高畑勲監督のアニメ「赤毛のアン」(1979年)ブルーレイBOXレビュー「受験生だった頃はアン・シャーリーに感情移入し…年を取った今はマシュウに感情移入する様になりました…」
つい先日高畑勲監督のアニメ「母をたずねて三千里」(1976年)の
DVD-BOXを買ったばかりだと言うのに…
いちどタガが外れると止められない止まらなない…
Amazonで「赤毛のアン」HDリマスター版ブルーレイBOXが
27%OFFで売っていたので…エイヤっとルビコン川を渡り…
DVDとブルーレイの最大の違いは「容量」で…
ブルーレイはDVDのおよそ2倍の容量を誇り…
「三千里」のDVD-BOXは円盤1枚につき4話が収録されてますが…
「アン」のBD-BOXは円盤1枚につきおよそ7話が収録され…
1枚だけ8話収録されてるので…
7話×円盤6枚+8話×円盤1枚=全50話(円盤7枚組)という収録状況となり…
全52話で円盤13枚組となった「三千里」より…およそ半分の円盤数となり…
作品視聴の際の円盤の出し入れの煩雑さが半減し…
多くの場合,居住空間に占める映像ソフトの割合が軽減されるのです…。
僕は1979年の本放送時の「赤毛のアン」を観ておらず…
高校3年生…受験生の時分に夕方の再放送で「アン」と出会いました。
「アン」はこれまでの「世界名作劇場」と異なり…
最初は10~11歳で登場したアンが途中から15歳に成長し…
頭脳明晰・成績優秀となり…難関校を受験する受験生となり…
自分の運命を自分で制御し始めます…。
僕もアンと同じ受験生だったコトもあり…
何と言うか…「同じ難関校を受験する仲間」と思い…
彼女の生き様を「励み」にして一生で最も勉学に打ち込みました。
僕は志望校に進学を決めたのですが…
彼女は…進学の道を断念し…
ギルバートと和解し…
グリーンゲイブルズで教職の道に進むこととなります…。
彼女は…昔は「自分の進む道」は真っ直ぐ続く1本道だと思っていたけれど…
実は人生には至る所に「曲がり角」があり…
マシュウの他界…殆ど視力を失い…人生の光をも失ったマリラの嘆きを見て…
「ワタシは…人生は才覚ひとつで幾らでも切り拓けると思っていたが…」
「ソレは…ワタシの増上慢だった…」
「ワタシの人生を左右するのは…『神の思し召し』である…」
「マシュウがいなくなったのも…マリラが光を失ったのも…」
「ワタシは…この…『神の思し召し』を受け入れる…」
「ソレこそが『ワタシの選択』『ワタシの決断』である…」
「神は天にいまし すべて世は事もなし」
(God's in his heaven,all's right with the world)
は詩人ブラウニングの「ピッパが通る」という詩の
ピッパの最後のセリフであり…
モンゴメリによる「赤毛のアン」の原作は…
しばしばブラウニングの詩を引用し…
アンの最後のセリフとして…
このブラウニングの詩の一節を諳んじさせるのです…
アニメ版の「アン」でもアンはこの言葉を諳んじ…
最終話の表題となっているのです…。
この境地に到達するのは子供では無理。
アンが作中成長するのは作劇の要請なのです…。
庵野秀明監督はアニメ版の「アン」の…
取り分けマシュウのファンであり…
「エヴァンゲリオン」のネルフ創設の精神として
God's in his heaven,all's right with the world
を引用しています…。
今になって…年を取ってから「アン」の第1話を観ると…
人付き合いが苦手で…
特に「オンナ」という生き物は…
例え「コドモ」であろうとも怖気付てしまう
マシュウに感情移入するようになりました。
スペンサー夫人を介して孤児院に
「10~11歳の男の子」を引き取って
教育を与えて働き手に育てたいマシュウの意向は
「10~11歳の痩せっぽちの赤毛の女の子」が
何かの手違いでやって来たコトによって
早くも頓挫したかの様に思われたのですが…
ソレは「手違い」などではなく…
その初対面の女の子は
「おじさん!ワタシ達きっとウマが合うわ!」
とマシュウの心の障壁を無造作に乗り越えて来て…
マシュウに…「オンナ」とかいう
ワケの分からない生き物のなかに…
初めて「ウマの合うオンナ」が出現し…
マリラにひじょうぉぉぉ~うに言い辛そうに…
「この子でいいんじゃないかな…」
と申し出る様が…高畑監督は…最初から「アン」を深く理解し…
この世には…「偶然」も「手違い」もなく…
全ては「神意」の一部であると…
少しも説教臭くなく描いているのだと…今は思ってます…。
先に述べた通り…
僕は「赤毛のアン」を本放送で観てません…
でも…僕は…「赤毛のアン」を…履修した結果…
今は「観るべきときに観た」と思ってます…。
モンゴメリの「赤毛のアン」が
何時でも誰にでも門戸が開かれている様に
アニメの「赤毛のアン」もまた…
「観たいときに観る」のが…
いつだって…最高の出会いだと思ってます…。
第1話はアンとマシュウの初対面・続く会話・
「喜びの白い道」のアンの心象風景…
樹木の間から…サッと断続的に差し込んで来る陽光…と
奇跡の様なカット割り・レイアウトの連続で…
もう本当にね…
「有難いものを拝ませていただいてる」
という感謝で…
涙が流れるのです…
HDリマスター画質はとってもキレイ…。
何もして貰えない「三千里」との「扱いの差」に…
まあ…それなりに…
腹の底で「コンチクショー」のマグマが渦巻きます…
「赤毛のアン」は1979年に作られたアニメで…
勿論今で言うアナログ放送で…
画面比は4:3…
アニメの「赤毛のアン」はレイアウトの美しさが命の作品であり…
画面比16:9に変換すると…その神レイアウトが台無しになるんです…
従って本作のHD化はスタンダードサイズ(4:3)で行われる絶対の必要があり…
本ブルーレイBOXでは全50話全てが
スタンダードサイズで収録されております…。
「未来少年コナン」の最初のブルーレイBOXでは…
スタンダードサイズと画面比16:9のサイズが両方収録されてましたが…
「アン」は絶対にソレをやってはいけない作品なんです…。
特典ディスクは
・レイアウトギャラリー
・美術ギャラリー
・制作資料ギャラリー
・イラストギャラリー
が並び…作画監督(近藤喜文さん)の習作やスケッチ・落書きまで掲載。
ソレ…ファンが一番みたいやつっ!
本当にね…ブルーレイBOX全体に「作品に対する愛」が充満していて
非常に満足度の高い内容となってます…。
この「愛」の…100分の1でも「三千里」に注いでいただけたら…
と「恨み事」が言いたくなる程です…。
いま解説書のアン役の山田栄子さんと
ダイアナ役の高島雅羅さんの対談読んでるけど
山田さんがオーディションの際に
モンゴメリの「赤毛のアン」の一節を読まされて採用されて…
「貴方のオーディションでの声の演技を買って採用したのに…」
「何故同じ演技が出来ない…!?」「もういいです!」
って何遍も叱られたって挿話が死ぬ程好き…。