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「本音は利下げ」を示したFOMC議事要旨、騙されてはいけないFRBの”二枚舌”戦略


1月のFOMC議事要旨をチェック

米連邦準備制度理事会(FRB)は2月19日に1月28~29日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表しました。このFOMCでは政策金利であるFFレートの誘導目標を4会合ぶりに据え置き、4.25~4.50%で維持することを全会一致で決定しています。

今回公表された議事要旨を一見すると、(FOMCでありがちな)タカ派・ハト派の議論が分かれているように思えるかもしれません。

タカ派的と見られる箇所

議事要旨から1月のFOMCがタカ派的であったと指摘する方は、ほとんどのメンバーが

今後の利下げは「さらなるディスインフレの確証」が得られてから行うべき

という考えが示された点を指摘しています。

議事要旨で該当する部分は以下の個所です。

【英語原文】
Many participants, however, emphasized that additional evidence of continued disinflation would be needed to support the view that inflation was returning sustainably to 2 percent.
(中略)
Several participants observed that core goods prices had not declined as much on net in recent months compared with earlier in 2024.

【日本語訳】
しかし、多くの参加者は、インフレ率が持続的に2%へ回帰しているとの見方を支持するには、さらなるディスインフレの継続を示す追加の証拠が必要であると強調した。
(中略)
また、複数の参加者は、2024年初めと比較して、コア財の価格のネットの下落幅がここ数カ月でそれほど大きくなかったと指摘した。

ここの部分でも慎重な見方が示されています。

【英語原文】
In discussing risk-management considerations that could bear on the outlook for monetary policy, a majority of participants observed that the current high degree of uncertainty made it appropriate for the Committee to take a careful approach in considering additional adjustments to the stance of monetary policy.
(中略)
Many participants noted that the Committee could hold the policy rate at a restrictive level if the economy remained strong and inflation remained elevated, while several remarked that policy could be eased if labor market conditions deteriorated, economic activity faltered, or inflation returned to 2 percent more quickly than anticipated.

【日本語訳】
金融政策の見通しに影響を与え得るリスク管理の考慮事項について議論する中で、多数の参加者は、現在の高い不確実性を踏まえ、金融政策スタンスの追加調整(利下げ)を慎重に検討することが適切であると指摘した。
(中略)
多くの参加者は、経済が引き続き堅調でインフレ率が高止まりしている場合、政策金利を引き締め的な水準で維持することが可能であると指摘した。

昨年12月くらいまで市場関係者の多くが、FRBが利下げを続けるとの見方を指摘していましたので、1月のFOMCで今後の利下げは「さらなるディスインフレの確証」がないと見送られるという点はタカ派的に見えたかもしれません。

ハト派的と見られる箇所

一方、今回の議事要旨をハト派的とみた方は、労働市場の状況が悪化すれば、利下げが視野に入る可能性を指摘したメンバーがいる点を挙げると思います

議事要旨で該当する部分は以下の個所です

【英語原文】
(前略)
while several remarked that policy could be eased if labor market conditions deteriorated, economic activity faltered, or inflation returned to 2 percent more quickly than anticipated.

【日本語訳】
一方で、一部の参加者は、労働市場の状況が悪化し、経済活動が減速する、またはインフレ率が予想以上の速さで2%へと収束する場合には、金融政策の緩和が適切となる可能性があると述べた。

また、FOMCの一部メンバーが「FRBのバランスシートの縮小(いわゆるQT)ペース」を一時停止・減速することが適切となる可能性を指摘した点をあげるでしょう。

議事要旨で該当する部分は以下の個所です。

【英語原文】
A number of participants also discussed some issues related to the balance sheet.
(中略)
Regarding the potential for significant swings in reserves over coming months related to debt ceiling dynamics, various participants noted that it may be appropriate to consider pausing or slowing balance sheet runoff until the resolution of this event.

【日本語訳】
一部の(A number of)参加者は、バランスシートに関するいくつかの論点についても議論した。
また、債務上限問題に関連して今後数か月の間に準備預金が大きく変動する可能性について、複数の参加者が言及し、この問題が解決するまでの間、バランスシートの縮小(QT)の一時停止または減速を検討することが適切となる可能性があると指摘した。

FOMCで指摘された債務上限問題

FRBがQTを続けてきたのは、量的緩和政策の終了と金融政策の正常化を図るためです。

ただ議事要旨で明らかになったのは、米長期金利の上昇によって家計の金融環境が引き締まってきたという指摘が多かったことです。

【英語原文】
Many participants noted that certain financial conditions had tightened over the past several months. For example, longer-term Treasury and corporate bond yields and mortgage rates had risen notably.

【日本語訳】
多くの参加者は、過去数か月間で一部の金融環境が引き締まったことを指摘した。例えば、米長期債利回り、社債利回り、住宅ローン金利が顕著に上昇した。

そんなところで、債務上限問題を通じて準備預金が急減する可能性があるとの指摘があったのです。

【英語原文】
However, the manager cautioned that the debt limit situation may cloud the signals provided by the indicators. In addition, reserves might decline quickly upon resolution of the debt limit and, at the current pace of balance sheet runoff, might potentially reach levels below those viewed by the Committee as appropriate.

【日本語訳】
しかし、債務上限問題がこうした指標の示すシグナルを不明瞭にする可能性があると警告した。加えて、債務上限が解消した後に準備預金が急速に減少する可能性があり、現在のバランスシート縮小のペースのままでは、準備預金が委員会が適正と考える水準を下回る恐れがあるとも指摘した。

QTペースの維持が懸念された理由

FRBは2019年の「レポショック」(短期金利の急騰)を教訓に銀行システムが必要とする十分な準備預金(ample reserves)を維持することを重視しています。

しかし、QTが進むと、どの時点で「準備預金が十分」なのかを見極めるのが難しくなります。

じつはQTが進む一方で、MMF(マネー・マーケット・ファンド)などはFRBのリバースレポ(RRP)を通じて大量の資金をFRBに預けていました。

しかし、2023年後半から大量の短期国債(T-Bills)が発行されたことで、MMFがRRPから資金を引き出し、短期国債へ資金を移動させました。

その結果、FRBの負債構成がRRPの減少 → 銀行準備預金の減少へとシフトしています。

もしこのままQTを続けると、準備預金の減少が加速し、銀行の資金調達コストが上昇するリスクが高まります。

2019年のレポショックのように、短期金利が急騰し、FRBが緊急対応を迫られる可能性があるなら、これを回避するため、QTのペースを緩めるべきではないか、という議論が行われたのです。

やはり利下げしたいのが本音

結局どっちなんだよ?という声が聞こえそうですが、FRBとしては短期金利の急騰といった金融システムにおけるショックを未然に防ぎたいとの思いが強く、ショックを回避するためには、FF金利を下げたい(利下げしたい)というのが本音に思えます。

ただ、労働市場が強く、インフレも思ってたよりも鈍化ペースが緩いことから、1月のFOMCでは様子を見たが、インフレ鈍化に関する確証が得られればすぐに利下げする、ということになるのではないでしょうか。

いつものことですが、今後の市場の思惑は、今後発表される労働市場関連指標とインフレ指標の結果次第、ということになります。

ただ、FRBは本音が「利下げ」ですので、

労働市場関連指標にせよ、インフレ関連指標にせよ、金利据え置き材料に比べ、インフレ鈍化材料に市場は強く反応する

と考えるべきかと思います。

村田雅志(むらた・まさし)

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村田雅志(むらた・まさし)
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