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"グレープフルーツ" 2/2

 僕はほとんどの時間を庭で遊びながら過ごした。けっこう大きな庭で、手作りのブランコなんかもあったような気がする。子どもは僕たち以外にもいたのだけれど、小さい女の子たちだったので別々に遊んでいた。

 その少しあとだったと思う。彼が「それ」を僕に見せてくれたのは。庭で遊びまわって、ちょっと休憩しようかみたいな感じで家の中に入ることになった。お菓子を食べながらくつろいでいたら彼が突然、「二階に行こう」と言った。

 部屋の中で何かをガサゴソと探していた彼の後ろ姿を僕はまだ覚えている。だけど、「それ」がいったい何であったのかは忘れてしまった。

 彼の宝物というか、何かの研究の成果のようなものであったと思う。それは何かしら、太陽の光を反射させる物体だった。ビー玉みたいな球体の内側に光が宿って見えるような、そんな感じだった。

・ ・ ・ ・ ・

 なにはともあれ、手のひらの上に溜まっていくぬめり気を帯びた果実の種を眺めながら、僕はそんな記憶に思いを巡らせていた。

 彼は本当に死んでしまったんだろうか? 


 大きなグレープフルーツは、まだ半分ほど手つかずのまま残っている。これから時間をかけて、みんなでそれを食べ尽くしてあげなくてはならない。

 あのとき彼が見せてくれたのは、いったいどんなものだったんだろうか? そしてこの溜まり続けていく種たちは、どこにどうすればいいんだろうか?

 わからない。僕には何ひとつ、わからないのだ。


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