、前の住人が退去した後の部屋は、内見時の見栄えがいいよう速やかに真っ白な壁紙に貼り替えられていました。

青木さんは、この壁紙を貼り替えるタイミングを、新しい入居者が決まってからにずらすことでこの仕組みを可能にすると同時に、賃貸住宅でも壁紙を好きに選べるという自由を入居者に与えたということになります。

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その後も青木さんが手掛ける賃貸物件では、入居者が自ら壁を塗装できるサービスや、間取りすら入居者が選べるオーダーメイド賃貸などもはじまっています。

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またDIY賃貸は、国交省のガイドラインによると貸主にとって改装費用を抑えられるメリットがあると謳われていますが、改装自由とはいえ最終的には大家側に返さないといけない賃貸物件に対して、実際問題いくらまでコストをかけられますか?という視点が忘れられてしまっている相談があまりにも多いと感じます。

それこそ18㎡、約5万円の賃貸物件に入居する方が、果たしてDIYに50万円、100万円とかけるでしょうか?ましてや大家が親から相続したボロボロの100㎡の戸建を、どうぞご自由に改装してください、と渡したところで入居者は500万円、1,000万円とかけるでしょうか?

その可能性もゼロではありませんが、なかなか高いハードルになってしまっているように思います。


加藤くんの例で重要なのは、そのままでも住める状態まで大家負担で改装したうえで、さらに改装可能な箇所を合板部分に限定することで、入居者の改装に対する心理的、費用的ハードルを下げつつ、退去時に貸主の原状回復コストが嵩みそうな部分も限定しているという仕組みです。

アパートキタノDIY_1


to doではなく、to beであろう

重要なことは、アクセントクロスを貼ったことでもDIY可能で貸し出したことでもなく、入居者の視点に立つということなんです。

「賃貸住宅だから白い量産クロスで我慢するしかない」と諦めていた入居者が、自ら壁紙を選ぶことができる自由を与えてもらえることの喜び、新しくはじまる暮らしへの期待感を想像してみること。


大家側で改装費用を負担したくないので、どうぞご自由に。ではなく、入居者が自分らしい暮らしを楽しめる賃貸物件を提供してあげたいと願うこと。

DIYは大家が投げ出した結果であるべきではなく、大家が自由を許容した結果であるべきなのです。

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つまり、これらを流行っているから真似をするといった『to do』のテクニック論で捉えるのではなく、入居者の暮らしを思いやり、寄り添うことができる大家という職業において、自分はどんな価値を提供できるのか?、どんな大家でありたいのか?という、『to be』の部分こそが本質的に重要なことなのです。


ということで。

汎用性を持たせたくて抽象的なタイトルにしてみましたが、伝わりましたでしょうか…?

素敵な大家さんが世の中に増えることを願いつつ、今後もnoteを書いてみたいと思いますので、まずは眠い目をこすって朝4時までかかって書き上げた僕のnoteへの、いいねやフォローで寄り添うところからはじめてみてください 笑。


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