2021年は映画「笑う警官」で初笑いを
「笑う警官」について
美空ビバリーです。
今回は「笑う警官」(2009)についてご紹介します。
原作は佐々木譲の同名小説。2005年版『このミステリーがすごい!』では10位にランクインし、同作を皮切りにした「道警シリーズ」はシリーズ累計総発行部数150万部越えのベストセラーである。
札幌市内のアパートで女性の変死体が発見された。すぐに元交際相手の巡査部長・津久井に容疑が掛けられ、異例の射殺命令までも下される。
この一連の流れに違和感を感じた所轄の警部補・佐伯は、信頼できる仲間とともに秘密裏に捜査を行う。やがて、彼らは北海道警察内部に隠された闇に踏み込んでいくが……。
あらすじはこんな感じ。
いかにもハードボイルドでサスペンスフルな警察小説だ。
そんな名実ともに実績のある本作を実写化したのは、”あの”角川春樹。「REX 恐竜物語」「天と地と」など数々のクソ映画を監督した邦画界屈指の問題児である。
本作の試写会で角川春樹は「動員が150万人を超えなかったら映画を辞める」と大見得をきるほど自信の出来と自負していた。
しかし、蓋を開ければ興行成績は約3億円、動員数は10万人ちょいで惨敗。これにより、角川春樹は本作を最後にしばらく映画界から距離を置くこととなった。
なお本作と同年に公開した「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」の興行成績は約40億円、動員数は200万人超だったのを考えるといかに惨敗したかがよくわかる。
しかし、本作の見どころはそんな爆死っぷりではない。
一言で言おう。
超だっっっっっっさいのだ。
見てるこっちが恥ずかしくなるセリフ回し、「いつの時代の映画ですか?」というような古臭さ、何が起きてるか分からない破綻したストーリー、何もかもが過剰な演出…などそこらの駄作とは一線を画す別次元の酷さなのだ。
その別次元っぷりについて書いていこうと思う。
(ここからネタバレあり)
① ツッコミどころ満載の演出
とにかくこれに尽きる。
というか演出面があまりにも過剰なため、全然話が入ってこない。
何もかも過剰でやりすぎ、そして頻繁に意味のないシーンが挿入される。具体的には、
・逃亡中の巡査1名を追うのに大量の機動隊員が動員される。
・そして、街一帯が封鎖される。
・主人公がやたらサックスを吹きたがる。
・警察官の使用するPCが黒いMacbook。
・やたらブランド名を言いたがる登場人物たち。
・遊び歩く回想シーンでの遊び方が信じられないほどダサい。
・バレたら殺される取引の現場が屋外(しかも金網に「危険」「DANGER」と書いてある)
・まったく本編に関係ないオネェがでてくる。
・事件の重要なキーパーソンの配役。
・車を運転するシーンで明らかに運転していない。
・鹿賀丈史の存在感が強すぎる。
・ある人物が死ぬシーンの全て。
・全く訳が分からないことを口走り、そのまま5分足らずでフェードアウトする人物がいる。
・本編のBGMが全部ジャズ。そのくせEDはホイットニー・ヒューストン。
・なぜかエンドロールが全員アルファベット。
などなど、挙げるとキリがない。
ここで列挙した以外のツッコミどころを探すのも本作の醍醐味といえる。
② 配役が変
主演の大森南朋(最近だと「家政婦のナギサさん」などに出演)は分かる。
本作の渋くてダンディな世界観にピッタリだ。
また、主演を筆頭に松雪泰子、忍成修吾、螢雪次朗…など名優が揃っている。
問題は助演と脇役である。
なぜ準主役が「宮迫博之」なんだ?しかも本編に全然出てこないし。
なぜ重要な証人が「中川家の礼二」なんだ?雰囲気ぶち壊しだし。
なぜ端役が「松山ケンイチ」なんだ?どう考えても無駄使いだろ。
そして真の敵がなぜ「大友康平」なんだ?そんなキャラじゃないだろ。
③ 異常なセリフ
映画とはいえ、「いくらなんでも大人はそんな会話はしません」という変な会話のオンパレード。見てるこっちが恥ずかしい。以下、一例。
・秘密裏に捜査を行う主人公。捜査官たちとチームを組んだ際の第一声。
(余韻たっぷりに)「…俺たちはバンドだ」→「どういう名前なの?」→「The Laughing Policeだ」(即答)
・回想シーン。潜入捜査に失敗した際の相棒に言った一言。
「俺たちは傷ついた天使たちだ…」
・冤罪をかけられた仲間の無罪を晴らす証拠を掴んでいる証人に対し…
「いいか?警察はな、お前みたいな連中にいくらでも罪を擦り付けられるんだよ!」
(主人公たちは仲間の冤罪を晴らすため奔走しています。)
これはあくまで一例で、実際はとち狂ったセリフの金太郎飴状態である。
全員酔っているんじゃないの?という酩酊したセリフ回しは必見の価値あり。
④ 破綻したストーリー
もう映画として致命的である。
原作を映画化させるにあたって加えたアレンジが、かえってストーリーを破綻させるという大ポカをしている。
がっつりネタバレになるが、原作との相違はこんな感じだ。
【原作】
幹部が犯した犯罪
→より上の人間の立場を危うくする警官
→この警官に最初の犯罪の罪をかぶせよう
【映画】
幹部が犯した犯罪(この幹部が実は黒幕のライバルというアレンジ)
→より上の人間の立場を危うくする警官(実は黒幕の手駒というアレンジ)
→ライバルを蹴落としてさらに手駒も処分しよう
全部、手駒内で済む話じゃん。
というかわざわざその警官が主人公たちを巻き込ませた意味って?
もうダメダメである。
最後に…
さて、散々な内容でお送りした「笑う警官」の紹介だが、一点だけほめるべき点がある。
それは圧倒的なテンポの良さ。
いわゆる長ったらしく、何を見たんだがよく分からないようなダメな邦画とは違い、要所要所にツッコミどころを作り、笑える作品に仕上がっている。
(それを角川春樹が意図したかは別としてだが)
新年、レンタルショップに行く機会があれば、ぜひ棚の隅で埃をかぶっているであろう本作のDVDを手に取り、初笑いしていただければと思う。