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りんご、落としましたよ。その二。

彼女はとりあえず、近くの河川敷へ寄ってみることにした。そこで腰をおろして考えていれば、なにか納得のいく答えが浮かんでくるように思えたからだ。

傾斜のある芝生のあたりには座りたくなかったので、彼女は階段をおりて橋の下のほうまで歩いていった。そこなら、川のすぐそばにちょうどいい大きさの岩がある。

向こう岸でたむろしている哀れな男子中学生の群れを眺めながらぼーっとしていると、三つの選択肢が彼女の頭に浮かび上がってきた。

①食べる

毒入りのリスクを覚悟しながらも、王子様のキスというリターンを信じて今すぐ齧りつく。あるいは、悪魔の実である可能性に賭けてその場で貪りつくす。

②警察に届ける

謎に満ちた事件の真相が明らかになるかもしれない。もしくは、公務執行妨害罪で留置所に入れられるかもしれない。カツ丼が食べられるかもしれない。

③SNSで拡散する

もしかして、これは選ばれし人間にだけ与えられるギフトのようなものなのだろうか。だとすると、メルカリで売りさばけるかもしれない。運が良ければ、このりんごをきっかけにイケメンの年上男性と知り合える可能性もなくはない。


どれくらいの時間が経過しただろう。彼女が顔を上げると、川の水面に反射していた黄金色の西日が赤みを帯びた夕日へと変化していた。

それはとても美しかった。見慣れた光景のはずなのに、その瞬間がこれまで目にしてきたものの中で最も美しく見えたのだ。

・ ・ ・ ・ ・

立ち上がって歩き始めた彼女の背後には、あらゆるものをどこかへ運んでいく川の流れがあった。

りんごはその上に慎ましく浮かびながら、次の目的地へと緩やかに運び去られていった。

彼女は幸せな気分に包まれていた。今ならどこにだって行ける。そんなふうに思うことができた。

そしてこのまま歩き続ければ、自分のためだけに用意された場所へ辿り着けるような気がした。


彼女のトートバッグは、いつの間にかどこかへ消えて無くなっていた。


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