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ジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」のアルジェント版とディレクターズカット版には予告編以外の特典は本当に「無い」のか?

ロメロ監督の「ゾンビ」(1978年)には3つのバージョンがある。
ロメロ監督は「ゾンビ」制作時の資金難から
「サスペリアPART2」「サスペリア」で時代の寵児となっていた
ダリオ・アルジェント監督に「ゾンビ」の編集権と非英語圏での上映権と
引き換えに出資を依頼した。
これにより英語圏ではロメロ監督の「ゾンビ」が,
非英語圏では「ゾンビ」アルジェント監修版が上映された。
日本は非英語圏に属しますのでアルジェント版が上映されました。
英語圏で上映された「ゾンビ」には粗編集段階の「叩き台」が存在し
今では「ディレクターズカット版」と呼ばれてます。
しかし冷静に考えてみれば,この命名はおかしくて,
「ディレクターズカット版」を元にロメロ監督が納得の行く編集を施して
英語圏で上映した所謂「米国劇場公開版」こそが「ディレクターズカット」であって,現在「ディレクターズカット版」と呼ばれているバージョンは
粗編集版・長尺版と呼ばれるべきだと
国内の熱心なファンからは言われてます。

しかしまあアルジェント監督の
「サスペリアPART2」は「サスペリア」の続編でも何でもありません。
先に述べた論法で行くなら
原題の「PRFONDO ROSSO」の日本語訳である
「深紅」が「正しい邦題」なのでしょうが
テレビゲーム「アーマードコア6」でウォルターも言ってますよね。

「一度生まれたものは,そう簡単には死なない」って。

今更「サスペリアPART2」を死なすことが出来ない様に
「ゾンビ ディレクターズカット版」も
簡単に消し去ることは出来ないのです。
今更ね。

閑話休題

そんなこんなで「ゾンビ」には
1.米国劇場公開版
2.ダリオ・アルジェント監修版
3.ディレクターズカット版
の3バージョンが存在するのですが
米国劇場公開版の北米ブルーレイには
ロメロ監督が参加された音声解説や特典が沢山付いているのですが
従来のアルジェント版やディレクターズカット版の
国内DVDには非英語圏向けの予告編が付く程度。

2009年迄はロメロ監督にとって「嫡男」は米国劇場公開版であって,
アルジェント版とディレクターズカット版は継子扱いされてるのしら
だから予告編以外の特典は付かないのかしら
尚且つ非英語圏に在住する身の上では米国劇場公開版の特典すらも
貧弱なのかしらと僻んでいたのですが,
2010年にスティングレイ社から新世紀完全版DVD-BOXが発売され,
自らの不明と誤謬を恥じる事となりました。

あのさ。1979年にアルジェント版を元にしたバージョンが日本で公開され,
1980年に同じくアルジェント版を元にした
所謂「サスペリア版」が日本でTV放映されてるんですよ?
また1994年の東京国際ファンタスティック映画祭で
アルジェント版とディレクターズカット版(本邦初)が上映されてるんですよ?

「僕達」は親鳥が餌を運んでくるのを
口を開けて待っている雛鳥じゃないんです。
ある意味アルジェント版とディレクターズカット版に
最も近しいのは「僕達」であって特典が無いと言うのなら
「僕達」が作ればいい話なんですよ。

スティングレイの岩本克也代表もそう考えられて
新世紀完全版のブックレットに
・テレビ東京の「木曜洋画劇場」の
「サスペリア版」放映当時のプロデューサーへのインタビュー。
・内海賢二,石丸博也,森田順平,林真里花,星野充昭の各氏を招いた
ディレクターズカット版新録時のスペシャル座談会の模様。
・ディレクターズカット版を日本で最初に買い付けた男・
ギャガ・コミュニケーションズ(当時)の安部淳一氏へのインタビュー。
・アルジェント版とディレクターズカット版の日本でのソフト化の
プロデュースをされたギャガ・コミュニケーションズ(当時)の
千葉善紀氏へのインタビュー。
が掲載されてます。

特典映像として
東京国際ファンタスティック映画祭プロデューサーの小松沢陽一氏が
ピッツバーグのロメロ監督と奥様のクリスティーンさん(当時)の元を訪れ
インタビューした「インタビュー・ウィズ・ロメロ」が収録されてます。
元はアルジェント版とディレクターズカット版が収録されたLD-BOX
「パーフェクト・コレクション」の特典として取材された内容ですね。
勿論同年(1994年)公開の
「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」が元ネタ。

ロメロ監督へのインタビューで興味深いのが
「ゾンビは貧困に喘ぐブルーカラー(労働者階級)の象徴である」
って発言。
元々「ゾンビ」はハイチのブードゥ教で使役される奴隷としての
「動く死体」が発祥で監督はその発祥を生かされている。
それにしても…ブルーカラーだから
ゾンビの顔色がブルーカラーなのかしら…監督?

あのさ。
「ロメロ監督がアルジェント版とディレクターズカット版の事を良く思ってない」ってのは所詮「憶測」なんですよ。
実際にロメロ監督に東京ファンタスティック映画祭での
アルジェント版とディレクターズカット版上映の主旨を話したところ,
終始にこやかに遠方からの客人を歓迎され,
東京ファンタスティック映画祭に行けない事をしきりに残念がられ,
実際の東京ファンタスティック映画祭では電話メッセージを送られているし
2010年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」には
ビデオレターを寄せられている。

もうひとつの特典映像
「ドキュメンタリー”QUANDO ALL'INFERNO NON CI SARA'PIU'POSTO"
(地獄が満員になるとき)」ではアルジェント監督,
製作のアルフレッド・クオモ,音楽のクラウディオ・シモネッティが
出演するドキュメンタリー。
「アルジェント版」誕生の経緯をアルジェント自身が語っているのである。フランスは右派政権が映画業界を左派の温床と見做していて

「遊び半分で虐殺されかねないゾンビは劣等民族の象徴であって,
「ゾンビ」はナチズム優性主義思想の映画」

と因縁付けてアルジェント版の公開を頑として許さなかったのが
右派政権が倒れ左派政権のミッテランが大統領になると
悪名高い「検閲委員会」を解散させてくれて
アルジェント版の公開が認められた話とかも興味深いです。
確かにハーケンクロイツのヘルメット被った暴走族は登場するがね。

新世紀完全版のアルジェント版には
クラウディオ・シモネッティ(元ゴブリンメンバー),
アレッサンドロ・マレンガ(音楽家),
クラウディオ・フイアーノ(音楽プロデューサー)
による音声解説が収録されている。
ゴブリンが親日家でまだ電気街だった頃の秋葉原で買い物した話とか,
自分達の曲を重用しなかったロメロ監督への思いとか聴き応え満点です。

愛で空が落ちて来る1994年のアルジェント版とディレクターズカット版のVHSビデオの宣伝文句。

アルジェント版とディレクターズカット版に付けるべき特典が無いのは嘘で
付けるべき特典は日本人関係者に取材したりロメロ監督の元に取材に行けば「無い」と言うことは絶対に「無い」と
新世紀完全版は教えてくれるのです。
「入れるべき特典」は「常にある」のです。
非英語圏に於ける米国劇場公開版の特典が貧弱な点は
依然納得してませんがね!


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