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転機となった事件の話 #3

僕が不動産をホビーにすることになったキッカケとなる事件の第3話です。1話2話がまだの方はそちらからお読みください。


切り拓かれた新たな人生

事件の対応をしている最中は、怒りや悲しみに暮れている余裕がなく、とにかく頭を切り替えて、業務として必死に向き合っている感じでした。

犯人が逮捕され、失ったものが戻らないことがわかり、先祖代々の土地の売却が完了すると、次にやってきたのは「土地の売却で祖母が手に入れてしまった現金をどうするか?」問題です。


祖母がこの先何年生きるかは誰にもわかりませんが、84歳にして不動産を手放し、資産のほぼすべてが「現金」になるというのは、相続対策の視点からみれば最悪です。

ここまでに1.3億円の資産を失ったあと、泣く泣く手放した不動産が現金になったまま万が一祖母に他界されれば、またそこから相続税をしっかり納める必要が生じます。

落ち着く暇もなく、僕はこの対策について考えることになりました。


相続対策失敗の悲劇

祖母は商売人ならではの強烈な個性のあるキャラで、僕が不動産を仕事にしたのちも、なにか意見を言おうものなら、「自分の経営する不動産には一切口を出させない、自分の力でここまでやってきたから、全部自分でできる。相続対策もしっかりやってあるから口出しは一切無用」と、聞く耳持たない強さがありました。

ですがいざ蓋を開けてみると、祖母の相続対策は残念なことに本人と税理士さんの知識不足によりまったく間違ったものになっていました。


僕は税務の話をできる人間ではないので、ここで詳細な話は差し控えますが、ざっくり言うと、祖父名義の土地の上に祖母名義のアパートを建てたことで相続対策をしているつもりでしたが、「祖母が祖父に地代を払う」というポイントが抜けていたが故に土地の評価額を下げられる要件を満たさず、なんの対策にもなっていなかったということでした。

そして祖母は生命保険にすら入っていませんでした。つまり、すべて万全と聞いており、口出しを許されなかった祖母の相続対策は、0点だったということです。


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ネガティブをポジティブに

もうここまでくると、自分の人生に大きく関わる相続の話なのは間違いないのですが、一連の流れにドン引きしすぎて「相続に完璧なまでに失敗した、ある残念な一家の話」として妙に客観的になってしまう自分がいました。

ただ、僕自身はとにかく終わったことを引きずらない性格なので、この状況をどうやったらプラスに変えられるのか?としか考えません。


さてどうするか?

ここから一瞬だけ、相続の税務に関する小難しい話をはさみますが、すぐ終わるのでご容赦ください。


不動産屋で働いているとはいえ、相続のことになると当時の僕にはほとんど知識がなかったので、自分の身に降りかかってきたこの災難は、モチベーション高く相続の勉強をするチャンスとしてやってきたんだろうと考えました。

相続の本を読み、セミナーや講習に参加して勉強をして、強力なパートナーになってくれる頼もしい税理士さんと不動産コンサルタントの方を見つけ、アドバイスをもらいました。


ぶっちゃけ84歳スタートでできる相続対策はかなり限られているのですが、室田家は長生き家系で祖母も100歳前後までは生きるだろうと誰もが考えていたので、ここからできる相続対策として、祖母が不動産売却により得た現金の一部と、僕の自己資金を出資しあって会社を作り、僕がその代表者となり、融資を受けて不動産を買っていくことにしました。

このスキーム的な話はまたボリュームがすごそうなので、いずれ別の回で書くことにしますが、ざっくり言うと、祖母が僕が設立した会社に出資することで、現金を株式に変え、その会社でローンを組んで不動産を購入することで債務超過の状態をつくり、株式の価値を1円に下げた時点で祖母の株式を僕に贈与する、という方法です。

不動産と法人化を絡めることで、ちゃんと合法的に相続税を回避する方法があるということを学びました。


ただこのスキームの欠点は、会社名義で取得した不動産は、購入して3年の間は購入した取引価格をベースに評価され、3年経過後にようやく路線価評価額に下がるルールなので、この会社で不動産を購入してから3年以上祖母が生きていてくれないと、祖母の持つ株式の評価額が下がらないということです。

つまり3年未満で亡くなってしまうと、祖母の出資した現金の金額そのまま相続税の対象になってしまうことになり、相続対策として失敗してしまうのです(わかりづらい説明ですみません。わかりやすく説明する尺がないのでこのまま続けます)。


不動産をホビーにするコンセプトの誕生

事件の処理は冷静にこなしたものの、自分が相続する予定だった資産がごっそり無くなったことについて、犯人への怒りや恨みといったネガティブな感情も当然にありました。

不動産を購入して賃貸業をはじめるからには、なんとかそれによって失ったものを取り返したい、と思うのは当然です。


ただネガティブな感情が原動力になるのは、なんだか自分らしくないし、なにより楽しめない。そうした感情に自分の人生までコントロールされるのは絶対に嫌だと思いました。

終わったことは変えられないとして、僕が変えられるのは、いかにこの経験をポジティブな原動力に変えて、このことがあったおかげでなにかができたと思えるかどうか。そこにフォーカスしないといけません。


そこで思いついたのが、盗まれた財産をピーチ姫に見立てて、盗んだクッパから取り戻すゲームのような感覚で不動産と向き合えたらどうか?というものでした。

思い立ったが吉日。試しに8bitのイラストが描けるアプリをダウンロードして、まずマリオを描き、少しずつ自分の見た目に寄せていったらなんとなくその気になってきました。


いつかは大家さん=マイクロデベロッパーになりたいという夢がありつつ、いわゆる従来の不動産投資と自分のやりたい不動産のかたちの違いがうまく説明できずモヤモヤしていた自分に、まず「ゲーム」という言葉が浮かびました。

ですが不動産でゲームというと、どうもマネーゲームみたいな印象になってしまいます。


そこで、僕の好きな古ビルや古家をプラモデルに見立てて、それを改造するイメージだったらどうか?小学生男子がハマるホビーみたいなイメージです。

車やバイク、オーディオやレコード、サーフィンや釣りなどのホビーは、それを趣味にすること自体でお金を稼ぐことはプロにでもならないと難しいですが、不動産ならそれを本業にまでしなくても、趣味としてちゃんと手元に収益が入る形をつくれる。

例えば古ビルを自分のやりたいようにリノベーションすることをプラモデル的に楽しんで、コンセプトに共感してくれた方に入居してもらえて、賃料を貯めていくことで次の不動産を購入する自己資金をつくれる、というループが可能なわけです。


そう考えると、リアルなニーズやマーケットと向き合って、銀行から融資を受けてリスクも背負いながら、リノベーションの楽しみやお客さんの共感が得られた時の喜びとダイレクトに向き合える不動産って、大人がホビーにするにはめちゃくちゃ楽しめるんじゃないか?

リアルな世界を舞台にコントローラーを握ってクッパからピーチ姫を取り戻すなんて、VRとかARとかの世界を超えたヒリヒリするリアリティがあるんじゃないか?


いわゆる不動産投資みたいに「資産規模○○億円!」とか誇るダサい価値観ではなく、「あの大家さんの物件見た?ヤバくない?」みたいに、どれだけファンクな大家さんなのか?にリスペクトが集まる価値観の方が絶対面白い。

不動産をホビーとして「楽しんでいる」大家さんがつくるユニークな物件が増えることで、借りる側の欲求のレベルが上がり、つまらない建売アパートみたいな不動産では見向きもされなくなる時代をつくりたい。


どうせホビーにするなら仲間は多い方が楽しいので、建築家や工務店など自分で設計や施工ができる方々、デザインセンスやマーケット感覚が強い広告、出版、デザイン、マスコミ関係の業種の方々、あるいは金融リテラシーの強い業者の方々など、様々な得意ジャンルを持つメンバーも巻き込んで、お互いのやり方から刺激を受けたり、コラボして新たな賃貸の仕組みを発明なんてできたら最高じゃないか。

そんな考えに行きついて、「不動産をホビーに」というテーマに着地することになりました。


強盗に入られたおかけで祖母の資金も入った法人ができて、僕だけの自己資金ではじめるよりブーストされた状態で、想定よりも何年か早く不動産購入のスタートを切ることができている。

僕が大家業を頑張ることで、祖母が生きているうちに1.3億円以上の収益があげられたなら、むしろ強盗に入られたことはプラスでしかないじゃないか。

そう考えていくと、むしろ自分はラッキーなんじゃないかと思うようになり、楽しいことだけ妄想しながら祖母の事件のことはケロッと忘れて楽しく活動しはじめました。


相続対策またしても失敗

こんな経緯があり、最初の物件こそ個人名義で購入したわけですが、2つ目の不動産からは、祖母と作った法人で購入しています。そのあたりの話はまた今後書いていきたいと思います。


ウケるのが、祖母が不動産の購入後3年生きていてくれてはじめてこの相続対策が成立するところだったのですが、なんと、2年半くらい経過した際に他界してしまったんですね…

ということで、最後の望みだった相続対策にも見事失敗…
まさに完封負けってやつです。相続税もキッチリ納めさせていただきました。税金を納めるって、お国のためになっている感覚があって本当に最高の気分です。

せめてnoteのネタにすることでこの話を成仏させようと思って書いています。どうぞご笑納ください。


しかし、相続税対策ってほんとに大切ですよ。

自分が生きてるうちに相続の話なんて!と怒る方もいるそうですが、相続税って支払うのは遺す方じゃなく、遺された方ですから。

まだ生きているのに自分が死んだ時の話をされるのは気分が良くない、という考え方も理解できますが、ちゃんとしてないと遺された方が痛い目に合うこともあるということを踏まえて、親子が団結して然るべき準備をされるのがいいかと思います。


ということで、大変長くなってしまいましたが、僕が不動産をホビーとしてはじめるキッカケになった話でした。

ではまた!


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