過去最高水準に膨らむトルコリラ買いポジション
東京金融取引所が運営する取引所FX(外国為替証拠金取引)「くりっく365」でトルコリラ/円(以下、リラ円とします)の建玉枚数が急増しています。
建玉枚数とは、投資家が保有している未決済の買いポジションと売りポジションの合計数量を指します。くりっく365の建玉枚数の単位は「枚」で、ほとんどの通貨ペアが1枚が1万通貨単位となります。
たとえばリラ円の場合、1枚が1万リラ円ですので、現在のレートですと約4.4万円となります。
くりっく365のリラ円の建玉枚数は、2020年から昨年(2023年)始めまで25万枚前後で推移していました。ところが2023年4月には30万枚、10月には40万枚を超えるようになりました。
そして今年(2024年)に入ると、リラ円の建玉枚数は50万枚を超え(2月)、5月には60万枚、7月には一気に80万枚を超えました。8月には67.0万枚に急減しますが、先月(10月)末には71.6万枚に持ち直しています。現在のレート(4.4円)で計算すると、リラ円の建玉金額は約315億円となります。
リラ円の建玉枚数が昨年始めから3倍増となるほど拡大した背景の一つにトルコの政策金利の上昇があります。
政策金利とは、中央銀行が一般の銀行に対して貸し出す際に適用する金利のことです。政策金利は一般の銀行に適用される金利ですので、他の金利も政策金利と同じ動きをするのが一般的です。そこで中央銀行は、政策金利を変えることで金利全体をコントロールし、金利の変化を通じて景気を刺激したり、物価上昇(インフレ)を抑制しようとします。
一般に、金利が低くなると景気が活発となり、反対に金利が高くなると景気が抑制されるものの、物価上昇(インフレ)が抑えられると言われています。
トルコの政策金利は昨年(2023年)初め9.00%でした。しかしトルコの消費者物価は前の年と比べ(前年比)50%を超える状態が続いていました。そこでトルコ中銀は、2023年6月に政策金利を15.00%に一気に引き上げ、その後も7月から12月にかけて、7.50%→25.00%→30.00%→35.00%→40.00%→42.5%と毎月引き上げました(利上げしました)。
トルコ中銀は今年(2024年)に入っても政策金利を引き上げ続け、1月に45.00%、3月に50.00%としました。その後、現時点までトルコの政策金利は50.00%で維持されています。ちなみにアメリカの政策金利(FFレート)は、4.75~5.00%に誘導されています。トルコの政策金利はアメリカの10倍となります。
政策金利が変化するとFX取引で受け取る(もしくは支払う)スワップ・ポイントも変化します。
スワップ・ポイントとは、FXで2つの異なる通貨を取引するときに保有した通貨ペアの間で生じる金利差をもとに発生する「受け取り」または「支払い」のことです。
リラ円の場合、トルコの金利水準は日本よりも高いため、トルコリラを買い、日本円を売る(つまりリラ円を買う)とトルコと日本との間の金利差に応じたスワップ・ポイントを受け取ることになります。
リラ円のスワップ・ポイントは他の通貨ペアに比べて非常に大きくなります。なぜならトルコの政策金利が50.00%と他国に比べてものすごく高く、結果としてスワップ・ポイントも大きくなるからです。
たとえば、くりっく365にて10月末時点でリラ円を1万枚(44,000円)買うと、スワップ・ポイントは1日当たり32円受け取ることになります。このスワップ・ポイントが変わらないのであれば、スワップ・ポイントで得られる金額は1カ月間で960円(32円×30日)、半年間で5,760円(32円×180日)、1年間で11,680円(32円×365日)受け取ることになります。
4.4万円の買いポジションを1年間持ち続けることで1.2万円弱のスワップ・ポイント収入(金利換算で約26.5%)が得られる、というのは、他の金融商品ではなかなか見当たりません。
また、くりっく365などFX取引ではレバレッジ取引もできます。レバレッジ取引とは、少ない資金でより大きな取引額を扱うことができる仕組みです。たとえばレバレッジ10倍で1万円を使えば、10万円分の通貨を取引できるようになります。
仮にレバレッジ10倍でリラ円1万枚(44,000円)を買うとすれば、必要となる資金は4,400円で済みます。一方、スワップ・ポイントはレバレッジの大きさにかかわらず同じですので、(スワップ・ポイントが変わらないという前提が付きますが)半年間で5,760円(32円×180日)、1年間で11,680円(32円×365日)を受け取ることができます。つまりレバレッジ10倍でリラ円を買えば、半年もしないうちに投資金額を回収することができます。
こうしたことを考えると、くりっく365でリラ円の建玉枚数が増えているのは、トルコの政策金利が上がり続け、今では50.00%に達してしまったためと考えられます。そしておそらく、この現象はくりっく365に限ったことではなく、店頭FX取引においてもリラ円の建玉枚数は昨年10月くらいから増え続けているのだろうと推察できます。
実際、くりっく365でのリラ円の建玉枚数とトルコの政策金利を並べてみると、リラ円の建玉枚数は、トルコの政策金利に遅れる形で増えているように見えます。
そして、リラ円の建玉枚数が増えた理由として、もう一つ考えられるのが、リラ円の下落が緩やかになってきたことです。
じつはトルコリラは、円安が進んだ2021年から現在に至るまで、日本円よりも大きく下落した数少ない通貨の一つなのです。この結果、リラ円(日本円に対するトルコリラの価値)はずっと下がっています。
たとえば、2021年のリラ円は、1年間で37.8%も下落してしまいました。当時のスワップ・ポイントでは、リラ円の下落をカバーすることができません。つまりトータルで見た場合、リラ円買いの取引は損失となります。
この状況は2021年だけでなく、2022年、2023年と続きました。結果論でしかありませんが、リラ円買いの取引は、長く持てば持つほど負ける確率が高くなるものだったと言えます。
このように下げ続けてきたリラ円ですが、じつは今年(2024年)8月からは下げるペースが弱まり、9月半ばからは(なんと)緩やかながらも上昇基調となっています。この結果、今年初めから10月末までの下落率は7.4%に留まり、(スワップ・ポイントが下がらないという前提が付きますが)スワップ・ポイントでリラ円下落の損失をカバーできる状況になっています。
リラ円がこうした動きをみせていることから、スワップ・ポイントも含めたトータルでのリターン(利益)がプラスになる、という思惑が強まり、リラ円の買いポジションを増やす投資家が増えたと考えることもできそうです。