吉本浩二「定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ」第1巻レビュー「「夢を追って生きる自由人」の欺瞞を暴く漫画に化けましたね」。
漫画家の吉本浩二先生が奥様とお子さん2人を育てながら月々21,000円の小遣いで同遣り繰りするのか描く漫画として本作はスタートしたのですが次第に「他の人は少ないどう遣り繰りしてるのか」に話が広がり「小遣いの達人」の皆さんを取材する漫画に変わって行きました。
吉本先生の御趣味が「菓子を食べる事」なのですが先生は「コンビニの陳列棚に菓子がズラーッと並んでるのを見るのが好き」「自販機でコーラを買って飲むのが好き」で家計を考えるなら菓子も清涼飲料水も業務スーパーで買えばいい,売り切れ間近の値引き商品を買えばいい,それよりパックの麦茶を湧かして水筒を携行すればいい,と幾らでも突き詰められる。
でもその行き先は「ぶっちゃけ小遣いゼロでいいじゃね」であって,これはネタバレとなるのですが,第2巻で「俺は小遣いゼロでいい」って「聖人」が登場して本作品の企画は破綻してるのです。
でもまあ家計全体を考えれば「小遣いゼロ」がベストアンサーなのですが,本作品ではそこまで突き詰めない。
これは少しずつ御自分を甘やかすのがお好きな吉本先生のパーソナリティに依存してると思われます。
家計全体を考えると突き詰めちゃうから小遣いの話に限るのです。
本書に登場する「小遣いの達人」の皆さんは私用で使う車がありません。
皆自転車か徒歩。
車は金かかりますからね。
バイカーも登場しますが部品をヤフオクやメルカリで購入して自分で整備する…って件(くだり)に「整備の職能」は専門的な教育・訓練が必要で真似出来ない。
幾らYouTubeの「整備の仕方」の動画を参照しながら修理すると言ったってねえ…。
バイクや車はデカい初期投資が必要で一度手放してまた買おうとすると「月々の小遣い生活」が一瞬で破綻するのが「本書の限界」なのです。
月々の小遣いの内訳は映画を観たり,本を読んだり…あとは食ですね。
ポンタカードが使える店でしか買い物せず数か月に一度溜まったポンタポイントでKFCのチキンとビールをタダで購入して「ポイント食い」するのが「最高の贅沢」となります。
…このレビューを読んでて「胸のムカツキ」を抑えられない方のお気持ち,よおく分かります。
「何でこんなミミッチイ真似までして節約しなきゃならんのか」
「俺が稼いだ金を俺がどう使おうが俺の勝手」
と本作に登場する「小遣いの達人」の皆さんが喜色満面で実に嬉しそうに節約術を語るのが癇に障り蛇蝎の様に嫌う方が実際におられ,
地下帝国編に於けるカイジの様に
「バカがっ…!」
「欲に流れて…」
「夢も追えないのか…!?」
「自堕落な連中めっ…!」
と「小遣いの達人」の皆さんを心中で罵倒してるのです。
自称「カイジ側の人間」が頻繁に持ち出すのは「夢」って単語で
「男は夢を追って生きるべきであって日々の生活に追われるべきじゃない」
ってのが持論。
本作の最新刊で
「会社に半ば住み込んで働き,通勤電車で社歌を頭の中で歌うのが趣味」
って達人が登場した際の
自称「カイジ側の人間」達の周章狼狽ぶりは実に見物でした。
夢を追って生きてる筈の自由人が「徹底的な会社人間」を言葉の限りを尽くして罵倒する様は,
自分を「夢を追って生きる自由人」と言っておきながら,
その実ちっとも自由に生きてない,その欺瞞を露呈してて,
本作が反響を呼んでる現象の一端を垣間見た思いがします。
なんでそれ程周章狼狽する必要があるんですかねえ。
夢を追って生きてる自由人のみ・な・さ・ん。
僕はこういう「人の逆鱗に無造作に触れる漫画」が大好き。
本作は節約漫画として出発した筈が「自由人」の欺瞞を暴く漫画に化けた,
これからも何が起こるか分からない危険で面白い漫画と言えますね。