天野シロ先生の「アラサークエスト」第1巻レビュー「真理の追求」。
いつの頃からかは最早思い出せないが漫画雑誌を読むとき
「自分の好きな漫画」
しか読まなくなっていた。
本来漫画雑誌の魅力は色々なジャンルの漫画が沢山読めて
「思わぬ掘り出し物」
に出会えたときの歓喜こそが神髄なのに…。
僕はヤングキングアワーズ誌を長谷川哲也氏の「ナポレオン 覇道進撃」,平野耕太氏の「ドリフターズ」を読むためだけに購入していた。
そんなときである。
ヤングキングアワーズ誌のバックナンバーを読んでいたとき
巻末で敬愛する長谷川哲也氏がこう書かれているのを拝読した。
曰く「「アラサークエスト」が可哀想過ぎる」と。
漫画家は漫画が好きだから漫画家となり
従って漫画家は他の漫画家が描いた漫画を読むのも好き
という当然の帰結となる。
「漫画家が注目する漫画」…そんなん
バックナンバーを引っ繰り返してでも読みたくなるに決まっている!
で読みました「アラサークエスト」!
ある日あるところに女性4人で構成される冒険者のパーティがあり
その詳細なパーティ編成は以下の通りとなる。
リーダー格の魔法使いベア(32歳),
故郷に婚約者のいる格闘家ホクト(28歳),
筋肉モリモリマッチョパーソンの戦士カトリーヌ(22歳),
エルフの僧侶シャル(34歳(最年長)…だがエルフは長命故に外見は子供に見える)。
4人の冒険者たちは,とある呪文を求めて旅を続けているのだが
時には経験を積んでいない初心者パーティの補助もする。
初心者パーティにありがちな事なのであるが
ベテランパーティに「おんぶにだっこ」を求め
際限なくもたれかかってくる。
ベアはそうした甘ったれパーティを例えば次のように諭す。
「(ちょっとした困難にぶつかった場合の)解決策ってのは
「自分に出来る事」の中から見つけなきゃ」
と言いながら僅かなヒントを与え,閃かせ,困難を自力で乗り越えさせる。
そして乗り越えさせた直後に「応用が大事よ」と言い添える事も忘れない。
…何だ「いい話」じゃないか…一体何処がどう「可哀想過ぎる」のか。
それはですねベアの助言を得て,
ほんの少しばかり成長した初心者パーティから
「流石「年の功」ですね!!」
と感謝されたときの彼女の表情が全てを物語っている。
ベアが探し求める呪文とは
「アンチエイジング」と呼ばれているのであった…。
本作品の作者の天野シロ先生は主にゲーム雑誌を拠点に
漫画を描かれてこられた方で
この度ヤングキングアワーズ誌で連載開始されている。
一応ファンタジー世界を舞台としているがその実態は現代劇に近く
例えばベア宛に同窓会の出欠を問うメールが届くとか
処女しか入れないと言われる洞窟に入るべきか否かを迷うベアの葛藤とか
自分より若い女に彼氏を寝取られたベアの過去とか
そうした「可哀想過ぎる」エピソードが盛り沢山で
読んでいてとても痛いしとても辛いのだ。
でもね。ベアには彼氏はいないかもしれないが
「絶対に譲れない信念」
があるのだ。
昔「アンチエイジング」の呪文を探し求めて発見出来ず,諦めて,
化粧で若く見せている女性から
「あるかどうか分からない呪文なんて探すだけ無駄さ」
「あんた達も…諦めた方がいいよ」
と「助言」されたときベアは
「お言葉ですが諦めた方の負け惜しみは聞きたくありません」
「貴方の(化粧による)美の追求は素晴らしい」
「だけど私の追求を止める必要がどこにありますか」
「私は貴方と別の道を行くだけです」
「見ていて下さい私は絶対に探し当てますよ」
「(呪文が)見つかった暁には最初に貴方に(呪文をかけますよ)」
と相手の立場を尊重して一定の理解を示しながら
自らの決意表明を展開することによって
結果的に相手に反論する形となるという
不撓不屈の気概があり
同時に非常に高い矜持の所有者であることが自ずと明らかになってゆく。
確かにベアが「アンチエイジング」を探し始めた動機は
「自分より若い女に彼氏を寝取られて悔しいから」
だったかもしれない。
しかし人間何時までも,そんな「詰まらない事」で怒り続ける事は出来ないし,そんな「詰まらない事」を旅の目的に掲げる事は出来ないのだ。
何時の間にかベアの中で「男を寝取られて悔しい」から
「アンチエイジング」という「真理の追求」に目的が昇華していて
彼女の真理に対する決して追究を諦めない真摯な姿勢と畏敬の念が
彼女を「学者にした」のだ。
ベアが「アンチエイジング」の呪文を発見できるか否かは
現時点では分からないが泣き言を吐きながら
悪意のない言葉に傷つけられながら
それでも前進を止めない彼女の姿は例えようもなく美しい。
ベアは微塵も「可哀想」なんかじゃありませんよ,長谷川先生。
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