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鵺とは何なのか?

4作品の共通点


 ※『サイコパス』のネタバレが若干あります。

 最近流行りの『呪術廻戦』…
 現在、週刊少年ジャンプ連載中で巷を騒がせている『鵺の陰陽師』…
 全然続編が出ない『百鬼夜行シリーズ』…
 今年映画が公開されるはずだったのに延期してしまった『モノノ怪』…

 これらの作品のある共通点を皆様はご存じだろうか?
 今記事のタイトルにある通り、これら作品には鵺という妖怪が何らかの形で関係しているのだ。

 『呪術廻戦』では伏黒が使っている式神が鵺である。
 登場人物の1人である伏黒が使っている鵺は鳥成分多めの鵺である。『邪眼は月輪に飛ぶ』のミネルヴァに近い形態と言ったらお分かりいただけるだろうか…顔は猿…というかfateシリーズのキャスターに近い。

 『鵺の陰陽師』で出てくる鵺はメインヒロインで…長年、学校に居住んでいる。学校から出られない地縛霊みたいなもので…部屋でゲームを嗜む美少女キャラだ。アグレッシブな性格で黒髪ロングキャラ。主人公に幻妖という妖怪みたいなもの(『D.Gray-man』のAKUMAみたいに階級がある)を祓う能力を与える。

 『百鬼夜行シリーズ』は次出す(いつ出るかはわからない)予定の作品が『鵼の碑』というタイトルだ。タイトルに鵺とある通り鵺を題材にした作品なのだろう。鵺だからバラバラにした死体をくっつけてオブジェにする殺人鬼とかと絡めてきそうだ。
 (『サイコパス』というアニメで『魍魎の匣』に影響受けた回があってすでに似たようなことをしてしまっているが)

 『モノノ怪』はその名も「鵺」というエピソードがある。ネタバレになるから詳細は省く。

 ここまで多くの漫画やアニメに出てくる…鵺とは何なのか?
 それが今朝突然気になりはじめ、今回調べた次第である。

「鵺」とは何なのか?

 では、鵺とは何なのか深掘りしていこう。
 まずは、画像をご覧いただこう。
 これは江戸時代の画家である鳥山石燕(とりやませきえん)の描いた鵺である。
 鳥山石燕の作品は『百鬼夜行シリーズ』の冒頭ページについていることでも有名だ。おそらくこの絵が次の『百鬼夜行シリーズ』の冒頭ページを飾ることになろう。

鳥山石燕『今昔画図続百鬼』より

 鵺はこの鳥山氏が描いた絵の通り頭は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇という妖怪だ。今で言うキメラに近い。

 この絵は平安時代、仁平(1151~1154)の頃の伝説が元になっている。
 伝説は次のような話だ。
 その時代、国を治めていた近衛天皇が毎晩、丑の刻になると黒雲の怪物が御所に現れ御所を覆ってしまうと怯えていた。
 これは近衛天皇の時だけでなく、前の堀河天皇のときにも似たようなことがあり、その際は源義家が弓を鳴らして魔物を祓う鳴弦という儀式をして追い払った。
 その時に倣って今回は義家の親戚である源頼政が黒雲の怪物退治に出る。
 頼政は従者とともに黒雲を待つ。
 すると…
 やはり…御所の上空に黒雲が現れた。
 黒雲が来るやいなや頼政が黒雲に向かって矢を放つと…
 化け物が上から落ちてきた…
 その時、頼政が見たのは鳥山が描いた絵のように、頭は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇の化け物だった。
 そして…その鳴き声は鵼(ぬえ)に似ていた…
             ※
 鵼(ぬえ)は今のトラツグミの古称であり、夜や曇天の日に不気味な声で鳴くためその鳴き声が不吉なものとされた。お祓いの対象にもなっていたという。
 鵺という名前はこの鳴き声が鵼に似ているところから取られたのだ。
 そのため、怪物に名前という名前はないともとらえられる。
 (筆者もyoutubeで鵼の声を聴いたが、電車がブレーキをかけたときに起こる線路と車輪が互いに擦れる音に近かった)

【参考リンク】
【Nostalgic Nature】 トラツグミ(鵺)の鳴き声
https://www.youtube.com/watch?v=ECY-h89ihTg

             ※


鵼(現名:トラツグミ)の御顔(かわいい)

 頼政はこの怪物を舟に入れて川に流す。
 やがて…怪物は、蘆屋の浦(現在の兵庫県芦屋市)に流れ着く。
 (どこまで流れたんだ…)
 流れ着いた怪物は、蘆屋川の川口に作られた塚に封じ込められた。

 こんな内容の話である。
 現在の兵庫県芦屋市の芦屋公園には鵺塚があるという。

 実はこの話には続きがあって、人間体になった鵺の亡霊がお坊さんに弔いを頼むという話がある。お坊さんは一晩中お経を唱え続けて、懺悔した鵺は踵を返し水の底へ消えていったという話である。
(『鵺の陰陽師』はここから着想を得たのかもしれない。(多分違うが))

 鵺とは何なのかわかっていただけただろうか。
 自分も今回調べて改めて知ることが多かった。
 短い記事だったが今回の記事はここまでとする。
 ここからは余談である。興味がある人だけ読んでください…

余談


 鵺について水木しげる御大の『妖怪大図解』に興味深い内容が書かれていた。
 『妖怪大図解』は筆者の兄が小学生の頃親に買ってもらったものであり、今筆者は借りているのだが、本書が子供向きなのもあるのか、水木しげる流の大胆な解釈がなされている。

 まず、「ぬえの吸引力」。
 まるでダイソンの掃除機みたいだ。吸引力の変わらない鵺…怖すぎる
 水木氏によると鵺はとてつもない吸引力で鼻の穴・口から大量の空気を吸い込むのだという。その際、空気以外にも毛穴から飛び出た人間の魂も吸われるらしい。恐ろしい吸引力である。吸引力で魂を吸い取る…まるで『ゴーストバスターズ』だ。
  毛穴から魂が飛び出る…実に水木氏らしい解釈だ。

 次に、「三つの心臓」。
 鵺は猿、虎、蛇の3つの心臓を持っているという。これ自体はおもしろい解釈なのだが…
 皆さんお気づきだろうか?
 胴である狸の心臓が無いのだ。
 胴なのに…
 手足しか役割の無い虎に心臓があるのに…
 世の中は残酷だ…
 つまり鵺の体の中で狸のヒエラルキーは一番下なのだ…
 多分…顔である猿が…ヒエラルキーではトップなのだろうか…

 最後に、「噴射孔」。
 先に水木解釈では空気を吸い込む能力をこの鵺は持つと言ったが、その機能はここで活かされる。
 鵺は「噴射孔」というか…
「毛穴」からその吸い込んだ空気を出して空を飛ぶというのだ。
 また毛穴である…
 水木氏は毛穴が好きすぎるのか…?

 この水木しげるの『妖怪大図解』は他の妖怪も独自解釈がなされてて大変興味深い内容なので、ぜひ妖怪好きは買って読んでみて欲しい(2004年発行なので今も書店で売ってるかいささか微妙ではあるが…)。 

【参考文献】
水木しげる 2004 『 水木しげる 妖怪大図解 』小学館
水木しげる 2022 『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』 講談社
村上健司 水木しげる 2015 『改訂・携帯版 日本妖怪大辞典』 角川書店

【参考辞書】
『 新 明 解 国 語 辞 典 』 第 八 版 ( 2020 年 、 三 省 堂 )

【使用画像】
pixabay
https://pixabay.com/ja/


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