関心を持ってもらえない豪ドルの行方
オーストラリア中央銀行(RBAといいます)は昨日(11月5日)に定例理事会を開催し、政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCRといいます)を4.35%で据え置くことを決めました。
RBAが政策金利を4.35%で据え置くのは8会合連続となります。米国や欧州、英国で利下げを始めたのに比べると、オーストラリアは事情がちょっと異なると思われるかもしれません。
オーストラリアが欧米と異なる事情の一つにインフレの高さがあります。オーストラリアの消費者物価指数(CPI)は、9月に前年比+2.1%と8月の+2.7%から鈍化して、3年2カ月ぶりの低い伸びとなりました。
ただ、CPIが鈍化した理由の一つに電力料金を対象とした政府による補助金政策があります。この補助金政策でCPIは約0.6%押し下げられたと試算されています。つまり9月のCPIは、政府による補助金政策がなければ8月と同じ+2.7%で変わらなかったと考えることもあります。
またオーストラリアのCPIの内訳にあるコアインフレはあまり鈍化していません。9月のコアインフレは前年比+3.2%と8月の+3.4%から鈍化したものの、RBAがインフレの目標とする2~3%の上限を上回っています。
各国の中央銀行は、会合で政策金利などを決めた後に声明を公表するのが慣習となっています。RBAもOCRの据え置きを決めた後に声明を公表しています。
この声明でRBAは、
と説明しています。そのうえで、今後の金融政策については、
との考えを示しています。
つまり簡単に整理すれば、
RBAはしばらく利下げ(政策金利を引き下げること)をしません。
と言っていることになります。
このことは、RBAブロック総裁による会合後の記者会見での発言でも確認できます。ブロック総裁は、
と発言しています。
RBAがしばらく利下げをしないのであれば、オーストラリアの金利は下がりにくくなると言えます。一方で欧米が利下げを続けるようだと、相対的にオーストラリアの金利が高くなることになりますので、オーストラリアの通貨である豪ドルは買われやすくなる(上昇しやすくなる)との見方が強まりそうです。
では、豪ドルは、この見方通りに上昇しているのでしょうか。豪ドル円を見てみましょう。
10月以降の豪ドル円は、10月初めに99円台から101円に上昇しましたが、その後は101円台半ばを挟んでの上下動を続けています。
昨日(11月5日)にRBAが政策金利を据え置くことを公表した後、豪ドル円は上昇基調での推移となりましたが、それでも高値は101円ちょうど近辺でしかありません。
豪ドル円は、総じてみれば横ばいの動きを続けている、と言えそうです。
オーストラリアの金利が相対的に高くなりそうだ、ということは共有されているにもかかわらず、豪ドルが上昇しない、ということをどう解釈すべきでしょうか。
一つは豪ドルが既に高くなっており、一段高は期待できない、という見方です。新型コロナの感染が世界を襲った2020年3月の時の豪ドル円は一時60円を割り込みました。その後、豪ドル円は持ち直しましたが、2021年から2022年にかけての豪ドル円は80円台でした。こうした水準から比べると現在の水準(100円台)は高すぎると見えるのかもしれません。
もう一つの見方は、RBAはしばらく利下げをしないと言いつつも、結局、そのうち利下げするだろうという見方です。この場合、RBAは市場関係者にあまり信頼されていないことになります。
個人的な見方でしかありませんが、もう一つの見方として、豪ドルが注目されていない、ということもあり得るのかなと思っています。本日(11月6日)は米大統領選の行方に世界中の目が注がれており、豪ドル、ひいてはオーストラリアに対する興味がさらに薄れている印象を受けています。
世界の金融市場を考える際、米国や欧州、日本を考える方は多いかもしれませんが、オーストラリアのことまで気を回す方はどれくらいいるでしょうか。
市場関係者の興味が薄い、ということは、豪ドルに関する情報が市場で織り込み切れていない可能性があるのかもしれません。米大統領選、そして日本時間11月8日のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表の後に、豪ドルに対する興味が(ようやく)高まるのかもしれません。
※FOMC(米連邦公開市場委員会)とは
アメリカの中央銀行である連邦準備制度(FRB)が行う金融政策を決定するための会議。FOMCで決まったことはアメリカだけでなく世界経済に大きな影響を与えることから金融市場関係者から非常に注目されている。
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