俺とおまえと源太郎そば

(前回までのあらすじ)
らんむろには好きな食べ物がなかった。

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好物とは週に数度の割合で食べなければならない。

……と、前のやりとりで勝手ながら思ったわたしは、しばらく「好物」なるアイデンティティを追い求めていた。セブンの鶏ホルモン、スンドゥブ、いももち、蒙古タンメン中本……そのどれもが好きではあるが好物ではなかった。
半年食わないところで名残惜しさもなく、毎日食ったとてその度に新鮮さもない。うまいもんはうまい。俺の舌や感度がバカなわけではない。そう思いたい。ただ、心の底から毎日食べたいと望むような、そんなものに巡りあっていなかっただけなのだ……そう、あの日までは。

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「ここから少し歩いたところにある蕎麦屋がおいしいんだよー」という、職場の皆からの情報をもとに、文京区は春日の「源太郎そば」へと赴いた。
蕎麦は好きだ。もちろん週に数度も食わないが。

しばらく歩くと青を基調にしたなかなかシックな感じの店が出てきた。店内はきれいで、東京ドーム方面の賑わいを考えればびっくりするくらいガラガラだった。

食券機でしばし止まる。「悩んだら辛いもの」をモットーとしている私は「坦々月見そば」をセレクト。

うまい!この店を自宅徒歩五分圏内に誘致したい!

肉そぼろはしっかりピリ辛で、ほうれん草ももやしも相性抜群。つゆは甘めがベースだがラー油の風味が際立つ。蕎麦も気の抜けたフニャフニャの麺なんかじゃない。そのすべてを温玉と絡める!うまい!うまいぞ!
あっという間に完食。膨れた腹をさすりながら職場へ戻り、早くも心に決めたことがひとつ。

明日も来よう。

はじめて訪れた飲食店に「明日も来よう」などと思ったのは生まれてはじめてである。そしてその思考回路をわたしはなにも疑問に思わなかった。この美味しさと手頃さでなにを迷うことがあろうか。

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翌日。
昼休憩を取る前まで、延々と源太郎そばのことを思っていた。そのおかげで外が雨なのも忘れて傘も持たず、しっかり濡れながらの入店となった。

腹を空かす下準備はバッチリだ。ミニ天丼セットを、冷たい蕎麦で注文。

うまい!店主になってフランチャイズ展開したい!

ミニ天丼としては異例の豪華さを誇るメンツであることがお分かりいただけるだろう。注文を受けてから揚げるらしく、衣はサクサクで軽いのでとても優しい。海老は食感よく、キスも小さいながらフカフカだ。
冷たい蕎麦は身がキリッと締まっていて喉ごしがいい。
セルフサービスの蕎麦湯もしっかり香りが立っており、これで汁を割って七味をかけていただけばもう腹の底まで源太郎で満たされること必須。

明日も来よう。

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さらに翌日。

源太郎そばを勧めてくれた御方が出勤だったため、深くお礼をしたところ、「野菜炒めが載ってるやつがうまいよ」と更なる助言をいただいた。

入店。看板メニューである「野菜どっさりそば」!

(割り箸の雑な開け方が、逸る気持ちを物語る)

うまい!これを湯船にして一生食いたい!

見た目だけではミスマッチ感があるだろうが、実際口にするとこれがいかに計算された味かがハッキリする。
胡麻油で炒められたモヤシ、キャベツ、人参はどれも歯応えがよく、甘めの汁と混ざりあって複雑な旨味を醸し出す。これが530円だ。
なんだろうこの満足感は。
旨さと、感動と、それにたくさんの野菜まで。看板メニューに偽りなし。

会えてよかった……ありがとう、源太郎そば。
私はこの気持ちを伝えるため、恩返しをするため、仕事の日は殆ど足を運ぶようになっていた。いや、恩返しなど言葉のあやで、実際うまいから食いにいく、それだけだ。それでいい。食事はそうあるべきだ。

そうして私はある日気づくのだった。いまなら、好物を訊かれたとて怖じ気づく必要はない。

「私は蕎麦が好きだよ。特に源太郎そばの、野菜たっぷり蕎麦にかぼちゃ天をトッピングするのがいいね」

そう答えられるのだ。ありがとう、源太郎そば。

ということで、私は今日も好物を食べに行く。

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おまけ

ということで来た。
券売機の配置が変わっており、「ん?」となっていると、そこには最高の意味で不穏な文言が……。

ヒャッハー!パーリナイの予感だぜ!