映画「キラーコンドーム」レビュー「本作は「多様性」を否定し殺そうとする「不寛容」との戦いを描いた作品です。」
NYの安宿で本番行為に及ぼうとした
男のペニスが食い千切られる事件が頻発,
シチリア出身のルイジ・マカロニ刑事が捜査に当たる。
ルイジは男色で32cmの巨根を誇るが,
件の宿で男と本番行為に及ぼうとしたところ,
牙の生えたコンドームに襲い掛かられタマの一方を食い千切られる。
件のコンドームを鑑識に回した所,遺伝子操作による人造生命であると判明し,
遺伝子操作の権威で神隠しに遭ったかの如く,
忽然と姿を消したスミルノフ教授が捜査線上に浮かび上がり,
ルイジは教授の行方を追うが…。
初見。NYを舞台としているが,登場人物がドイツ語で喋るドイツ映画。
「異邦人から見たNY」を強く意識した作風で常に「距離感」を感じ,
例えばフランク・ヘネンロッターの映画「バスケットケース」の様な
「猥雑・不衛生でゴミの臭いまで伝わって来そうな身近なNY」
とは一線を画している。
ルイジはNYで20年過ごしているが,この町の喧騒に馴染む事は無く,
常に郷里シチリアの長閑で牧歌的な風景と比較し,独白を重ねる癖がある。
本作はルイジの独白によって進行する私小説的な趣があるのだ。
終盤ルイジは「キラーコンドーム」をNYにばら撒いた
「諸悪の根源」と対峙する。
「神は男と女の繁殖しか許してない」
「男と男の性交渉は非生産的である」
「男のペニスはただただ子孫を残す為だけにあるのに」
「オマエはその使命を忘れペニスを男の尻に突っ込んでいるッ」
「許せないッ神が定めた摂理に背くオマエが許せないッ」
「男同士で性交渉に励む者は許せないッ」
「子孫を残す義務を忘れ,避妊する男は許せないッ」
「ただ快楽の為に性交渉に励む男は許せないッ」
「男と女の子孫を残す為の性交渉のみが神に許されている」
「その他の性交渉に励む男は去勢されなければならないッ」
「NYはソドムとゴモラである」
「退廃の町は滅ぼされなくてはならないッ」
ルイジが対峙してる「諸悪の根源」の正体とは
自分達のみが正しく,
他は異常であり異端であり不潔であり排除されなければならないと言う
徹底的な「不寛容」であり,彼は「不寛容」に向かってこう叫ぶ。
「俺が誰を愛し,誰と如何なる性交渉に及ぼうと俺の勝手だよ!」
「オメエの「赦し」なんざ要らねえよ!」
彼は「不寛容」に対する反論の中で,自分の気持ちに気付き,
恋人(男)に
「シチリアの俺のオフクロに会ってくれ」
と求婚し,老母に恋人を紹介する決意を固める。
本作はね。
「キラーコンドーム」なんてキワモノめいた題名からは
到底想像出来ない程,真摯な内容なのだ。
「コンドーム」が殺そうとしたのは
「多様性」であり「様々な愛の形」なのだ。
25年前(1999年)に本作を買い付け,
日本で本作を公開した立役者が叶井俊太郎氏で,
今年膵臓の末期ガンである事を公表した事で知られている。
「だめんずうぉーかー」の倉田真由美氏の夫でもある。
叶井氏はドイツの発禁映画「ネクロマンティック」を
買い付けた人物でもあるが,
25年前に「ネクロマンティック」の主演のダクタリ・ロレンツが
発禁処分で役者を辞め,日本の三茶に移り住んで
NOVAの教師となってる(ハァァァァ?)と知った叶井氏は
「死体とセックスする変態映画の主演俳優緊急来日!」
ってコトにして東スポとかの会見に応じてくれと
ロレンツに3万円握らせた所,
緊張したロレンツが流暢な日本語に取材に応じ
「オマエはもう何も喋るな!」
と叶井氏が蹴りを入れた話が捧腹絶倒である。
そのロレンツがドイツに戻って
叶井氏に「モスラのラジコンを買って送ってくれ」と言うので送った所,
その「モスラのラジコン」が「キラーコンドーム」の最後に出て来る
「巨大キラーコンドーム」として登場し,
「だから俺(叶井氏)は「キラーコンドーム」の製作に
自分が関わってる事を知らずに買い付けたって訳」
と語る件も最高である。
本作のエンドロールで
特殊効果クルーのひとりとしてダクタリ・ロレンツの名を確認出来る。
特典映像には叶井氏が実に楽しそうに25年前を語る姿が収録されている。
25年後(2023年)にHDリマスターのデジタルリマスターの
完全版として日本で再公開されリリースされた本作のブルーレイ。
「やりたい事しかやった事しかない」「我慢なんかした事がない」
と言われる叶井氏の「やりたい事」のひとつとして
本作を観ると今や何とも言えない感情に支配されるのである。