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ペンギン見ませんでしたか?その四。

映画を観終わる頃には、三本の瓶ビールがペンギンの胃袋に流し込まれていた。いつになったら帰ってくれるのだろうと思いながら彼女が歯を磨き始めると、ペンギンは言った。

「わたしもベッドの中で寝ていいかな」

「え、泊まっていくんですか?」

「うむ。夜も遅いし、泊まることにするよ」

「というか、ペンギンって立ったまま眠るんですよね?それならベランダでもよく…」

「ないに決まってるだろう。今何月だと思ってるんだ?神の使いを凍死させる気か?」

議論するのがめんどくさくなってきたので、彼女は一つだけ条件を出した。

「布団の中で眠りたいなら、マウスウォッシュしてください」

彼女は洗面所から300mlくらいのマウスウォッシュのボトルを持ってきた。それを手渡すと、神の使いはキャップを開けて豪快に飲み干してしまった。

・ ・ ・ ・ ・

くちばしが当たらないよう横向きに寝てもらっても、ミントの香りがぷんぷん漂ってきた。思いのほかペンギンの体は温かく、彼女もぐっすりと眠れそうだった。「おやすみなさい」と言う暇もなく、神の使いはいびきをかいて夢の世界へと旅立っていった。

その夜、彼女も久しぶりに夢を見た。

彼女は真っ赤なりんごを手のひらに乗せていた。それを上に投げ、受け止めては投げと繰り返しながら街を歩いていると、一人の男性が声をかけてきた。彼も同じような色合いのりんごを持っていたからだ。

二人は近くの喫茶店でコーヒーを飲むことになった。会話は弾み、彼に対する好意が高まっていくのを彼女は感じていた。しかし、名前を聞こうとしたところでその夢は終わってしまった。また不運なことに、目を覚ました彼女はその夢の記憶を完全に失っていた。

彼女は上半身を起こして、カーテンの隙間から朝の光が差し込む自分の部屋を見回した。ベッドの上にペンギンの姿はなく、立ち上がって探しても見つからなかった。代わりに見つかったのは、冷蔵庫の上に置かれた真っ赤なりんごだった。

彼女はそれを見て、大学生の頃にひと玉のりんごを川へ流したことを思い出した。それからふと、そのときはまだ青みを帯びていた果実が熟しきった姿で再び現れたのかもしれないと思った。

彼女はりんごを手に取って、しばらく見つめてからその肌触りを確かめた。すると、特に理由はないけれど街へ出かけたい気分になってきた。休みの日だし、予定なんて一つも入っていなかった。


家を出るとき、彼女はなんとなくりんごを持っていくことにした。「ご利益はある」というペンギンの言葉を思い出したからだ。

マンションの外に出ると、冬の晴れた日に香るシナモンのような匂いがした。穏やかな光を浴びながら、「神さまは意外とすぐ近くにいるのかもしれない」と彼女は思った。


ーーおしまいーー


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