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篠房六郎先生の漫画「おやすみシェヘラザード」第1巻レビュー「自分の「元の心」を思い出させる漫画です。」

本書で紹介されている映画についてやや詳細に書くと
1.裏切りのサーカス(2011年 英・仏・独)
原作小説ありのサスペンス映画。
2.ファンタスティックMr.FOX(2009年 米)
原作児童文学小説ありのストップモーション・アニメーション映画。
3.呪怨(ビデオオリジナル版)(2000年 日本)劇場未公開のホラー映画。
4.君の名は。(2016年 日本)
アニメーション映画。
5.アウトレイジ(3部作)(2010年,2012年,2017年 日本)
クライム映画。
6.第9地区(2009年 米)
SF映画。
7.きっと,うまくいく(2009年 インド)
コメディ映画。
8.パーフェクト・ワールド(1993年 米)
クライム映画。
となる。
映画の話をするふたりが2018年現在,高校3年生と高校1年生という
設定なのでふたりとも21世紀生れであり
俎上に上がる映画の制作年が基本的に「年相応」となっている。

よくSNSで自分の人格を構築した映画をいくつか上げ
「自分とは「こういう映画」を好んで観てきた人間なんだ」
という表現の場となることがあるが
本書で紹介される8本の映画から人格を「逆探知」するのは難しい。
その理由を鑑みるに意図的なのか無意識なのかは分からんが
他者に「本心」を「本性」を知られたくない
気持ちの表れであると僕は受け取った。

あのさ。この高校生,レビューやプレゼンが
滅茶滅茶下手な上に支離滅裂なのよ。
オマエは一体何が言いたいのか
要点をキチンとまとめてから話せって感じなの。
服部昇大先生の「邦キチ」と比べると雲泥の差。

僕が新社会人となった頃,職場での朝礼の際,「3分間スピーチ」という
コーナーがあり自己紹介を3分間で済ますというものなのだが
179秒でも181秒でもダメでキッチリ180秒間=3分間で
自分が何者なのかを説明しなければならなかった。
僕は自分が何者なのかを他者に知られたくなかったので
そのコーナーが苦痛でしかなかった。
でもね。
何度もスピーチするうちにコツが掴めてきて
時事ネタを踏まえながら面白おかしくスピーチ出来るようになった。
「訓練」とは実に恐ろしいね。
何が恐ろしいかと言えば訓練次第で「本心」や「本性」などといった
概念が存在する余地がスピーチ内容から
きれいさっぱりと無くなってしまうからである。
その後,失われた「本心」や「本性」を取り返し
「人間性」を回復するのに大変な時間を要した。
実のところ,未だに「人間性」が完全に回復したとは言い難い。

本書を読んでいると,本当は自分が何者なのかを他者に知って欲しいのに
同時に自分が何者なのかを他者に知って欲しくないという
ふたつの矛盾する気持ちを同時に抱えながら生きることの難しさを
自分の好きな映画の面白さを紹介することの難しさに
置き換えて提示してくれていることに気付かされるのだ。

職業訓練によって「心」が殺される前には
自分にも「喜怒哀楽」の感情があった筈だ。
でも今はそれが如何なる感情だったのかもう思い出せない。
でも今や「哀」の感情がないから少しも悲しくない。

本作は「殺される前の心」が横溢していて「何かを思い出させる」ね。

本書の主要な語り部となる女子高生が自分の好きな映画を解説するのが
ヘタなのはその映画のどこが好きなのかを誰かに知って欲しいから
自ずと多弁となり
その映画のどこが好きなのかを誰にも知って欲しくないから
自ずと解説内容が支離滅裂となるのではないのかと愚考する次第である。

要点を整理して180秒キッカリで「自分の心」をプレゼン出来るように
なる以前の粗削りで生硬で支離滅裂な
自分の「元の心」を思い出させる漫画です。

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