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見てしまった!

人には、意外な一面がある。
 でも、それは場合によっては、本人にとって、人に見られたくないこともあるのである。
たが、本人が見られたことに気がついていなければ、限りなく、幸せなのかもしれない。 
 
 十年以上前、市の道路拡幅の測量業務で御世話になった、当該地の地権者のS氏。
 S氏は、私達測量業者と接する際、全く、笑顔を見せず、常に気難しく接することに誇りを持っている。
 最初に測量のご挨拶に行った際も、
「測量は、土地立ち入りの通知も頂いているので、作業の際は、いちいち断わらなくて良い!」
 これがファーストコンタクトである。
見方を変えれば、潔くて良い人なのかもしれない。
 
 でも、少し以前にS氏の土地で、市の工事が有り、事前準備の為だが、たまたま、断りを入れずS氏の土地内で作業をしていた工事作業員に、たいそう激怒して、市の担当部署の課長、部長クラスまで呼び出して、相当の修羅場を作ったという武勇伝もある。
 私たちも、測量の作業で、S氏と何回も、顔を合わせた。文句こそ、言わないが、私たちを見るときは、常に般若顔である。なんか怖い。
 
 そんな或る日、私たちは測量の器械とターゲット、共に三脚にセットしたまま、林の木陰で休憩していた。S氏の土地は林も多いのだ。
 ターゲットと私達とは、多少距離が有ったが、木陰から安全を確認できる位置ではあった。
 ターゲットには、プリズムのミラーが装着しており、器械から発せられた光波がミラーで反射され、器械に戻った時間と光波の速さで、距離が算出されるシステムである。
 
 なんと、S氏がターゲットに向かって小走りで、やって来た。
 目をキラキラ輝かせ、少年のような笑顔である。三脚に付いているターゲットを観察しながら、その周りを何周か廻り、その都度熱い視線を送った。
 へぇ、こういう器材なのか。
 S氏の好奇心旺盛な表情は、そう言いたげだ。
 一緒に休んでいる同僚は、そのことに気付いていない。
 あえて、同僚には教えなかった。ささやき声でS氏が、私たちに、気付いてしまうかもしれないからだ。吹けよ風、呼べよ嵐、にはなりたくない。

 S氏が私たちの前では、決して見せない笑顔、貴重なベストショットとして、私の脳裏に、刻まれた。
 結構、可愛いところがあるじゃない。
 一寸、怖かったS氏の印象が変わった。
素敵な一面を見せてもらったS氏に感謝。


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