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ローカル×ローカルvol.07 事業って、どうつくるの? 〜グリーンズビジネスアドバイザー 小野裕之さんを招いて〜
「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?
この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。
このイベントをやろうと思ったきっかけは、こちらをご覧ください。
前回のvol.06では、福井県鯖江市TSUGIの代表新山直広さんを招きました。話したテーマは「いいものって、なんだろう?」
その時のレポートはこちらから
vol.07は、greenz.jpビジネスアドバイザーの小野裕之さんを招きました。
小野裕之/グリーンズビジネスアドバイザー。ジュエリーブランド SIRI SIRI 共同代表。おむすびスタンドANDON 共同代表。株式会社 sonraku 社外取締役、株式会社散歩社 共同代表。 ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営する NPO法人グリーンズの経営を 6 年務め、2018 年、同法人のソーシャルデザインやまちづくりに関わる事業開発・再生のプロデュース機能を O&G 合同会社として分社化、代表 に就任。
小野さんに訪ねた問いは、「事業って、どうつくるの?」。
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私は今、南伊豆で南伊豆新聞、南伊豆くらし図鑑というメディアを立ち上げ、少しずつ事業化を目指しています。
ですが、気を抜くと、地域おこし協力隊の任期後、赤字経営になるかもしれません。
▲赤い円の部分をつくらないといけない
そこで、小野さんに声をかけました。小野さんは、ウェブマガジン「greenz.jp」の収益化、いわゆるビジネスアドバイザーの役割を担っていましたが、ここ数年、秋田や日本橋、 下北沢など、まちづくりのプレーヤーとしても活動しています。
2020年4月に下北沢にオープンした商業施設「ボーナストラック」
いろんなメディアで取り上げられるローカルプロジェクト。しかし、一見 “いい風” に紹介されている事業も「あそこは全然収益化できていないよ」と笑顔でぶった斬る小野さん。さまざまなビジネスの相談を受け、たくさんの事例を知っている小野さんと一緒に、事業はどのようにつくられていくのか、考えていきます。
一緒に学びを深めてくれる学び仲間は、高校生起業家の関根康太さん。
関根康太/合同会社 STOPOVER 代表。
茨城県の高校に通う 17 歳(高校 2 年)。カナダ短期留学、Hitachifrogs1 期生。参加したシリコンバレー研修などを経て、IT 関連事業をするために会社を設立。現在奮闘中。
人選は日本仕事百貨の中川晃輔さん。取材先でたまたま遭遇したのがご縁で、今回関根さんに声をかけたそう。高校生であり、起業家でもある関根さんの視点もお借りしました。
当日は中川さん、関根さんとお話を伺いました。
※ここからがイベントレポートになります(2019年12月末に開催)。
何をやるにせよ、ちゃんと稼げる仕組みにしていく
小野 小野と申します。2006年に立ち上がったグリーンズのウェブマガジンの経営の分野をやっていました。2018年3月に分社化したタイミングで経営から離れましたが、10年以上グリーンズに関わってきました。
小野 以前からグリーンズのような「社会起業」とか「ソーシャル」とか「ローカル」という言葉がもてはやされたり、注目されたりしていますけど、実際ビジネスとして自立している事例はそんなに多くないのが現状です。なかには稼げていないのに取材依頼だけくる人もいます。僕は何をやるにせよ、「ちゃんと稼げる仕組みにしていこうよ」って思っている方なんです。
グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」では、世界中のソーシャルデザインのヒントを発信しています。※ソーシャルデザインは、社会課題を解決するための仕組みづくり、デザインアプローチ
小野 一応、僕はソーシャルデザインとか社会起業界隈にいるんだけど、僕自身が何か「社会を変えたい」という原体験はないんです。むしろ原体験が必要とすら思ってなくて。そこに社会の歪みがあるなら、仕組みをデザインすれば福祉も医療も貧困も戦争も解決されると思っています。
その社会の仕組みを変えるには、会社という装置を使うと変えやすいし、会社って稼ぎをつくれるので、継続もしやすい。この流れで、僕がやっている事業をいくつか紹介しますね。
取材から生まれたビジネス
小野 グリーンズがきっかけで2016年から他の会社の経営にも関わり始めました。その一社が「SIRI SIRI」というジュエリーブランドです。
小野 日本の伝統工芸の技術を使ったジュエリーです。江戸切子の職人さんに加工してもらって、指輪、ピアス、ネックレスにしています。僕はデザインには全く関わっていませんが、主に人事と財務をやっています。
小野 こちらは、岡山県西粟倉にある「株式会社sonraku」というバイオマス事業です。ここの社外取締役として関わっています。主に木を燃やして、電気にしたり熱源にしたりするんですけど、この会社はバイオマスと森林資源と生活者を繋ぐために、温泉宿を立ち上げたんです。「元湯」という宿なんですが、もともと冷泉なんですね。それを沸かさなければいけないので、熱源を灯油からバイオマスに替えて、薪で水をお湯にしています。
小野 ここは地域のエネルギーコンサルとか、災害コンサルとかをやっていて、売り上げが1億くらいの会社なんですね。僕はこの会社を10億円とか50億円の売上を目指せるように、事業整理をしたり、ブランディングを考えたり、社内のスタッフに対する評価制度をつくったり、働き方を考えたり、そういう仕組みづくりをはじめたところです。
元湯ウェブサイト
小野 飲食店おむすびスタンド「ANDON」の経営もやっています。ここは秋田県米を生産する若手農家集団「トラ男(トラクターに乗る男前農家集団)」と組んでやっています。トラ男のお米はブレンド米ではなく、一人ひとり生産者が作ったお米を販売しています。
小野 例えば「魚沼産コシヒカリ」ってあるじゃないですか。産地でくくられる良さもあるんですけど、同じ魚沼産でも、頑張っている農家さんと頑張っていない農家さんが明らかにいるんですね。
僕らは秋田の頑張っている米農家さんから飲食店に商品を直接卸すスタイルでやっています。1階がおむすび屋さん兼立ち飲み屋。2階は書店、イートイン。3階は宴会スペース。これらは全てグリーンズから生まれたものです。
情報だけでは、行動につながらない
小野 グリーンズは2009年にソーシャルデザインをキーワードにした本を出版しました。いろんな方が興味を持ってくれて、今ではマスメディアで社会起業とかソーシャルとかローカルが普通に取り上げられています。
だけど、当時より認知は拡がっているものの、個人的に思うのは、先ほど紹介したようなローカルで仕事をつくる、ソーシャルの仕事をやってみることへのハードルは下がっていないです。
グリーンズが紹介した出版物『日本をソーシャルデザインするグリーンズ編(idea ink)』
小野 僕は実際にやってみる人たちがもっと身近に出てきたり、それが日常になればいいなと思っていたんですが、ウェブマガジンだけだと難しいというか、絶対できない。
ソーシャルデザインに特化したウェブマガジンを13年やった結果、同じ人しか読んでくれないなとか、情報だけを受け取って、実際にチャレンジする人、ビジネスにできている人が増えていかない。
もちろん、グリーンズへの関わり方はそれぞれだと僕は思っていて。単純にライターとして取材したい人はいるし。ウェブマガジンが面白いねという人もいて。どちらもあっていいんですけど、僕はどちらかというと情報を得た人が、自分で実践することに優先順位があったんです。
伊集院 小野さんがこれから下北沢で始めるボーナストラックについて教えてもらっていいですか?
小野 ボーナストラックは小田急電鉄が開発中の900坪の商業設備です。僕は下北沢の本屋「B&B」代表の内沼普太郎さんと全体のディレクション、経営を行っています。ボーナストラックには、これまでグリーンズの取材で出会ったソーシャルビジネス界隈の人たちがテナントに入ります。
共同代表の町の本屋「B&B」の内沼普太郎さん(左)
小野 リアルな場所を作ることで、グリーンズで読んだ記事を体験できるとか、ちょっとバイトで手伝えるとか、それってウェブマガジンで情報を見るより一歩、二歩も踏み込んだことじゃないですか。いろんな人が挑戦できるようなマルシェとか夜市もやってみたいと思っています。
先ほど紹介したANODONの2店号店もテナントに入る
小野 とはいえ、ボーナストラックのテナントに入って頂く方は、内装を一から作ったり、人を雇ったりするわけですよね。それだけでも月50万円くらいの出費になるわけです。そういうことに耐えられるところしかお声をかけてないんですね。
稼げる仕組みにすると、できることが増えていく
小野 ここまで話してきてなんですけど、別に稼げないことがいけないとは思っていなくて。だけど、継続したり、インパクトを出そうとすると、必然的にビジネスにする必要がある。あるいはそれを望んでいるのにやりきれていないという人や、知識がないからできない人がいる。それが僕の問題意識なんですけど。
もちろん、ボランティアベースでやりたい人を否定するつもりは全然なくて。それはそれとして、サスティナビリティはあると思うんですね。みんなが納得していれば意味はあると思っていて。
ただ僕は根が商売人なので、稼いでいっぱいお金を使ったりすると、できることがドンとやれるなって思うタイプなんです(笑)。
使えるお金の原資を増やしていく
関根 僕は今いろんな起業家の方にお会いするのですが、ある人から「お金を求めると小金持ちにしかなれないからね」って言われたんです。例えば心が満たされるものだったり、情報だったり、何かしらのリターン。
そういうところを追い求めると、最後にお金持ちになれると教えてくれました。小野さんがやっていることって、目的というか、どこを狙っているんですか?
小野 きっとその人は関根くんに「お金を儲けに固執する人が多いから、社会性を大事にした方がいいよ」って話をしてくれたのかもね。
僕もそう思いますよ。いわゆる稼ぐ上で、何を目指すかみたいな大義はすごく大事だと思います。僕も大義があるほうが満たされるタイプなので。ただ、そうだとしてもツールとしてお金を使いこなす必要がある。
例えば、事業をやろうと思った時に、貯金が100万円より1000万円ある方が全然いいパフォーマンスを出せる。1000万円あればうまくいくって話ではないですよ。
1000万円投資できるなら1億くらい稼げるし、1億投資できるなら10億稼げる。それは物事の摂理として覚えておいたほうがいい。使えるお金を増やさないと稼げるお金も増やせない。使えるお金の原資を増やしていくのがビジネスの基本なので。
チャレンジの質を変えるという意味で、投資できる金額は積み上げていかないと、できることが少なくなる。事業を始めると、考えたつもりの100万とか1000万がサッと失くなるんですよ。それで失敗して。でも、それがすごい大事というか。そういう経験を積み重ねで、距離感がわかっていく。
いろいろな生き方があるので、大義がないのがダメじゃなくて、どちらが自分にフィットするかが大事で。自分のモチベーションが上がるかどうかだと思います。お金とコミュニケーションしていくことが大事です。
小野さんのもとを訪ねて、学んだこと
伊集院 小野さん、ありがとうございます。では、ここで小野さんのもとを訪ねて、僕がグッときたこと(パンチライン)を発表したいと思います。
※会場に来てくれた皆さんにどの話が一番聞きたいか、①グー・②チョキ・③パーで挙げてもらい、一番多く挙がったパンチラインを深めていきました。
この時は、「①奇抜なアイデアはいらない」でした。
伊集院 ①奇抜なアイデアはいらない。特にローカルにおいて、事業をつくるなら日常に根ざしたものを始めた方がいいってことですよね?
小野 普通のことをやる勇気だよね。ローカルに限らずですけど、新しく仕事をつくるフェーズにおいて、いかに他と差別化するかみたいな話が出るんですよね。もちろん、やってもいいと思うけど、仕事にはならないよって(笑)。
「人がやっていないこと=仕事になる」と勘違いしているんだったら、普通にみんながやっていることのクオリティを上げる。
例えば、おしゃべりがうまい美容室とか、めちゃめちゃ親身になってくれる税理士事務所とか。その方が普通に需要はあるんです。なのに、ワークショップをいっぱいやるコミニティカフェみたいなビジネスを始める人がいるんです。
伊集院 はい
小野 どんだけ面倒なんですかっていう。何人来るんですか。一回いくらですか。500円です、1000円です。何万人呼ぶんですかって。じゃあ自分がいくら貰うんですかって。数字上、成立しないじゃないですか、みたいな。
大企業は合理的に考えないといけないから差別化も大事ですけどね。でもスタートアップの人は、まずはみんながやっていることをやったほうがいいんですよ。ニーズも高まっているから投資も受けやすいはずです。
例えば、ラーメン屋ってみんな起業して、新しい店がどんどん出てくるじゃないですか。そうなれば市場は成熟していきますし、生活者として満足度も高いですよね。全て日高屋という社会は嫌でしょ(笑)。だから既存の市場に飛び込むことに恐れを持つ必要はない。
伊集院 そこで恐れてどうするんだと。
小野 そうそう。後釜の後釜の残りかすだっていいんですよ。1000億の市場を1000社で競って100位とかになっても、売上は1億くらい出せる。だから田舎で刺激的な新規サービスをやろうとしても都会の人には刺らない。田舎で共感みたいなことを言っても、「で、それいくらなの?」みたいな(笑)。
都会向けにサービスを提供すること自体、全然いいと思うんですけど、立地が良くないと人は来ないからやっていけないですよね。だからこそ先行者がいても気にしない。
通いながら事業をつくるなんて、無理
伊集院 都内にいながら、いつか田舎で事業をつくりたい人っているだろうなぁって思っていて。
小野 東京と地方に行き来して?
伊集院 はい。でも、いきなり田舎に行って起業できるほど甘くない気がして。小野さんはなんてアドバイスするのかな、って。
小野 お金を使うか、時間を使うか、です。お金がないんだったら、現地に行かなきゃいけないですよ。逆に行かないんだったら、お金を出すしかない。やれる人を見つけて、その人にお金を出す、みたいな。そんな都合よく通いながら事業をつくるなんて、無理です。
伊集院 無理ですか(笑)
小野 「通いながら事業をつくっているんです」って人のサービス、受けたくないでしょ?
伊集院 あぁ、たしかに・・・(笑)。
小野 そんなの僕ら(お客さん)は知らないじゃん。こっちはいいサービスを受けたいだけだから。最初は共感を生むんだよ。私も、俺も、みたいな。
伊集院 2拠点でやってます、みたいな。
小野 うん。でもそういう中途半端なサービスは1回行って終わりですよ。たとえ友だちでもずっとは来てくれないですよ。そんなに商売は甘くない。でも、そういう人たちもどこかで「踏み込まなきゃ、仕事にならない」と思っているはずです。
できることしか、できない
伊集院 ローカルで事業をつくる上で、奇をてらったお店ではなく、まずはパン屋ならパン屋。本屋なら本屋という感じでわかりやすく「決める」ってお話がありましたけど。小野さんの場合、誰かと一緒にやっていくタイプじゃないですか。どんなふうに「この事業でいこう」と決めていますか?
小野 事業パートナーによってだけど、結局やっているうちに決まるんです。例えば本屋を準備したんだけど、本屋として開業できなくて、飲食も作りますとか。つまり、できることしかできないので。だから決めたつもりで動いてみて、最終的に落ち着くところに落ち着くんです。
伊集院 やらないと、結局それも見えてこない。
小野 うん。何も進まないじゃないですか。本屋だったら、仕入れをどうするとかシビアな話になった時に、「あぁやれないな」と思ったらやれないんだろうし。僕の場合は、さっきのおむすび屋さんとか、事業パートナーはテーマだけ決めていることが多いんです。秋田のお米でいくぞとか。
伊集院 これでいくぞ、か。
小野 例えば、毎日お店を開けて、お客さんと会話するのが苦痛な人が、お店をやっちゃいけないですよね。どんなにその風景がお客さんとしていいなと思っていても、絶対できないです。でもそれって、本当にやってから気づくことですよね。
伊集院 そうですね。「やっぱり向いていた!」も、あるかもしれないし。
小野 もちろんある。できるものは、やれることだから。
伊集院 僕は今「南伊豆くらし図鑑」という1組限定の暮らし体験サービスをやってるんですけど、このサービスを拡大するより、今の自分としては宿をやっていくんじゃないかなと思っていて。
南伊豆くらし図鑑ウェブサイト
小野 うん。その体験サービスだけじゃ食えないもんね(笑)。
伊集院 そう、食えない。特に僕がやっている形態では食えないですよ。なので僕は小野さんにこれからどう事業を展開していこうか、聞いてみたかったんです。
小野さんにインタビューするまでは、「事業をつくるなら、新しいことをやらないとダメだ」って考えていたんです。そうしたら、小野さんは「まずは奇抜なもの狙わず、日常に根ざしたものが大事だよ」って。それでちょっと冷静になったというか。
じゃあ、南伊豆ならどうするかなって考えたんですけど、宿なのかなぁって。でも、「え、俺、宿やるのか?!」みたいな(笑)。今、そういう感じなんです。
小野 そうそう。僕もですよ。「え、俺がおむすび屋やるのか、って(笑)」。なんでもいいんですよ。何かやればいいんです、本当に。やればその都度変わっていくので。
始めてみて、気づくこと
小野 実際にやってみると、自分がかなり変わりますよ。こういうふうに工夫したらお店が楽しくなるな、とか。始めてみての工夫のほうが、始める前の妄想よりもすごい大事な気がする。
伊集院 以前小野さんを訪ねた時、「事業を始めたら、やりたいことよりも、お客さんが何を求めているのか、みていくことが大事」と話してくれましたよね。小野さんはどこを見ているんですか?
小野 お客さんの表情とか、ものづくりはそう。飲食店もそうかもしれない。あとはシンプルに、これ売れているな、とか。
伊集院 数字と表情。そこに自分はいない?
小野 自分のやりたいことが、お客さんからするとどうなんだって、割とわかりやすいじゃないですか。売上が上がったり下がったり、評判が良くなったり、悪くなったり。僕は単にビジネスとしてやっているので、自己表現としてやっていない。
僕は自己表現性を仕事に持ち込み過ぎない方がいいと思っている派なんです。何か大きな方向性だけ向いていれば、あとはお客さんに合わせる。それで矛盾がうまれそうな人は、やりたいことと仕事をはっきり分けたほうがいいかもしれない。
伊集院 趣味は趣味で。
小野 そうです。大人の判断として。
伊集院 他に事業づくりが向かない人ってどんな人なんですか。
小野 人と上手くやれない人はむずかしいですね。
伊集院 あぁ。
小野 個人事業主でいきたい人は、個人事業主でいったらいいと思うんです。独立したライターさんとか料理人とか。でも、経営者ではないですよね。だからそういう人は、腕前をひたすら身に着けて、職人的に生きていったらいいと思うんです。
仲間はどう集める?
伊集院 小野さんは事業をつくる時、毎回チームを組んでいるじゃないですか。 チームをつくることで、事業を広げることができると思うんですけど、事業をつくるって、ノリだけではできない気がして。「友達だから信用できる」も危ないというか、薄いじゃないですか。小野さんはどうやって仲間を集めるんですか?
小野 友達だと薄いんですか?(笑)
伊集院 あ、そういうわけではないんですけど(笑)。なんか軽いというか。どういうふうに小野さんはチームを組んだり、仲間を探すのかなって。
小野 まあノリですね。
伊集院 えぇ、もうちょっと解像度上げてください(笑)。
小野 いや本当に解像度を上げなくていいと思っている。ノリでいいと思っていて。「こうしたら上手くいく」と思うほど、チャレンジの幅が狭まるんですよ。やったことないのに。
だからなんかノリで始めて、最終的に仲違いしちゃって、みたいなね(笑)。一人でも良かったじゃんってこともあるかもしれないけど、始められたんだから、結果的に良かったじゃんってこともあるじゃないですか。
伊集院 それを怖がってたら、始めてすらいない、か。
小野 そうだと思います。
人の戦略なんて、聞いても意味ない
関根 僕はいろいろな経営者の話を聞くのが好きなんです。でも経営者の人たちって、重なる話もあるんですが、違っていることもあって。今も戸惑いながら聞いています。
小野 うん、人によるからね(笑)。ちょっとは戦略立ててやってもいいと思うけど、そんなに最初から戦略持つとかやばくないですか? まだやってもないのに。
えっと、今日の話が全く意味ないなみたいな感じに近づいていますけど(笑)。人の戦略を聞いても意味ないですよ。自分で会得していかないと。
もちろん、ガイドラインにはなりますよ。でも自分にしかやれない作法や進め方を編み出していくこと自体、事業をつくることなので。
だから僕の言ってることに、納得がいかないから真逆なことをやろうでも全然いいんです。とにかく続ければなんでもいいので。やり方をこだわっている場合じゃない。
頑張っているのと成果って、関係ない
伊集院 ③の頑張っているのと成果って関係ないって話も聞きたくて。小野さんにとって成果ってなんだろうと。例えば、「ミシュラン1星取るぞ!」とか、小野さんはどんな風に目標設定をしているんですか?
小野 すごいつまらない話で言うと、ちゃんと黒字にすることですね。黒字になるまでの赤字経営って、キツイんですよ、本当にね。でも初年度の赤字が600万円、次の年200万円、それで100万円の黒字になって、フーッって(笑)。
黒字になっていれば、とにかく現場の人たちが思いっきり楽しんで成果を出せばいいだけで。でも数字のことだけ言っていてもつまらない。その会社を面白がれるようにはしておきたいと思っている。
伊集院 面白がれるようにしておく。
小野 そう。スタートアップで成果が出ていない時って、「成果だけだそう!」としてすごいストイックになるんですよ。でもモチベーションは下がるんです。
頑張んなくていいから、成果だそう
小野 その人のモチベーションの源泉は成果だけでは測れないですよ。例えば、参加したくないミーティングがない、とかね。他にも自分のアイデアが通れば、その会社が面白いなと思うし、そのアイデアを潰されるようじゃ、やっぱり面白がれないですよね。だから面白がりつつ、数字に対してシビアにという感じ。
僕はあまり「頑張ろう」って言葉が好きじゃないんです。頑張んなくていいから、成果を出そうよって。手を抜いて成果を出すには、アイデアが必要ですよね。それは効率化なのか、新ビジネスなのか、雰囲気づくりなのか。その知恵を絞るのに、時間とお金を使う方が絶対利口です。
でも日本は、みんなで「エイ・エイ・オー」ってやるんですよね。僕はすっごい苦手なんです。僕は従業員にそれをさせない、そういう場には行かない。時代の流れとしてクレバーな人はそうなっているはず。「今の時代、気合いだけじゃ、どうしようもなくね? 」、みたいな(笑)。
結果的に続いていることが、一番仕事になりやすい
中川 感想になってしまいますが、とにかく体験、経験して失敗しないとわからない、という話があって。それはそうだなと思って。
僕は今編集者というか、書く仕事をしているんですけど。書くことにすごく苦手意識というか、自分の得意なことではない、ただ嫌いではないと思っている時だったんです。でも小野さんの話を聞いて、それを仕事にするっていいのかもな、と。
やっていくと失敗する機会がいっぱいあるんです。ネガティブに思うこともある。でも、なんか嫌いではないけど、得意ではない仕事をしている時に、やはり自分にある種向いているし、この仕事は意味があると思っていて。今日は自分がやっていることに対して肯定的に捉えられることができたな、って。
小野 苦手意識があるけど、結果的に続いていることが一番仕事になりやすいですよね。
中川 なんでかわからないですけど、それを抱えているのはいいことのかなって。
小野 うん、無関心とは絶対違うわけだし。得意で勘違いしているわけではないから。例えば、超一流の料理人が「もう僕、一流なんで」って人より「自分の料理はまだまだです」って言ってもらいたいじゃないですか(笑)。鬱屈としてほしいじゃないですか。中川くんがそういう気持ちを抱えているのは、健全だし、幸せなことだと思います。
探求と執着
小野 中川くんの話につながりますけど、僕も会社経営として本当に至らないことばかりだと思ってますし、従業員に申し訳ないと思ってばかりです。こんな感じで登壇していますけど、自信満々でやっているわけでもないです。苦手意識もあって全然払拭できないこともある。
ただ僕なりに探求しがいがあるというか。だって無関心で全く興味がなかったら、僕に会社の経営なんて誰もお願いしないですよね。
だから僕なりに探求というか、そこに執着している状態って、仕事のあり方としてすごく健全だと思っていて。苦手意識があるからこそ、つい続けちゃうことは、天職に近い感覚なんじゃないかなって。
自分の好きなことが仕事になる人はいますよ。でも全員がそうなることは絶対にない。そうならなくても別に不幸ではない。
「僕はこの仕事好きじゃないんですけど、なんか稼げて、続いちゃってるんですよね」みたいなのってメディアには載らないじゃないですか(笑)。
だけど僕はそういう仕事のあり方の方が普通で、普遍的だと思っています。中川くんの場合は、周りと比べてそう思うのかもしれないけど、全然悪いことじゃないと思います。
伊集院 僕も、やってみないことには何も進めようがないってわかったので、やはり多分、宿、やります。
小野 やろうよ、小さくてもいいから。
伊集院 じゃないと失敗も何もわからないという。
小野 ノリだから(笑)。
伊集院 ノリかぁ(笑)。
小野 「この地域にこういうものが不足しておりまして」みたいなストーリーってあるけどさ、(お客は)知らんがなって(笑)。理由なんて空き物件があって、面白いヤツがいて、ここに泊まらせたいからノリで宿をやる、みたいな。それの何がいけないのって思います(笑)。ノリです。
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※最後に、残り一つのパンチラインも紹介しておきます。
②(結局)速い、安い、うまいには勝てない
田舎で事業をやろうとしたとき、「コスパではチェーン店には勝てない」という話の流れで出た言葉です。では、どうするのか。小野さんに聞きました。
小野 知り合いだからといって、毎日そのお店に行かないじゃないですか。結局、ほとんどの人はコスパがいいところに行くわけです。だからこそ、自分たちのこだわりというか、1個をつくりこまないと、わざわざ来てもらえないですよね。お客さんの半分がこのカレーを注文します、みたいな名物を。それをいかにつくるかだと思います。ただ、そのこだわりが必ずしも成果(売上)につながらないかもしれません。やはり仕事って、もちろんプロセスは大事なのだけど、成果を分け合うことですよね。「一緒に居るのが楽しいよね」、だけでは仕事にならないじゃないですか。だから成果を分け合うということを前提にすれば、自分が成果を出せるポジションに身を置くことは大事です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
vol.8は、キッチハイク代表の山本雅也さん、キッチハイクプロデューサーの古屋達洋さんを訪ねて学んだことを報告します。山本さんたちにぶつけた問いは、「体験を、どう届ける?」です。
それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。
vol.08はvol.08「体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん/プロデューサー 古屋達洋さんです。
<<ローカル×ローカル バックナンバー>>
vol.0 「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01 「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02 「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版の川口瞬さん・來住友美さん
vol.03 「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04 「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表の松本潤一郎さん
vol.05 「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06 「いいものって、何だろう?」デザイン事務所TSUGI代表 新山直広さん
vol.07 「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08 「 体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん・プロデューサー古屋達洋さん
vol.9は、「まちづくりってなに?」株式会社machimori代表 市来広一郎さん