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ペンギン見ませんでしたか?その三。

「しゃべれるんだ」

彼女は自分に向かってげっぷを放ったペンギンに向かってそう言った。

「もちろん」

「なんで今まで黙ってたんですか?」

「君が話しかけてこなかったからさ。それに、食事中だったからね」

そう言われると納得せざるを得なかったが、その食事は彼女が夕飯のためにとっておいたものだった。

「まあ座りなよ。夕飯は食べた?」

「まだです」

「冷蔵庫にマリネがあるから、それでサンドウィッチでもつくったらどうだい」

彼女は冷蔵庫を開けて余ったバゲットとマリネを取り出し、サーモンのことを考えながらそれを食べた。

「飼い主の人が探してましたよ」

「飼い主?わたしはペットになった覚えなどない。あれはただの同業者だ」

「同業者?」

「うむ。わかりやすく言うと、神の使いのようなものだ」

中年の男性やペンギンの姿をした神の使いにいったいどのような役割があるのか、彼女にはいまいち理解できなかった。

「ということは、私に何かご利益でもあるんですか?」

「ある。ただ、それは君のとる行動次第で内容が変わったりする。ので、具体的に説明することはできない」

「なるほど。じゃあ、どうして私が選ばれたんですか?」

「特に理由はない。警官が突然ピンポーンって訪ねてきて、家の住人とかについて聞かれたことがあるだろう?」

「あります」

「それと同じだ。わたしたちはちゃんと仕事をしていますよ、皆さんの安全をお守りしますよ、的なPR活動さ」

彼女は黙ってうなずいた。このペンギンは身分証を持っていないし、勝手にあがりこんできたけれど。

「とりあえず、ゲームでもやります?」

・ ・ ・ ・ ・

指がないわりには器用にコントローラーを操作していたけれど、熟達した彼女のスキルには到底及ばなかった。神の使いなら手加減する必要もないだろうと思っていたけれど、ペンギンがだんだん不機嫌になってきたので中断することにした。

「お風呂入ってくるので、なんか映画でも観ててください」

「おう」

シャワーを浴びていると笑い声が聞こえてきたので、彼女は安心した。ドライヤーで髪を乾かしてから外に出ると、テレビの画面には「皇帝ペンギン」が映されていた。いったいどこに笑える要素があるのか見当もつかなかったけれど、彼女は大人しく冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。

「飲みます?」

「瓶のやつがいいな」

彼女は富山で買ってきた地ビールの瓶をペンギンのために開けてやった。

「おお、やっぱり水が綺麗だと旨いね」

彼女は隣で缶ビールを飲みながら、「皇帝ペンギン」の続きを一緒に観た。吹雪の中で体を張って卵を温めるペンギンの姿を見ながら、瓶ビールを持った神の使いは大きなげっぷをぶちかました。


ーー続きは明日ーー

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