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長谷川哲也先生の「ナポレオン 覇道進撃」第25巻レビュー「ワーテルローの戦いの敗因」。

本巻の前半ではワーテルローの戦いの「結果」が描かれる。
本作では戦いの敗因を以下の様に分析・描写する。
1.ミシェル・ネイ元帥の判断ミス
血気に満ちたネイは負傷した兵と空になった弾薬箱を運ぶ荷車の列を
敵の撤退と誤認識して騎兵による突撃を命令する。
総数1万騎による突撃は「壮観」であったに違いないが「それ」は
「歩兵・騎兵・砲兵は互いに支援し合ってこそ有効」
という大原則に反した愚行であり歩兵・砲兵の支援のない騎兵の突撃が
「自殺行為」である事が描写されて行く。

「(騎兵指揮官としての能力がネイより遥かに上の)ミュラを連れて来るべきだった」

がナポレオンの講評となる。

2.ナポレオンの苦境にグルーシ将軍が助けに来なかった。
グルーシ将軍はナポレオンから
「プロシアのブリッヒャー軍の追撃」
を命じられ,彼はそれを忠実に実行した。
だが状況は刻々と変わる。
彼は「数時間前の命令」に固執し部下のジェラール将軍の「司令官は自分で考えて攻撃すべきだ」との諫言に対し「命令に従うのが軍人だ」と返し諫言を無視してプロシア軍の追撃に固執し「苦境下にあるナポレオンを助けに行く」との機転が利かなかった。

「何てことだ」「俺は全て命令する事で」
「犬の様に何も考えない部下を作り上げたのか」
がナポレオンのグルーシに対する講評であり,

「もう遅い」
「これから先,君は世界の運命を決した戦いの敗戦の責任者として」
「生涯言い訳をしながら生きる事になる」
が部下ジェラールのグルーシに対する講評となる。

3.ナポレオンの指揮ミス
ナポレオン本人はこの戦いの敗因を次の様に分析する。
「自分が悪い」とのネイの謝罪を遮り
「違う」「情勢のせいだ」
「世界が俺を拒んでいる」「だから勝てる戦いに負けた」
「かつてはどんな不利な状況でも勝利の女神は微笑んだ」
「だが今はもうそれはない」
「確かに君は軍団指揮官として失格だったかもしれん」
「だがそれは任命した俺の責任だ」

本巻後半はパリに戻ったナポレオンに待っていた運命が描かれる。
フーシェはラファイエットを担ぎ出し皇帝に退位を迫る。
議会でのナポレオンの弟リュシアンの
「皇帝はフランス国民の為に重い責務を果たしている」
「その彼の恩を忘れ見殺しにするのですか」

との発言に対するラファイエットの反論はこうだ。
「何たる事を言われるのか」
「我々が貴方の兄上の為に十分な事をしなかった?」
「我々の息子・兄弟達の骸(むくろ)はアフリカ・スペイン・ロシアの大地…」
「世界中の至る所に転がっている事をお忘れですか?」
「300万もの人間がたった一人の男の為に!」
「その男は今なお我々の血でヨーロッパと戦おうとしている!」
「もう十分だ!」「たった一人の男の為には十分過ぎる!」
「今や祖国を救う時だ」「それが我々の義務です」

ラファイエットは…フランスは…ナポレオンに引導を渡したのであった。

ダヴー元帥は「現在のナポレオン」をこう評価する。
「ナポレオンが以前のままなら俺はどんな命令にも従っただろう」
「強さこそ正義」「国家は強さあってこそ成立する」
「だが今のボナパルトは弱い!」
「最早奴はフランスにとって害悪でしかない」「早く追い出せ」
ダヴーはグルーシと違って
「犬」ではなく自分の頭で考え判断できる「人間」だと証明して退場する。

ナポレオンの「追い出される先」が決まるのは次巻となる

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