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『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(室井一辰著,洋泉社,2019)(1回)はじめに


はじめに

 インターネットで「ムダな医療」と検索すると、私の著書が最初のページに出てくるようになってから、もう久しくなりました。2013年に、米国の医学会で広がっているある動きに気がつき、そこからおよそ1年以内に『絶対に受けたくないムダな医療』(日経BP社)という書籍を書き上げたことから始まります。その本はおかげさまで好評をいただくことになり、そこから雑誌やラジオでの発言機会も増えたために、今のネットでの意外な検索結果につながったのではないかと考えています。
 そもそものきっかけとなったのは、米国の医学会が、「必要性が疑われる医療行為」についていっせいに議論を始めている、という情報をキャッチしたことでした。
 当時(2013年頃)も、医療分野の取材や情報収集を行っていたのですが、海外の医療動向についても調べており、さまざまな医学会の情報を読みあさっていました。そうしたときに――必然だったのだと思うのですが――、「チュージング・ワイズリー」というキャンペーンが目に入ってきたのでした。このキャンペーンについては詳しくは第2章でお話ししますが、米国のある分野の医学会が、必要性に疑問がある医療行為を自分たちの手でリストアップする、というものでした。
 考えてみると分かるのですが、これは医師たちが自ら自分たちの行っていることを「いらない」と言っているに等しいわけですから、自らの首を絞めるような、変なことを公表していることになります。そうしたところに違和感は覚えつつ、そのキャンペーンのことがだんだんと気にならざるを得なくなっていきました。
 というのも、ほかの医学会からも同じように、必要性を疑うべき医療行為を並べ立てる動きが盛んになっていたからです。
 それも、世界的にも影響力のある学会で、がん、心臓病、小児科、産科婦人科、精神科、皮膚科など、その数は当時70ほどに及んでいました。
 これはどういうことなのかと思いましたが、直感的に「ムダな医療」をなくそうとしている大きなうねりがあるのだ、と思ったのです。
 なぜ、米国はこんな妙な活動を進めているのだろうか。またその内容とはどういうものなのだろうか。はじめは気にもとめなかったこの動きに、関心が日増しに高まっていったのです。
 なのに、当時、日本ではそうした活動があることが知られていませんでした。ごく一部の海外通の医師が知っているくらいで、日本の多くの医師が知っているとはとても言えないレベルでした。いわんや一般の人をや。知っている人はまずいなかったように思います。これは広く知られた方がいいと思っていたところ、書籍にまとめる話が持ち上がったのでした。
「誰もやらないなら、自分がやるしかない」という言葉はよく聞くのですが、まさにこういうことなのか、と思ったものです。250項目にわたる「ムダな医療」のリストを自ら全訳した上で、それを整理した本を書き始めました。
 そこから、私のムダな医療との付き合いは始まったのです。本を書いた後も継続的に、さまざまな雑誌やテレビ、ラジオ、ネットメディアなどで、ムダな医療についての情報を提供する機会がありました。
 そうした中で、さまざまな場面で情報交換をする機会にも恵まれました。ムダな医療に対して関心の高い人々から情報提供を受けることもあります。また、求められて他人の視点も踏まえて論文を検索したり、医療のムダについての取材をしたりすることもあります。そうこうする内に、チュージング・ワイズリーをはじめ、グローバルな視点から見たときに、やはり日本で行われている医療には大きなムダが存在しているのだな、との認識をさらに強く持つようになっていきました。
 一方で、少し課題に思っていたのは、このムダな医療をなくす運動、チュージング・ワイズリーを筆頭に、広く知ってもらうには内容がやや難しい、という課題も感じていました。そもそもチュージング・ワイズリーは医師への啓発を目的とした動きという側面が強いものですから、一般の方々には分かりづらい部分も多くなっています。とはいえ情報としての価値は高いので、周知されないのはもったいないと思いましたし、そうした思いから取材を受けたときなどには、できるだけ分かりやすく伝えるように努めてきました。

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 そのような折に、新たに新書を作るというお話をいただきました。私は、チュージング・ワイズリーのごく基本的な部分をまとめ、初めてムダな医療について学ぼうという人にもとっつきやすいように工夫ができるな、と思いました。また、合わせてチュージング・ワイズリーというのは、米国に限った話ではなく、国際的にも注目されているムダな医療をなくしていこうという動きともリンクしているという点を広く伝えられると思ったのです。
 いわば「ムダな医療・入門編」です。入り口として具体的な事例があった方が分かりやすいと思いますので、チュージング・ワイズリーで提唱される「ムダな医療」のリストのうち、多くの人に関係しそうなところを抽出してご紹介しようと思っています。また、第1章、第2章では、その前段として、ムダな医療とはどういうもので、それに関連してどのような流れでムダな医療を避けるようになっているのか、をまずは解説していきたいと考えています。さらに、国際的な潮流として、ムダな医療がどのような観点から注目されているのかについてもお伝えしたいと考えています。
 医療のムダを精査するこの流れは、米国生まれで国際的にも広がっていると述べましたが、もちろん日本人にとっても参考になるものです。そこで本書では、その中でも特に身近なものを、検査、薬、手術という形にゆるやかに分けてわかりやすい解説を試みています。3つの分類は厳密に分けたというよりも、あくまでわかりやすさのために分けていますので、ご了承おきください。
 それぞれを見ていくと、そうか、こういう医療行為が不必要なのか、と学べるところが多々あると考えています。日本でもこのリストを通して、ムダな医療についての理解を深めていただければ幸いです。そこから、医療従事者と患者との間のコミュニケーションがもっと深まっていくきっかけが生まれれば、私たちにとって意味があることだと思います。
 それでは、みなさまの健康につながることをお祈りしつつ、本題に入っていきたいと思います。

(第1回終わり、第2回に続く

*2020年8月10日以降、noteでは記事を基本的には有料記事としてまいります。次の室井一辰ウェブサイトにおいて記事を公開してまいります。

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(Photo: Adobe Stock)

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