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間近に迫った「石破-トランプ会談」、トランプ関税が日本を救う?


トランプ関税アゲイン

アメリカのトランプ大統領が中国、メキシコ、カナダの3国を対象に一律の輸入関税(いわゆるトランプ関税)を課す意向を表明しています。

トランプ大統領はこれまで貿易赤字を負け(悪)と考え、高い関税で是正すべきと主張しています。しかしトランプ大統領は、関税だけで米国の貿易赤字を是正することができないことを第1次トランプ政権時代に学んでいます。

おそらくトランプ大統領は、貿易赤字の是正効果が期待出来ないことを理解したうえで、トランプ関税を個別国とのディール(取引)のための交渉カードと位置づけているのでしょう。

カナダとメキシコに対しては課税開始を30日停止すると発表していますが、トランプ大統領は今後もトランプ関税を両国との交渉カードとして最大限利用するはずです。今後トランプ大統領は、突然トランプ関税を再び両国に持ち出すことも十分あり得ると考えます。

有権者へのアピールの都合上、トランプ関税を実行に移すことはあるかもしれません。ただ、その場合は、特定の国を対象に対象となる製品を絞って交渉することを基本戦略とするのではないでしょうか。

トランプ大統領は全ての貿易相手国に対してすべての輸入品に対して一律に関税を課すこと(一律関税)を課す可能性も示唆していますが、おそらくその可能性は相当低いと思います。というのも、一律関税は米国経済にとって無理があるからです。米国経済は各国からの輸入品が絶え間なく供給されることを前提に構築されています。

石破首相のトランプ詣で

石破首相は2月6日から3日間の日程でアメリカ・ワシントンを訪問し、トランプ大統領と初めてとなる首脳会談を行うことが発表されています。

会談では、率直な意見交換を通じて石破首相とトランプ大統領との個人的関係を構築するとともに、安全保障、経済、北朝鮮による拉致問題などの課題について協議をする予定です。

石破首相はトランプ関税に関して、トランプ大統領に日本をターゲットとしないよう強く要請することになると思われます。

日本がターゲットになる可能性は十分にある

ただ、トランプ大統領の考え方は大変シンプルで、アメリカの貿易赤字=負け(悪)、という考え方が崩れることはないでしょう。その考えを前提とすると、日本は中国、メキシコ、カナダと同じ「悪の国」にならざるを得ません。

下の円グラフは2023年のアメリカの貿易赤字を国別にみたものです。赤字を大きい順番でみると、中国が1位、メキシコが2位で日本は5位と、すでにトランプ関税の対象となっているカナダよりも大きい赤字を生んでいます。

日本の対米貿易黒字(アメリカにとって対日貿易赤字)が、ここ2年ほど円建てで高水準にあることも注意する必要があります。

じつは、円建てで貿易黒字が拡大した主因の一つは円安の進展です。対米貿易黒字をドル建てでみると、昨年(2024年)は一昨年(2023年)から減少しています。

とはいえ、トランプ大統領からすれば、日本の対米貿易黒字の大きさは石破首相にクレームをつける良い理由になります。トランプ大統領は対米貿易黒字の大きさを指摘し、日本からアメリカにとってメリットになりそうなものを石破首相に要求すると思われます。

トランプ大統領のリクエスト候補

トランプ大統領が日本との貿易赤字を減らすことを目的とするならば、貿易赤字が減るような施策を石破首相にリクエストすることになります。

考えられるリクエストはいくつかあります。たとえば、

防衛装備品の追加購入

日本政府に対してアメリカ製の戦闘機、ミサイル防衛システムなど防衛装備品の購入拡大を促すことで米国からの日本への輸出を増やし、結果的に米国の対日貿易赤字が縮小するというものです。

日米FTA/日米貿易協定の再交渉または拡大

これまでの日米貿易協定が「不十分」であるとし、アメリカ側により有利な条件を追加設定するよう求めるというものです。

円高誘導・為替介入の抑制

トランプ大統領が過去に「日本を為替操作国に指定する」という指摘を繰り返すというものです。日本政府がドル安・円高が進むよう誘導し、最終的には米国の対日貿易赤字の圧縮を狙うというものです。

このほかにも

・農産物市場のさらなる開放・関税引き下げ
・自動車市場への参入規制緩和
・農産品以外の関税・非関税障壁の撤廃
・エネルギー(LNGなど)の長期的な購入拡大
・アメリカ製医療機器や新薬の承認プロセスの簡易化・迅速化
・IT・デジタルサービス分野への参入拡大
・日本企業による対米投資・工場建設の増強

といったリクエストも考えられます。

トランプ大統領は「為替操作国」を再び持ち出すか

トランプ大統領は第一次トランプ政権時に日本を為替操作国に「指定するかもしれない」とたびたび言及していました。しかし結果だけ見ると、アメリカ財務省は公式な報告書で日本を為替操作国として認定することはありませんでした。

おそらくトランプ大統領は、日本を為替操作国であると認定することよりも、二国間交渉で有利な条件を引き出す交渉カードとして「為替操作批判」を利用する意図が強かったと考えられます。

円高誘導リクエストは石破首相にとって歓迎?

トランプ大統領は、石破首相との初めての会談で為替操作国について言及することはないでしょうし、会談後もトランプ大統領は円高誘導ではなく他リクエストを優先するのではないかと思います。

しかし、トランプ大統領から円高誘導を持ちかけられることは、今の日本経済にとってそれほど悪いことではありません。というのも、日本の米国に対する交易条件は、円安を主因に悪化しているからです。

交易条件とは、輸出品の価格と輸入品の価格の比率(つまり輸出価格÷輸入価格)を示した指標です。たとえば、日本が輸出する製品(例として自動車)の価格が一定のままで、輸入する製品(例として原油)の価格だけが上がってしまうと、分母である輸入価格が上昇しますので、交易条件は悪化します。一方、輸出する製品の価格が上がったり、輸入する製品の価格が下がったりすると交易条件は改善します。

日本の米国に対する交易条件は、エネルギー価格の上昇や円安によって輸入価格が輸出価格よりも大きく上昇し、2021年から2022年にかけて大きく悪化し、2023年、2024年と3年連続で低水準のままです。


円安になると、海外から見た日本の輸出品は割安に見え、輸出数量は増えやすくなる利点がありますが、一方で日本が輸入する商品、とくに原油や食料品などの価格は、円安によって円建てで高くなります。

その結果、輸出で稼いだお金に対して、輸入品を買うコストが高くなる状態となります。これを「交易条件が悪化する」と言います。

しかし、もし円高が進めば、輸入価格が円建てで低下し、同じ金額でも多くの輸入品を購入することができるようになります。つまり「交易条件が改善する」ことになります。

今の日本経済は、所得が伸びているものの、物価も上昇してしまい、物価上昇分を考慮した実質所得は伸び悩んでいます。結果として、人々は物価上昇のデメリットを感じる傾向が強まっています。

そんな中、トランプ大統領がアメリカの貿易赤字の縮小を目指し、円高誘導を日本政府にリクエストされたら、石破首相はラッキーと言えるかもしれません。日本政府だけでなく米国政府も円高を望んでいるとなれば、為替市場はこれまでの円売り・ドル買いの動きを止め、反対に円買い・ドル売りの動きを強めるかもしれません。

結果として、円安の動きが止まり、円高方向に円相場が動けば、円建てで見た輸入物価は下落し、日本の物価上昇にも歯止めがかかることが期待されます。

トランプ大統領の円高リクエストが、石破政権の支持率上昇に一役買うといった展開を目にすることができれば、それはそれで興味深いですね。

村田雅志(むらた・まさし)

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村田雅志(むらた・まさし)
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