こしたてつひろ先生の漫画「炎の闘球女 ドッジ弾子」第1巻レビュー「弾子は一体「何」と闘ってるのか?」
1989年から1995年にかけて玉川小学校で
闘球(スーパードッジボール)に燃える小学生・一撃弾平が
過酷な特訓で己と仲間を鍛え上げライバルと切磋琢磨する模様を描いた,
こしたてつひろ先生の漫画「炎の闘球児 ドッジ弾平」。
だが弾平の過酷な特訓…直径3mある鉄球を全身で受け止めたり,
高さ10mある平均台の上でドッジしたり…。
…が多くの怪我人を生み闘球部は27年前(1997年)に廃部に追い込まれる。
弾平は後年娘・弾子を設け玉川小闘球部復活の夢を託すべく
娘に己の闘球技術を叩き込むも数年前に他界する。
弾平の長年の相棒・小仏珍念は寺を継いで住職となり
一撃家代々の墓を守っている。
珍念には娘・珍子がいて,
こした先生の設定を引用すると
「珍子と弾子は生まれた時からずっと一緒」。
魂を繋ぎ合ったふたりは,それが当たり前であるかの様に
玉川小…今や少子化で新玉川小中一貫校と改名してる…。
…で闘球部復活に向けて始動するが
行く手には難題が立ちはだかるのだった…。
平たく言えば本作は
「炎の闘球児 ドッジ弾平 ネクストジェネレーション」であり
前作では男子闘球部を描いてたのが
今作では女子闘球部を描いてる訳ですね。
弾平の娘だから弾子はいいとして
珍念の娘だから珍子とは酷いと思ってたが作中
「これこれ珍子よ」とか
「ほら珍子もガチガチだぜ」とか
「ち,珍子ちゃんかたいわね」とか
「かてーよ珍子!」とか
コロコロらしい,いじられ方をしてます。
二階堂大河の娘も弾子のライバルとして登場するのですが名前は平子。
「え?命名規則から言って大河の娘だから大子では?」
と思うじゃろ?
大河くんは弾平にクソデカ感情を抱く余り
弾平の「平」の字を取って娘に付けたという変態的な設定となってます。
平子もそんな父の指導宜しきを得て
弾子にクソデカ感情を抱く立派な変態に成長しました。
口癖は勿論「見損なったぞ弾子くん!」「五十嵐を呼べ!」
前作を御存知の方は思わずニヤリですね。
21世紀になって子供の数が減って
親も教師も子供を過保護に育てる様になりました。
あの弾平にしてからが練習中に弾子の顔面にボールをぶつけた事を
「危ないから,もうドッジ止めような…」
と謝罪して泣く有様。
学校の教師は
「スポーツは体を動かして健康になれば十分です」
「そんな危険なスポーツ女の子がやるものじゃありません」
「その通り!女の子は女の子らしく…」
と指導してて弾子が戦ってるのは
何も敵強豪校だけではない事が示されてます。
親や教師達は「弾子の為に良かれと思って」言ってて
悪意がゼロなのが殊更にタチが悪いですね。
弾子は子供を際限なく軟弱に
「優しさだけが取り柄の人間」にしようとする空気や
「女の子は女の子らしく生きろ」って圧迫とも戦ってるのですよ。
こういう実に世知辛い世の中で
「自分らしく生きる」事を追究するこした先生を応援したいですね。
本巻で一番印象に残ってるのが弾子の特訓で倒れた
モブ男子に普段から生徒を「私の可愛い天使達」と呼び
「大人しくジッとしてる事」を最善と教えて来た女教師が駆け寄るのですが,
そのモブ男子が鼻血を流しながら
「これ位平気ですよ先生…」
「危ないから下がっててくださいね…」
って言って女教師が赤面し
「私の可愛い天使達は何処に行ったの?」
「逞しくなりすぎ~!」
と叫ぶ場面。
女教師は子供を去勢して
「自分らしさ」を抑圧して逞しさを奪ってた事に気付く場面ですね。
子供は天使じゃなく闘争心をキチンと持っているのですよ。
こした先生は御年58歳。
そのお歳を全く感じさせない「熱さ」に震えます。
本作は「弾平」の女子版といった矮小な内容ではなく
子供に「自分らしく生きて欲しい」との
願いが込められた「祈り」の様な作品なのですよ。
本作は現在も配信中の漫画なのですが,ひとつ不安があります。
2022年度のスーパー戦隊「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」全話の
脚本を書かれた井上敏樹氏は雑誌のインタビューに答えて
「『里見八犬伝』で一番面白いのは
様々な超常能力を持った八犬士が集まる過程だろ」
「全員集まると途端に面白くなくなって八犬士が敵の本拠地に乗り込んで
ラスボスと戦うしかなくなって,
ただのルーチンワーク・作業になっちまうんだ」
「だから俺は中々ドンブラザーズの
メンバーが揃わない様に脚本を書いたんだ」
実際ドンブラザーズが全員揃って
初めて小高い丘の上でひとりひとり見栄を切ったのは何と最終回だった。
何が言いたいのかと言うと本作もまた
女子闘球部に個性ある面子が集まって行く序盤が箆棒に面白いのだが,
いざ集まってしまうと後はもう
「ライバル校と試合をする」しかやる事がない上に,
その試合が余り面白くないという宿命の様な欠点を抱えているのである。
現在弾子達は平子が率いるメイドさんチームと戦っているが
今迄「弾子」を熱烈に支援してた人達が
急に潮が引く様に去って行ってるのだ。
こした先生も,この状況に気付いてない筈無いので,
この「宿命」とどう戦うのかが今後の見所となるだろう。
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