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NHK「浦沢直樹の漫勉neo「水木しげる先生回」」レビュー「「漫勉」は漫画が描けもしない人間が漫画を評論するなんて滑稽であるとの浦沢直樹先生の「疑問」から生じたのではないだろうか…?」

そのペン先から如何なるドラマでも生み出すことが出来る「漫画」。
この番組は普段立ち入ることが出来ない漫画家の仕事場に密着し
創作の秘密に迫って行きます。
仕掛人は浦沢直樹先生。
数多くのヒット作を持ち
海外からも注目を集める現役の人気漫画家です。

今回取り上げるのは妖怪漫画の第一人者にして
2015年に他界された水木しげる先生。

浦沢先生は子供の頃から水木先生の漫画に対して
疑問に思っていたことがあると言われます。

「水木先生の絵を模写してる時にね」
「何でこんな精巧な絵を描かれているのに」
「この人(水木先生)の話はこんなにふざけているんだろう?」
「絵柄とストーリーがミスマッチを起こしてるのは何故だ?」

浦沢先生が子供の頃からの疑問の本質を追究する為に
水木先生のふたりのアシスタント経験者
池上遼一先生(アシスタント歴2年)と
森野達弥先生(アシスタント歴10年)を招き詳しい話を伺って行きます。
勿論おふたりとも現役の漫画家です。

現役の漫画家3人が膝付き合わせて「詳しい話」をするのですから
「精神論」など皆無で殆どが「技術論」に終始します。

従来の漫画評論って漫画評論家と言う名の
「漫画を読むのが好きな人達」
が集まってああでもないこうでもないと論ずることが多かったのですが
「漫画を読むのが好きな人達」
って漫画が描けるとは限らず
漫画が描けない癖に漫画の何たるかを論ずるのは
滑稽ではないかと思っていて
仕掛人の浦沢先生もそうした畳水練の如き漫画評論に不満を感じておられて
俺は現役の漫画家であって漫画が実際に描ける。
その「現役の漫画家」の立場から漫画を論ずるのが本当なのではないか,
例えば「鬼太郎の家」の大胆なベタは
こうやって水木先生が描かれたのではないかと
推測を立てるだけでなく
推測に基づいて浦沢先生が実際に「鬼太郎の家」を描いて
実際にベタを入れられる他の漫画評論には絶対にない「強み」がある。

浦沢「この水木先生のベタ…墨汁使ってますよね…」
「水はこれくらい入れて…」「タッチはこう…」「あはは♪描けた描けた♪」
池上「上手い上手い♪さっすが!」

ハイ,コレが「漫勉」の基調にして最大の見所ですね。

漫勉neoに漫画家のファンが多いのは「極めて実践的で役に立つから」で
漫画の事を良く知りもしない癖に捲し立てられる
糞の役にも立たない「精神論」とは訳が違う。

池上先生や森野先生への質問も
「この線は定規を使ってませんね?」
「水木先生はGペンを使っておられますよね?」
「写真を見本に背景を描く場合トレースされてませんよね?」
「このコマは先生御自身が描かれてますけど
上のコマはアシスタントさんに任せてますよね?」
と浦沢先生の「確信」の裏を取って行く形となっていて
「漫画家3人が専門的な話をしてる」
のを視聴者は唖然としながら見守る他無いのである。

冒頭の浦沢先生の疑問に対する答えは
「背景を精緻に描く事により空気感・匂い・湿度までが感じられ
その精緻極まりない空間に一反木綿が空中を浮遊する
「架空」や「突拍子もなさ」に逆にリアリティが生ずるのではないか」
と浦沢先生は推測されている。

番組後半は水木先生の出生からの略歴が紹介されて行く。
「前半」が専門的な話でギッチギチ故に
視聴者が「付いて行けない」事が多く
「後半」で漸く視聴者が一息つけて「付いて行ける」構成。

NHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」をリアルタイムで視聴しており
奥様の目を通して描かれる水木先生の半生をドラマで履修していた事も
「後半」の理解の助けとなりました。

正直な話,全編「前半」の調子で飛ばされたら
息が詰まるのですよ。

浦沢先生は
「水木先生は鬼太郎が
子供のヒーローとなって行く事に疑問を感じられていたのではないか」
と発言され,その証明として
「鬼太郎は無意味なおばけ退治で人類に奉仕する様な生活に」
「なんとなくはりあいがなくなってきていた…」
「いわゆるノイローゼというやつであろうか」
との水木先生の漫画のナレーションを挙げられている。
池上先生は
「(水木先生は)自分を常に見詰めていたって感じだね」
と発言されている。

森野先生に対しても沖縄のシーサーを水木漫画のキャラクターにしてくれとの水木先生の依頼に応えアニメの3期に登場させた話をたっぷり聞けます。

僕が「漫勉」を観る様になったのは
島本和彦先生回と手塚治虫先生回からの
ニワカで偉そうな事は何も言えないのですが
浦沢先生の「従来の漫画家不在の漫画評論」に対する疑問が
「漫勉」を生んだのではないかと愚考する次第です。




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