ジャッキー・チェンの映画「龍拳」(吹替完全版)レビュー「ヒトは…昔の恨みを水に流すなんて出来はしないし…決して心を入れ替えて『生まれ変わる』コトもまた出来はしないのだ…」
唐山道場の館長サンタイは権威ある武芸大会で優勝し
「武術界の権威」の看板を贈られ道場内は祝賀ムードで賑わう。
ソコに百勝道場の館長チュンが乗り込んで来て
「オレが参加してない大会で優勝して『武術界の権威』とは片腹痛い」
とサンタイを面と向かって中傷し挑発し始める。
チュンはサンタイを昔…。
今のチュン夫人の愛を奪い合った恋敵として今も遺恨に思っているのだ。
チュンはサンタイに中傷しただけでは気が済まず
サンタイに勝負を挑み拳法の秘術でコレを負かし
サンタイが降参しているにもかからわず攻撃を続けたばかりか
「武術界の権威」の看板を奪った挙句,
唐山道場の看板を叩き壊して去って行く。
サンタイは唐山道場の再興とチュンへの復讐を
一番弟子のホーエン(ジャッキー・チェン)に
託して悲憤と恥辱に塗れながら死に
妻子が路頭に迷い
ホーエンは師匠の妻子を養いながら
唐山道場の「龍拳」の腕を磨き始める。
一方チュン夫人は
夫の余りにも浅ましい所業に悲嘆に暮れ
首を吊って死んで見せることで夫を諫め,
夫への変わらぬ愛を証明する。
チュンは己の脚を剣で切断し
武術家としての生命を自ら断ち…
妻の遺言通り昔の恨みを忘れ忍耐強く
周囲の人々に優しい人間になる様努め始め…
道場名も「百勝道場」から「百忍道場」と改め…
町の名士となってヤクザ者ウェイの一味の乱暴狼藉から
人々を守る様になって行く…。
そんなこととは露知らぬホーエンは
3年間の厳しい修行を終えて
師匠の妻子を伴ってチュンに会いに行く。
勿論師匠の仇を討つ様を見せる為にだ。
だが…チュンが脚を切断して反省し…
昔チュンが叩き壊した看板を黄金の看板にして返す行いに対し…
ホーエンは…例え脚を切断しようとも…断じてチュンを許せず…
ヤクザ者ウェイの用心棒となって
町の人々を苦しめるのに加担するのだった…。
ホーエンはッ!
チュンがもがき苦しむ姿が見たいのだッ!
ヤクザ者ウェイに自分の幼い息子を殺されたチュンは…。
ウェイ一味との全面対決を決断する。
そのウェイ一味の筆頭にあのホーエンがいる…。
町の人々を苦しめるゴロツキと化して…。
ただ!
「チュンの苦しむ姿」を見たい一心でッ!
復讐心に取り憑かれたッ!
ヒトデナシのケダモノと化してッ!
ホーエンの師匠サンタイは…
弟子たちに常に「正しく生きる」よう指導してきた…。
コレが…オマエが師匠の言葉を守って…。
「正しく生きた」結果なのかよホーエン…。
初見。
僕はこの…「龍拳」が…。
ありとあらゆるジャッキー映画の中で…。
一番スキかも知れん…。
もうね。
観客に「どうせ」と言われて映画館を出ていかれるのが嫌で…
絶対に「どうせ」と言われない映画創りを指向したジャッキーが…
「次」に何が起こるか誰にも分からない到達点がッ!
この映画だと断言するッ!
もうね。
「正しく生きる」コトってこんなに難しいのか…。
「恨みに思う気持ちを水に流す」コトってこれ程難しいのか…。
「過去を悔い改めてやり直す」コトってこんなにも難しいのか…。
その「難しさ」が延々延々と描かれているのですよ…。
もうね。
こんな酷い酷い酷い酷い映画…久しぶりに観たよ…。
爽快感ゼロ。カタルシスゼロ。
「ジャッキーはコミカルなカンフー映画が得意」と思っていたが…。
僕が間違っていたッ!
まあ一応ヤクザ者ウェイが「ラスボス」なんですが…
ウェイは拳法の達人って訳ではなく
ジャッキーが「正しい拳法」で「悪い拳法」を
粉砕する爽快感を徹底的に排除し…。
拳法もヘッタクレもなくジャッキーがウェイを殴り続ける
後味の非常に悪い「最後の戦い」になっております。
何が「悪い」って言ったら
「昔の恨みを決して忘れない人の心」
になるのでしょうが…。
「恨み」を忘れて水に流すことなど出来はしないトコロに
この映画の「素晴らしさ」が結晶化しており…
「ヒトが心を入れ替えて「生まれ変わる」のは無理だと思う…」
というジャッキーの「本音」が伝わって来て…。
「ホントにその通りだなあ」とジャッキーに初めて共感を覚えたよ…。
「龍拳」は…「人の更生」を認めもしないし許しもしない映画なんです…。
ジャッキー・チェンの声の出演は石丸博也さん。
チュンの声の出演は納谷悟朗さん。
兜甲児,銭形警部,ガンツ先生,島村ジョー…。
ホントにね…吹替文化は円盤に記録して永く永く記念したいですね…。