ガレット・ブルトンヌ
久しぶりに寒さがこたえ、寒い、寒いと心の中で呟きながら家路を急いでいたが、ふと、けさ「きょう荷物届くさかいな、ちゃんと受け取るんやで」と言われていたのを思い出し、宅配ボックスを開けると、大きめの袋が届いていた。
封を切ると、自家製の味噌や大量のフリーズドライのスープが入っている。
「ちょうどひとり暮らし初の豚汁しよと思ってたんや、気が効くやん、味噌で汁物作ったらフリーズドライはいらんけどな、おおきにな」と電話すると「ほかにも大事なもん入ってたやろ」というので袋の底をまさぐると、手づくりの焼菓子が出てきた。
「おー、クッキーや」と思っていたら、なんでもガレット・ブルトンヌというらしい。
最近寒いのでなかなかこたつから抜け出せず飲んでいなかったコーヒーを淹れ、牛乳をたっぷり入れてカフェオレを飲みながら食べた。
同送された手紙を読みながら食べると、甘くて塩辛くてたまらない。
「〽︎私は泣いたことがない」などとむかしに流行った中森明菜を口ずさみつつも、ついついホロリときそうになる。
私の母親は、料理上手で和食、洋食は絶品だったが、菓子は滅多に作らず、たまに気が向いて作ってくれるフレンチトーストは「クレイマー、クレイマー」のダスティン・ホフマンが作るそれのような代物だった。
それにくらべてこのガレットはなんなんだ。
娘たちはきっと何十年かして、この味を思い出すだろう。
そして、泣くだろう。