夏の最後にセミを食べた記録

「口に入れるもの」としてのはじめての記事がこれでいいのかちょっと思ったが、勢いのままに書くこととする。勢いではじめたブログの正しい使い方だ。ということでさっそく本題に入るとする。

※わかる通り、虫の苦手な方は閲覧をお勧めしない。自己責任でお願いしたい。

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セミを食うことに憧れを抱く私は、少しの緊張を胸に、単身、電車に揺られた。数年前にトルコ物産展かなんかに連れられて訪れた以来の高田馬場に到着。

すっかり暗くなった空のもと、駅から徒歩二分ほどの店を探すのに十分くらいかかった。方向音痴はどんな地図を見てもダメである。
ここでいいのか~~?と怪しい細い道を曲がった先に、店が見えた。「米とサーカス」である。

(以降、写真はこのようにビビるほど下手である)

なんともエキセントリックなたたずまいである。「獣出没注意」とある看板には、動物のシルエットが見える。シカ、ワニ、イノシシはわかるとして、ラクダか~、パサパサしてそうだな~。青や赤のライトに照らされながら店の異様な雰囲気をしばし味わう。
見てわかる通り本来はジビエを専門としている店なのだが、夏季限定で虫も出すとのことだった。

インド雑貨店のようなのれんをくぐり、意を決して扉を押すと満席。空くまでお待ちください、とのことなので、外の様子をもう少し見ることとした。
店外では店と同じカラーリングの自販機と、ひょうきんなキャラクターが並んでお迎えしてくれる。


バチバチに気合いを高めたところで店員さんに呼ばれ、入店。

店内も外と同じく赤っぽいムード。照明は隠れ家的バーよりも暗く、これから俺は未知の食事をする!してやる!という気分が盛り上がる。

カウンター席の端に通されると、隣のテーブルから食欲に訴えかける匂いが。どうやら焼肉をしているらしい。
「こちらハクビシンです。トドとアライグマは売り切れでして~~」
「そうですか!じゃあワニと、カンガルーで!」
まったく価値観の狂う会話を耳にしながらメニューを眺める。
ウサギやクマやダイオウグソクムシなどといったラインナップを完全に無視し、別紙の虫メニューと対峙(韻が踏めた)。セミさえ食えればいい。シャリキンバイスサワーと、お目当ての一品を注文する。お通しは昆布を細く切ったアレだった。普通だ……。

ちなみに、カウンターにはハブ等々が浸けられた瓶が置いてあり、これを隔ててオーダーする。悪い夢のような光景。

メニューと一緒に置いてある絵本「かたあしだちょうのエルフ」を眺めていると、本日の目的のひとつがサーブされた。「セミ殻ムーチョ」!

この絶妙な写真からでも伝わるレベルの虫感。普段目にする脱け殻が皿に盛られて興されている様は実に雄弁である。成虫の七日間(実際、もっと長く生きれるらしいのだが)に思いを馳せながらいただく。
食感はスカスカの海老の頭といったところ。脱け殻を触ったときの感触をそのまま口で受け止める感じである。スパイスで味付けをしてあるが、脱け殻自体は少しビターな味がする。そしてなにより土臭い。この独特の木と地面の味を消すための香り高いスパイスなのだろう。たまに足が口にひっかかるのも海老に通じるところがあった。
うまいか?と言われると「う~ん………」だし、それなら普通に川海老の唐揚げとか食って過ごしていきたい。しかしそんなことはどうでもいい。自分はセミの脱け殻を食べた。ただそれだけの事実こそが大事で、味など二の次なのだから。

隣から絶え間なく流れてくる焼いた肉の匂いに、こちらも食べごたえのあるものを頼もうと、「ナマズの唐揚げ」と本日のメインを続けて注文。揚げ物メニューには「鶏の唐揚げ」があったが、完全に浮いていた。ここは鶏を食べる方が奇特な世界。

(目当てのものではないので写真がいっそう雑)

こちらは穴子に似たあっさりした味。身の弾力がかなりあり、癖になる。こちらは旨かった。

そして本日の目玉!「セミ親子串」がこれだ!

なんだこの絵面は。簡単に言うと幼虫と成虫の素揚げが串にぶっ刺さっているだけで、あとさっき食べた脱け殻もひとつ転がっている。この一皿でセミが見る走馬灯の再現たりうる。親子丼だってこうはいかない。

食べる芸術をしばらく眺めていると、今年の夏のあれこれを思い出した。十数年ぶりに見た打ち上げ花火、血を吐くような激務、友と語り合い夜を越したあの日……。夏の思い出はいつもセミの鳴き声と共にあった。この命が果てたあとの人類の夏にも、セミは寄り添ってくれるのだろうか?塩をつけられたセミと刹那目を合わせて、頭から食む。

「……まっず……」

シンプルにまずい。食えなくはないが、食わなくてもいい。とにかく土と自然の味がこれでもかと押し寄せてくる。脱け殻では味わうことのできなかった、ボディの滋味深さが口の中で広がって消えてくれない。酒でどんどん流す。元気はつくような気がするが、あくまでも気である。幼虫はなおのこと土。むしろ土そのもの。ボソボソした歯触りの中身がより虚無感を掻き立てる。しかし、味など問題ではないのだ。自分はセミを腹に入れた。それだけで満足で、それでよかった。

会計を済ませて外に出た。今度来るときは数人で、獣の肉をいっぱい食らおうと思った。外にはセミの声のない夜が広がっていた。

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おまけ

店外にあった自販機、実は食べられる虫の自動販売機であった。お土産にとコオロギスナック(BBQ味/形あり)を購入。他にもプロテインバーのように成形されたものもあった(そちらは「形なし」である)。形の残る虫は食べたくない!という方にもおすすめである。そのような方が昆虫食に手を出すか?はさておき。

(かわいい見た目。「デリシャスインセクトスナック」なる文言に偽りなしか?!)

「米とサーカス」を訪れて数日後、家飲みのつまみにと開封。皿を出すのが面倒なのでティッシュに直!

なかなかにパンチのある、釣り餌のような見た目。脚が見えないのも一因だろう。(正直ちょっと引いた)
味は甘めのバーベキューでまとまっているので、アテにはちょうどよかった。ひとつひとつが小さくポリポリつまめ、食感も楽しい。短所はといえば英世が一人消えるところだろうか。しかしコオロギが普段の晩酌に華を添えてくれ、この日は満足して眠れたのだった。

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ということで、こちらが夏場の記録であった。小学生なら、間違いなく絵日記に書いただろうに。