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おつかれさまです

ずっと気になっていた声の話

私は夜のベランダ(一戸建て)が好きで電子ホタル族というのもあり、晴れてる日の夜はベランダでのんびりするのが日課だ。時間は夕食が終わり片付けをした後の21時過ぎくらい

近くを大きな国道が通っている騒音や、川向こうの居酒屋帰りの酔っ払いの歌声も聞こえるが、そこまで迷惑と言えないレベル。そんな夜の雑音の中にいつからか同じ内容が聞こえるようになった

おつかれさまですー!!
おつかれさまでしたー!!

若い女性2人の声。家の角が仕事帰りの分かれ道で、別れの挨拶をしている様な明るい声。というかそうだと勝手に想像したり
私も時々小さな声でお疲れ様でーすとこっそり仲間入りしたり。気が付いてからは頻繁にその声を聞いた。そんな夜の日常の中で声の前に毎回同じ音がする事に気が付いた

ガラガラガラガラーピシャッ

というテナント店舗とかでお店を閉めてシャッターを降ろしているような軽めの音。騒音と言うより日常音なので今まですっかり聞き流していた。なので続けてみると

ガラガラガラガラーピシャッ
(ちょっとの間)
おつかれさまですー!!
おつかれさまでしたー!!

なんとなく自分も一仕事終えたような気持ちになる。どこのお店かなー?ちょうど20時閉店で今頃帰るのかなー?なんて勝手な事を想像していた。

ほんの世間話程度に職場の同僚であり我が家の周辺にも詳しい隣町に住む友達にその話をすると。「それはちょっと変じゃない?」と言い出した。

あんたの家の近くにお店なんて無いじゃない空耳かテレビの音じゃないのー?(笑)と。言われてみれば、そもそも右隣は空き家で左隣は遊歩道のある川だし、前と後ろは庭と道路。その上お店の音が聞こえる距離に店舗が無い住宅街。田舎なので庭が広い家は多いがシャッターを閉めるような家も物置も周辺には無いのだ。

それでも、いやいやテレビ音は無いよ。でも聞こえるんだよ!!とちょっと不機嫌になった私を友達は笑いながら、だったら今度その時間にスピーカーフォンで話してみる?と提案してくれた。私も、ちょっと音や声は小さくなるだろうけどベランダに聞こえる声の大きさならスピーカーフォンでも絶対聞こえるはずだ!!と了承してその日は会話を終了した。それから1週間程後の夜に、私はドヤる気満々で友達とハンズフリーで会社の愚痴やドラマの感想等他愛も無い話を楽しくしていると

ガラガラガラガラーピシャッ

来た!!いつものシャッター降ろす音だ。私はスマホを声の聞こえる方向に腕を伸ばして少しでも声が聞こえるように構えた

おつかれさまですー!!
おつかれさまでしたー!!

……どう??聞こえた??と聞くと

え?なんの声もしないよ。てか〇〇(居酒屋)の音楽そこまで聞こえるんだね(笑)

と。待て待て、確かに居酒屋は本当にうっすらエスニックな音楽が家で聞こえる程度に流している。それも窓を閉めたらほぼ聞こえない。それが聞こえて家の前で別れる女の子達の声が聞こえないだと??

友達にやっぱり気のせいかテレビだよと笑われ不貞腐れて通話を切った。それから家族全員に夜になると家の近くでお疲れ様って言ってる女の子達の声するよね?と聞いて回ったが全員、聞いた事ない。聞こえない。なにそれ?だった。

……こっちこそなにそれ?だ。今まで私が聞いていたのは絶対に空耳なんかじゃないし、蛍族なので窓はちゃんと閉めているから部屋のテレビや音楽でも無い。スマホでは聞こえない周波数?そんなのあるか?とか、だとしても家族には聞こえるだろう。とか納得いかない気持ちのまま数日経った

書き忘れていたが、おつかれさまの声は毎日聞こえる訳ではない。数日続く事があったり、たまに聞こえない日もある。雨の日はベランダに出ないのでわからない。それでも誰かに同意して貰いたい一心で私はその後しばらく何時でも録音出来る状態で声がする時間帯に玄関先でウロウロした。傍から見たらまるで不審者だったろう

その日は夕立があり雨が止んだ夜は風も無く嫌な蒸し暑さがあった。私は勿論玄関前でウロウロ。すると庭の方から

ガラガラガラガラーピシャッ

よし来た!!とサンダルで水溜まりにハマりつつ庭側に回って録音ボタンを押した。内心川向こうに何かのお店があるのだろうと予想していたのでそちらにスマホを向けつつ、じっと黙り息を殺して次の声を待った

おつかれさまですー!!
おつかれさまでしたー!!
お疲れ…でーす…

私が想像もしない所から聞こえた。それは足元だった。正しくは足元のマンホールから聞こえていた。マンホールから聞こえる声は響く事も曇る事も無く、とてもクリアな声だったし、なんと3番目の声まで聞こえた。3番目の声だけは何故か不鮮明で途切れ途切れだった

私は混乱しながら、手元のスマホが録音中だった事に気が付き。夜聞くのはなんだか嫌だったので翌日の昼間録音を聞いてみた。それは




お疲れ…様でーす…

と言っている私の声だけが曇った雑音混じりで録音されていた


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