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NHK「ドキュメント72時間」レビュー「『推し』と言うのは一体『どういうもの』なのか?」(追記を加筆しました。)

NHKの「ドキュメント72時間」と言うのは
例えば人気のそば屋にのべ72時間密着取材して
「何故人気の店になったのか」を追って行くドキュメントで
取材班の「好奇心」が番組の企画となっているもので
今回は今や
「アニメの街」
と呼ばれる(そんなの初めて聞いたよ…)東京・池袋にある
駿河屋という所謂オタクグッズ買取&中古販売を行う店に
のべ72時間密着取材をして
「『推し』と言うのは一体『どういうもの』なのか?」を追って行く。
具体的には駿河屋にグッズを売りに来る男女に
「何故売りに来たのか」を取材するというもの。

僕は房総半島の南端でアニメとホラー映画を愛好する高校生で
東京の大学に進学が決まって下宿として選んだのが池袋だった。

だから本ドキュメントに登場する地理が手に取る様に分かり
また自分がオタク活動していた頃の記憶が鮮やかに蘇るのです。

オールナイトで誰も知らないホラー映画を観に行ったり
コミックマーケットに一般参加したり
池袋・サンシャインシティで開催される
コミックレボリューションに一般参加したり…。
社会人となり池袋を離れて
埼玉県大宮にある社員寮で暮らす様になってからは
「自由になる金」が飛躍的に増えて
昔クリア出来なかったアーケードゲームの基盤を秋葉原に買いに行ったり
「セーラームーン」にドハマりして同人誌を買い漁り,
セーラームーンのアーケードゲームの基盤を20万円払って購入したり
ゲームの同人誌を買い漁ったり…と滅茶苦茶を始め…。
僕は酒も煙草も賭博も女もやらず友達もひとりもいなかったので
収入を趣味に全振りしました。

社員寮の自室はそれらのオタクグッズで溢れ
止む無く処分せざるを得なかったのですが,
今はネットオークションや駿河屋の様なオタクグッズ買取サービスがあって「便利な世の中になったものよのう」
とドラクエ2の旅の扉の脇にいる爺さんの様な感慨を受けてます。

駿河屋にグッズを売りに来る理由は様々。
・推していた漫画の連載が完結したので自分の気持ちに区切りを付ける為。
・娘が子供の頃,遊んでいたオモチャが要らなくなった為。
・部屋がオタクグッズで一杯になってスペースを確保する為。
・「次の推し」が見つかったから
「これ迄の推し」に対する気持ちに区切りを付ける為。

グッズ売りに来る人たちが口にする言葉で頻出するのが
「自分の気持ちに区切りを付けたい」

あのさ。

僕は長谷川哲也先生の「ナポレオン」というナポレオンの一生を描く
大河マンガを20年以上推しているのですが
今やナポレオンはワーテルローの戦いに敗れ
セント・ヘレナ島に島流しにされました。
後はもう…ナポレオンが死ぬしかイベントが無く
「もう直ぐ終わる」のです。

「ナポレオン」が終わっちまったら僕はどうすればいいのか。
「ナポレオン」の単行本を全巻駿河屋に売りに行って
「自分の気持ちに区切りを付ける」気には到底なれない。

「ひとつの世界が終わる」からといって
ハイそうですかと「次の世界」には行けない。
「ひとつの世界が終わった」ら
僕の心象風景では
「世界」は滝になって流れ落ちていて「何もない」んです。
「果てしない虚無」が無限に広がっているんです。

この…「果てしない虚無」を埋める為に
「次の推し」を探す人の気持ちは良く分かりますし
単行本を全巻売りに出す人の気持ちも痛い程よく分かるのです。

あのさ。

駿河屋にグッズを売りに来る人達は
皆一様に「寂しそう」で瞳に光が無いんです。
「虚無」が服を着て駿河屋にやって来ているんです。

この人達は幾許かの金が欲しいんじゃありません。
「生きているのが辛い」んです。
その「辛さ」を紛らす為に
自分の「何もない人生」に緩急を付ける為に,
彩を添える為に
無理矢理「イベント」を設けて駿河屋に来ているんです。

きっと…この人達は真っ暗闇の部屋に帰って…。
明かりも付けずに
日がな一日茫然と過ごしているに違いないんです。

そうした…「決して救われる事の無い人達」の
「決して終わる事の無い,無限に続く虚無」を
本ドキュメンタリーは活写してると思います。

「国営放送に…お上(おかみ)に俺達オタクの気持ちは分からない」
って突っ張るのはもう止めにしませんか?

少なくともNHKは「僕達」に歩み寄って
「この人達にとって『推し』って何なんだろう…?」
…と「知る努力」をしている。
NHKで「オトナプリキュア」や
「響け!ユーフォニアム」の第3期を放送し
庵野秀明監督の「シン・エヴァンゲリオン」や
「シン・仮面ライダー」の特集や
宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」の特集を組んで
「僕達」に歩み寄ろうとしている。

自分の関心のあるものに懸命に歩み寄ろうとしている
NHKの行為こそが「推し活」そのものなんですよ。

つまり!本ドキュメントや
庵野秀明監督や宮崎駿監督のドキュメントは!
NHKの2次創作同人誌だって言ってるんです!

僕は…懸命に「僕達」に歩み寄ろうとしている
NHKの「推し活」を「尊い」と思う。

従ってNHKの行為を…「推し活」を腐すのは
オタクが自分で自分の肉体を傷つける自傷行為と言えるのです。

「『推し』と言うのは一体『どういうもの』なのか?」
このNHKの疑問に対する「答え」は
「いまアンタ(NHK)がやっている事だよ!」
となりオタクとして最高の「答え」でもあるのだ。
(終わり=エンド)

追記:拙レビューを投稿したところ
ウルトラゴアホラー映画レビュー同人誌「映画の独り言」や
ルカ・グァダニーノの「サスペリア」の2次創作同人誌「To Die」の
作者である現役の同人作家の皐月臨さんが拙レビューをお読みいただき
次の様な感想ツイートをされていたので紹介したい。

「推し」と言うのは「好きな男」であり
「好きな男」は永遠に好きであり
「好きな男」が増える度に
彼は12年前の男,
彼は8年前の男,
彼は5年前の男,
彼は今の男…と歴代の「好きな男」を並べて飾り…。
「皆ずっとずっとワタシの部屋にいてね…」
…と言うのが皐月さんの「推し活」だと言うのである…。

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!
い…「一度入ったら出られない部屋」ッ!
ぼッ…僕はッ!
「魔性」と知り合っていたッ!

非常に不謹慎ながら…。
ウルトラゴアサイコホラー映画を観ている心境がして…。
ガタガタ体が震えるのである…。

こッ…怖いッ!
オ…オタクの部屋はッ!
魔界と地続きだったんだッ!
僕は…「本当の推し活」が怖いんだッ!
(暗転)
(真の終わり=トゥルーエンド)

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