あんなに食べてたのに

一時期、精神の調子がやられ、むちゃ食いをしていたことがあった。過食症に似て、満腹ながらも延々と食べ続ける状態である。
はじめのうちは自覚がなかった。メンタルはボロボロだが今日も飯はうめえ!つまり健康!と夕飯を異常に食い散らかしていた。
肉じゃがと鶏そぼろでご飯三杯をいただいた後にラーメンを茹でた。その後に「ゼロカロリーだしいいだろ」と寒天ゼリーとサラダ。そんな食事が三食、どころかなだらかに続いていく。食べ続けているために食事の切れ目がわからなくなり、すべて朝飯であり間食とも言えた。哲学。

当時の職場にも30分かけて歩きで赴いていたため、その合間合間にコンビニに寄って、ポテチかチョコカルシューを買ってポイポイ口に放り込みながら向かっていた。
チョコカルシュー。みなさまもご存じであろう、軽めのシュー生地にチョコが入った甘いお菓子である。
どうやらむちゃ食いをするようになると脂っこいものや甘いものを好むようになるらしく、普段チョコなどあまり食べない私が、知らずのうちにこいつのことを大好きになっていた。味も食感も最上。これが108円で買えるなど夢のようだと。

それからというもの私の鞄にはいつもチョコカルシューがいた。もはや一種の安定剤とも言えた。今日も昼飯食べすぎたな~~、さすがにこれ心も体もイカれてるのでは?と思いつつ、ドーナツを買ったコンビニから出てチョコカルシューを食べる。とくに仕事終わりに帰路につく道で食べる味は格別だった。ボロボロ泣きながら食べても、チョコの味は涙の塩辛さに負けることなくめちゃくちゃ甘くて優しかった。

あ……これたぶん限界なんだろうな……。

そう理解し、何度か病院に通った。おそらく、大元のストレス源が消えれば、自然とむちゃ食いもなくなりますよとのことだった。
そういうことで仕事を辞めた。しばらく続いたむちゃ食いも、気づくとなくなっていた。当時は食べないと寂しい、と思っていたが、それも消えた。

その後、職場も安定し、日常が少しずつ戻ってきた頃に、ひとつ思うことがあった。
チョコカルシュー、神の食べ物かってくらい美味しかったな。また食べるかな、と。
適切な量の昼飯のあと、間食としてチョコカルシューを口に運ぶと、あの頃の味とはまったく違っていた。甘すぎるくらいで、そこまで驚くほど美味しくもない。普通の味で、これは私が元々チョコカルシューに期待する味そのものだった。

そのときやっと、ああ、あれは普通じゃなかったのだなあと、改めて思った。あんなに好きだったチョコカルシューは、もう一度には食べきれなかった。それが普通で、それがいつもの私だった。

好きじゃなくなってよかったと思えることもあるのだ。またひとつ学んだそんな日だった。