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長谷川哲也先生の「ナポレオン 獅子の時代」全15巻&「ナポレオン 覇道進撃」全27巻レビュー「連載期間22年・総計42巻に及ぶ『ナポレオンの生涯』を描き切った大大大大大伝記漫画堂々完結ッ!」

本日…「ナポレオン 覇道進撃」最終第27巻が届き…
1.「ナポレオン 獅子の時代」全15巻
(ナポレオンが出生してから第1執政となるまで)
2.「ナポレオン 覇道進撃」全27巻
(ナポレオンが第1執政となってからセント・ヘレナ島で最期を迎えるまで)
が堂々完結した。
僕としてもこれ程長きに渡ってひとつの作品をリアルタイムで追い続け…
完走まで付き合ったのは初めてであり…非常に感慨深い…。

第157話
今回は警察大臣・フーシェの退場を描く。
彼の生涯は陰謀と共にあり
その彼にタレイランは閑職を与え
「何もしない事をしろ」
と命じたのだ。
それは死ぬより辛い罰であり彼は急速に耄碌して行く。

第158話
今回はオージュロー&マッセナ両元帥の最期が描かれる。
とは言え「華々しく戦って死ぬ」のではなく
オージュローは風邪,
マッセナは暖炉の不完全燃焼による一酸化炭素中毒。
いずれも自宅による逝去となった。

ロシア皇帝アレクサンドル
「フランス人は皆恩知らずで尻軽女同然のクズだッ!」
こんな力のある台詞を堂々と書ける漫画がもう直ぐ終わっちゃんだなあ…。

第159話
今月号で遂にナポレオンに死の影が迫り始める。
ナポレオンの死因には諸説あって
1.胃癌(家系病)
2.暗殺
3.セント・ヘレナ島の過酷で劣悪な環境で
ナポレオンの体が弱っているのに
総督が真面な医者に診せされる事を拒んだ。(総督無能説)
等々があるが

今月号ではサン・ジュスト似の仮面の暗殺者が島にやって来て
ナポレオンの暗殺未遂を起こす。
他方ナポレオンが胃痛を訴えているのに総督は真面な医師に診させない。
要するに諸説を一通り汲んで行く模様。

ナポレオンは昏睡状態に陥り
最早「夢は枯野を駆け巡る」状態となっている。
次号が最終話でもいい位だ。

他方ラス・カーズによる
ナポレオンの半生の口述筆記も終わりカーズは島を去る。

あとはもう…走馬灯の様な回想くらいであろうか…。

第160話
かねてより体調の思わしくなかったナポレオンは
1821年5月5日英国領セント・ヘレナ島にて遂に息を引き取る。
墓石には「ナポレオン・ボナパルト」と刻むよう英国側は要請するが
ナポレオンの側近からすれば皇帝の名前は「ナポレオン」であり
英国側の要請を拒絶。
結果墓石には何も刻まれなかった。

イタリアに住んでいた母親と妹,
オーストリアの息子は彼の死を悼み嘆き悲しんだが
盛大な葬式を行う事は許されなかった。
タレイランは彼の死を「事件」ではなく
茶飲み話等の「話題」に過ぎないと言い
「最早彼は過去の人でありその死も何の影響もない」
と言ったという。
「ナポレオンの死」は
「何でもない男の死」に矮小化され嘆くのは血族だけとなった。

こんな…無縁仏の様な屈辱的扱いが改められるのは
国民王ルイ・フィリップの治世となってからで
セント・ヘレナ島のナポレオンの亡骸は1840年にパリに移され,
ルイ14世によって設立された廃兵院アンヴァリッドのドーム教会内に
建築家ルイ・ヴィスコンティによって設計された埋葬施設が
1861年に完成し彼の亡骸は5層になった棺の中に納められ
ドームの真下に安置された。
円を描いて棺を囲む床の大理石のモザイク装飾は
ローリエのモチーフとともにナポレオンが勝利した戦いの名を刻んでいる。また墓を囲む回廊には民法典をはじめとした
ナポレオンの残した功績を称えるレリーフ彫刻の装飾が施されている。

この…ナポレオンの霊廟を
1940年パリ無血入城を果たしたアドルフ・ヒトラーが訪れている。

彼は日頃からナポレオンを尊敬しており
「これは僕の生涯の絶頂だろう」
「パリを見るのが小さい頃からの夢だった」
「それがいま叶えられてどんなに嬉しいか…」
「口では言い表せないよ…」
と側近に漏らしたという。
これがヒトラーの最初で最後のパリ見物となったのである。

第161話
1823年セント・ヘレナでナポレオンに取材を続けたラス・カーズの
「セント・ヘレナ回顧録」が出版され
フランスで大ベストセラーとなり英語でもドイツ語でも翻訳され
ラス・カーズに200万フラン(40億円)の版権料を齎した。

オーストリア政府はフランス政府に抗議するも
「民衆の間で流行っている」と言うだけで弾圧する事は誰にも出来ない。

ユゴーは「ナポレオン,貴方は神だ!」と言い
デュマは「冒険だ!フランスだ!歴史だ!」と言い
バルザックは「ナポレオンが剣でやったことをオレはペンで成す」と言い…
スタンダール,ハイネ,プーシキン等の
「ナポレオンに関する言及」は現在でも言い伝えられて行く。

例えタレイランが如何なる権謀術数を弄そうと
ナポレオンを矮小化することは遂に出来なかった。

「まったく君には呆れるよ」「あんな世界の果てで」
「アウステルリッツを超える戦勝を上げるんだから」
「現実はどうあれ」
「コレで君は革命の理想を体現した英雄になった」
「オレはあと200年は悪役だろうよ」

タレイランの遺言には
「ワタシの財産の大部分はボナパルトによって齎された」
「従って彼の姓を持つ者が援助を必要としていたら」
「可能な限り応えること」
と記されていたと言う。

1840年ナポレオンの亡骸はセント・ヘレナ島からパリに移された。
「ナポレオンの帰還」には
スルト,ウディノ,モンセー,グルーシ,カンブロンヌ…。
そして古参近衛兵を始めとする多くのフランス人が彼を出迎えたと言う。

勿論我らがビクトルもその一員である。
人はオイボレて死ぬが伝説は死なない。
「ナポレオンに関する記述」は永遠に残るのだ。

例え「長谷川哲也」という男がオイボレてくたばって朽ち果てても
「ナポレオン 獅子の時代」「ナポレオン 覇道進撃」は永遠に残るのだ。

第162話(最終話)
最終話は
1831年ウィーンでナポレオン二世(ライヒシュタット侯爵)がマルモン元帥に
「アナタは父を…裏切ってはいませんよね…」
と声を掛け…マルモンが黙っている場面が男泣きポイントですね。

1845年…イタリア遠征から50年後…。
ビクトルと今や最後の元帥となったマルモンがロディ橋を渡る。
50年前にナポレオンと鉄の漢達が駆け抜けていった橋…。

天啓の様に舞い降りたのは
自分が必ず死ぬと言う実感

今日死ななくても明日
明日を生き延びても明後日
1年を生き延びたとしても何れ死ぬ

ロディの橋の上にいるのはあの惨めな男(ビクトル)ではない
全人類がそれと気付かずあの橋の上を進んでいる

生命は軽い

オレは今日を生き延びたら
100万の犠牲など屁とも思わん

命を捨てれば簡単だ

命を捨てればあの橋を渡り切れるッ!

いま…弾幕の鉄のカーテンを抜けた…
一発も当たらないのは…
オレが特別な人間だから

やがて偉業を成し遂げる男だからッ!

今から200年前…
この橋の上を鉄の漢達が駆け抜けていった…。
ミュラの馬鹿,ドゼー,ダヴー,ランヌ,オージュロー,マッセナ,ネイ,マルモン,
ジュノー,ベルティエ,ナポレオン,ビクトル…。

それ故に漫画家テツヤ・ハセガワの語る次の物語を伝えよう。
その物語は「ナポレオン」といった…。

22年間に渡る月刊連載に於いて
ただの一度も休載せず
「ナポレオン」という男の生涯を描き切り
「ナポレオン」という男の生涯を語り切った
長谷川哲也先生に心からの敬意と感謝を捧げるものである。

僕も22年間,一度も中断する事なく
ひとつの漫画をリアルタイムで
読み切ったのはコレが初めてである。

個人的には「獅子の時代」第1巻で描いたアウステルリッツ戦を
ナポレオンの出生に戻ってイチから描き…
「覇道進撃」第6巻で…全く語り口を変えながらも…
再びアウステルリッツ戦を描き…なおかつ…
「獅子の時代」第1巻と「覇道進撃」第6巻の表紙を似せて描くと言う
離れ技を長谷川先生が披露されたコトが最も感慨深い。

スキな軍人は…実はクトゥーゾフだったりします…。

22年間…アンタを信じてついてきて良かったよ。

「ナポレオン」(完)

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