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とよ田みのる短編集「CATCH&THROW」レビュー「プロの漫画家が様々な制約を一切合切無視して描くとこうなるのだ」。

本書には,とよ田みのる氏による5つの短編漫画が収録されている。

1.「素敵な面倒さん」(「ゲッサン」2011年6月号掲載作品)
主神ゼウスとアルゴス王アクリシオスの娘ダナエーとの間に生まれた
半神半人の男子ペルセウスの末裔の男子高校生「臼井健人」と
ペルセウスによって倒されたメデューサの末裔の
女子高校生「面倒さん」との物語。

メデューサがペルセウスによって倒された無念が「妄執」と化し
メデューサの末裔に喜怒哀楽の感情が発露できない呪いをかけた。
生まれたときから人間ならば誰もが持っている喜怒哀楽の感情を持たない「面倒さん」はどんなときに喜びどんなときに怒りどんなときに哀しみ
どんなときに楽しめばいいのかが分からない。

この呪いを解除する方法はふたつあり
ペルセウスの末裔を石化ししかる後に破壊するというやり方がひとつ。

だがしかし「面倒さん」はメデューサの「妄執」に反感を覚えており
「過ぎた想いは呪いと同じ」であり
そんな呪いに,「妄執」に振り回されるのは真っ平御免なのだ。

「面倒さん」は「もうひとつの方法」によって呪いを解除する為,
臼井健人に接近を試みるのであった…。

とよ田みのる氏の作品に頻繁に登場する主題のひとつに
「「人間らしさ」ってなに?分からないから暗中模索しよう!」
があり本作品においてもその主題が如何なく発揮されている。

本作品と「タケヲちゃん物怪録」とは
「呪われた主人公が少しずつ呪いを解除してゆく」
点において設定が共通しており
本作品を元に「タケヲちゃん物怪録」が生まれたと思うと
とよ田氏は語っている。

2.「CATCH&THROW」(週刊少年サンデー2012年第1号掲載作品)
父親が急逝したことにより東京から母親の実家のあるコンビニも書店も
ゲーム屋もなくただネットだけがある小島に移り住んだ少年と
両親が別居状態となり父親の実家のある小島に転校してきた
ハーフの少女とのフライングディスク(フリスビー)を通じた友情物語であり
フライングディスクの薀蓄漫画でもある。

全校生徒6名の小島の学校に通う少年の
「東京にいた頃が恋しい」という鬱屈描写と
日本語以外の言葉で喋る少女への
「異分子」排他描写とが並行して描かれ
ふたりがフライングディスクを「CATCH&THROW」することによって
鬱屈が不満が解消してゆくという構成の妙に唸る。

3.「ヒカルちゃん」(2011.8.21 コミティア97初出)
「街で1番不幸な女の子が合わせ鏡をして
「ヒカルちゃん助けて」
って言うと
合わせ鏡の13番目の鏡から「ヒカルちゃん」が登場し,
その子の望みを何でも叶えてくれる」
…という都市伝説を友達がひとりもいない少女が半信半疑で試したところ
果たして「ヒカルちゃん」が現れ少女の望みを叶え始める。
だがしかしそれは少女が望んでいた「叶え方」ではなかった。
不特定多数の他者を不幸のどん底に突き落としてでも,
少女を強制的に「幸せ」にするのが「ヒカルちゃん」のやり方なのだ。
少女の「想い」が強ければ強いほど「ヒカルちゃん」の力も強まり
「ヒカルちゃん」自身の「望み」が「野望」が次第に明かされてゆく。

「アナタの「想い」で私は産まれた」
「私はもっと存在したいの」
「アナタの「想い」で私は自由になる」
「完全な自由!!」
「私は主張する」
「私はヒカルちゃん」

「ヒカルちゃん」の野望を食い止める為には
自分の想いを切断するしか方法が思いつかない。
少女は校舎の屋上に登り,意を決して虚空に,その身を投げ出すのであった…。本作は「ラブロマ」終了後に描かれた漫画なのだが
担当編集からボツにされた為,それならばと
自主制作漫画として同人として発表された経緯がある。

…プロの漫画家が漫画を商業誌に発表する際の様々な「制約」を
一切合切無視して描くと「こうなる」という凄まじい作品である。
僕は本作品を読んでいるとき夏だというのに
本書を持つ手が勝手にガタガタ震えだし発熱し
一切眠ることが出来なくなった。

4.「等価なふたり」(2010年冬コミ合同誌初出)
月人の男の子と地球人の女の子との交流を描いた物語。
月では「等価交換」が原則で「施し」を受けたのなら
何らかの「代償」を払わねばならない。
例え相手が地球人であっても。

本作品は原作者が別にいて
その原作をもとにとよ田氏が漫画化した作品である。

5.「片桐くん」(2011.5.5 コミティア95初出)
無口で友達のいない男子高校生「片桐くん」と
「片桐くん」に恋した女子高校生「金子さん」の交流を描いた本作品。

「ラブロマ」の「原型」であり感情表現が皆無の「片桐くん」と
感情表現豊かな「金子さん」のもどかしい交流は
到底「恋愛」の域に達していない。
あくまでも「交流」に過ぎないのだ。
本作品は担当編集からボツにされ例によってそれならばと
自主制作漫画として同人として発表された経緯がある。

僕は5つの作品中では「ヒカルちゃん」が一番好きだ。
と言うよりも,
とよ田氏の全創作物の中で「ヒカルちゃん」が一番好きなのだ。

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