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福満しげゆき先生の「僕の小規模な失敗」レビュー

中3の時に受験勉強をしなかったせいで普通高校に入れず工業高校に入り,工業高校を出ても就職出来ず,定時制高校に入り直す。
その間も漫画を描いてるが全然ダメ。
年齢ばかりがいたずらの重なって定時制高校を出た頃には21歳に。
それでも就職出来ずに大学に入って構内の暗い階段下で漫画を読む。
バイトで稼いだ金をホームレスにバラ撒いて優越感に浸るのが楽しみ…。
アンタ一体何の為に生きてんの?

まず驚くべき事は斯様なロクデナシに学費を出し続け住む事を許し続ける「実家」の有難さである。福満先生は「実家」に甘え社会に出たくないだけなのでは?一度も自分の人生と向き合わず口癖が「どうしよう…」。そんなの僕が聴きたいよ!
そんな先生が初めて人生に向き合ったのが「好きな人が出来たから」。

好きな人と結婚したくて猛アタックするものの先生御自身は自覚が無かったのだけれど先生は酒乱で酒を飲むと記憶が飛んで,記憶が飛んでる最中に周囲の人間に大暴言を吐き,女性にセクハラ行為を働いている(らしい)。
好きな人に電話かけまくって電話代が12万に。
挙句酒乱のストーカー呼ばわりされてフラれて初めて人にハッキリと拒絶されたショックでうつ病病みとなって精神科通いに。

この…先生の転落人生描写が延々と続くのである。
数少ない友達と遊ぶカードゲームが(カイジの)Eカード!
いやあ~僕は私小説は読まないけど「私小説漫画」なるものを始めて読んで,転落して行く主人公を見て思わず「何で延々「僕の事」が描き綴られてるんだ」と叫んでしまいました。
うつ病で会社を解雇されて「実家」でボケーッっと過ごすロクデナシの僕が本作の主人公(福満先生自身)に重なって,もうね,箆棒に面白いのです。
本書でドロップアウトした人って自分よりも「下」の人間を見て嘲笑う人間のクズであることが赤裸々に描写され,この本を読んで「僕は未だマシな部類に入るな」と「安心」する僕や皆の為に描かれた漫画なのである。

生まれて来てから良い事なんてひとつも無く,もう死んじゃおっかなあって人を止める気は僕には有りません。
でもさ。死ぬ前に本書を読んでみては如何でしょうか。
人間って現金な生物で自分より「下」の人間を見てゲラゲラ笑うと生きる気力が湧いてくるのですよ。
「僕より酷いクズがいるから僕は上級国民」ってね。

勝利勝利の人生を重ねて来た方に本書は不要です。
負け犬を見てると反吐が出る方にも本書は不要です。

でもね。本書を読んで「救われる魂」があるんです。
生まれてこの方,良い事なんてひとつも無かった人間に優越感を与える力があるんです。
本書が2005年から細々ながら増版を繰り返してるのは「救われない魂」がお布施してるからなのです。
帯には「これぞアックス版まんが道」(アックスは掲載雑誌名ですね)と書かれてるけど,コレ「まんが道」じゃねえよ!
これまでの人生で一遍も必死になった事の無かった若者が「あの子と結婚したい」一心で初めて必死になる恋愛漫画なのですよ。
やっぱり主人公が必死な漫画は感情移入出来ますよ。
だから本書は第8話(あの子との出会い)からキモい若者の熱血漫画に変わって行くのです。
青春は常に無様でみっともないけど若者の必死な姿は胸を打つものがあります。
例え.その若者がロクデナシのクズの酒乱のセクハラ野郎のストーカーでもね!
因みに「あの子」は現在の先生の奥様で,失敗続きの負け続けの先生の人生で初めて「結婚したい」って願望を叶えた訳です。
その後先生は「妻に恋する66の方法」とか「妻観察日記」とかを執筆されてます。
要するに奥様の存在が先生の創作意欲の根源となってる訳ですね。

先生の奥様を愛する人生が私小説であって奥様との人生が続く限り私小説もまた続くのです。

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