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記憶を、記録に

2022年、88年の歴史に幕を下ろした京極湯。

豊岡市役所から歩いて数分という豊岡の中心市街地に位置する「京極湯」は、現在の店主である福井さんが体調を崩されてしまったことをきっかけに、しばらく休業となっていました。
かつては10箇所あったという豊岡市内の銭湯ですが、時代の流れとともにその数は次第に減少していき、ついに市内で最後の、但馬で最後の銭湯となったのが「京極湯」でした。

その最後の灯火のような存在の「京極湯」が閉業してしまうことは、店主の福井さんはもちろん、豊岡に住む人々、但馬に住む人々にとって淋しく、切なく、惜しまれることだと思います。

「京極湯」家史クラウドファンディングページより

この銭湯の風景と、そこにいた人々の歴史と雰囲気の一片だけでも、記録に残しておくことはできないか。そうした想いから、ムラツムギの佐藤が舞台写真家のbozzoさんとともに取り組んできた「京極湯の家史」が、ついに完成しました。

京極湯家史(表紙)

このプロジェクトは、但馬最後の銭湯「京極湯」がお店をたたむことになり、地域のみなさんと一緒に進めてきたプロジェクト。2024年に行ったクラウドファンディングでは想定をはるかに上回る171名の方にご支援いただき、実現に向けて動き出すことができました。


佐藤とbozzoさんが何度も現地に足を運び、時間をかけて仕上げた集大成。これまでもムラツムギは全国で数々の家史を作ってきましたが、「京極湯」家史は、地域の方々が自らクラウドファンディングをし作成した初めての家史でもあります。

三代目店主・福井義一さんの語りを中心に、京極湯と関わりのある人々の思い出が、濃密な写真とともに記録されています。

福井義一さんの語り(抜粋)

ムラツムギでは、モノそのものを残すことが難しい場合でも、地域の方々が大切にしてきた精神や文化を別の形で受け継ぎ、「喪失の悲しみ」を和らげることができると考えています。

文化社会学者の荻野昌弘さんは、著書『文化遺産の社会学』の中で、日本における文化遺産のあり方について、「モノそのものを保存するよりも、モノを通じて死者と生者の関係を再構築することが重要である」と述べています(荻野, 2021: 29)。
つまり、モノの保存そのものではなく、その背後にある「物語」や、それにまつわる技術、身体性を遺産として捉えるという視点です。

私たちは、銭湯だけでなく、寺社仏閣や畑、行事、百貨店など、地域で守り継がれてきたものが失われていく「縮小社会」において、その場所やモノにまつわる記憶や物語を文章として編みつないでいくことを目指しています。

モノを物理的に残すことができなくても、それ以上の意味を後世に伝えることができるのではないか。今回、京極湯を題材に、多くの方々のご協力をいただきながら、この目標への一歩を踏み出すことができました。

「記憶を記録に」をモットーに、これからも地域のさまざまな物語に丁寧に向き合いながら、地域とともに歩む活動を広げていきたいと思います。この取り組みが、縮小社会における新しい継承の形態を模索する一助となることを願っています。

もし「一緒に家史を作りたい」「地域に残したいものがある」という方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご連絡ください。私たちとともに、大切な記憶を未来へ紡ぎましょう。



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ムラツムギ
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