「恋愛小説家」NEMURENU57th解題
この度のNEMURENUのテーマは「恋愛小説家」です。
恋愛、小説家。
つまるところは情動の、愛とか恋とか不義不倫、時に甘く、ほろ苦い。胸を締め付ける。そのような物語が数多く紡がれます。主人公は新進気鋭の実話系怪談作家で、カドカワの権謀術数により不本意ながら、矜恃と出版社の存続を賭けて恋愛小説を書かねばならない。しかし、愛の何たるかを知らない小説家は、美人のツンツンした人妻編集者と共に愛の何たるかを探す冒険に出かけます。カドカワの、新潮の、集英社の刺客が、恋路を邪魔します。天文台へ、深海へ、峡谷の無人駅と温泉へ。行けども行けども幽霊ばかり。愛の何たるかは見つからない。愛はいづこ。湯けむり温泉背徳の旅のスタートです。
と、そんなお話を期待しているアナタ!
そんな話はない!
いかにテーマが愛だの、恋だの言ったところで、非モテの辞書に恋愛の二字など無い。
愛だ、恋だを知らぬ地底世界の住人が恋愛の斯くあるべしと暗中模索。そうして出来上がった大著の数々。怪人あり、猟奇あり、分身(ドッペルゲンガー)、meta小説、神、BL、生首、etc。果たしてこれが、恋愛小説なのかと疑うらく、人間失格の、眠れぬ夜の恋愛小説群。
本日も地底にようこそ!
呪え!世界を!地上に暮らす者どもを!
NEMURENU57回、テーマ「恋愛小説家」の開幕です。
目次
01 コラム「文豪がつづる心震わす言葉を飲みほして。日本近現代文学作品イメージティー」フェリシモ「ミュージアム部」
02 小説「雄しべたちの絡まり」千本松由季
03 本日のchatGPT「戯曲・恋愛小説家」
04 コラム「令和日本の恋愛小説が熱い!」吉田大助
05 小説「絵の中で恋をしている」葵
06 漫画「文豪の便から見るだめになる創作者」カケミツ
07 小説「ぼく、恋愛小説家になります。あるいは、白紙へと戻り鎮まれ恋しんぼ」としべえ
08 小説「恋愛小説家北田文明の新作」くにん
09 小説「犬を連れた奥さんの犬の行方」海亀湾館長
10 小説「恋愛小説家」闇夜のカラス
11 小説「ジェフ」千本松由季
12 小説「ヘルン先生と骨、1901年」
13 漫画「人間失格」ドリヤス工場
14 音楽「愛してる、とか」テツオ
01 コラム「文豪がつづる心震わす言葉を飲みほして。日本近現代文学作品イメージティー」フェリシモ「ミュージアム部」
冒頭はいつも大人気、フェリシモミュージアム部様の記事です。
時折、本企画では記事をご紹介しております。
以前に紹介したのは
やまねこのボディクリーム。宮沢賢治「注文の多い料理店」に登場する人肉料理店「山猫軒」謹製のボディクリームです。
食べられちゃうよ!
と言わんばかりの企画力。このような商品が開発、販売されるなんて良い時代になったものです。
今回紹介する記事は蜜のあわれ、智恵子抄などの作品をイメージに作られた紅茶。山月記の李徴が虎に変わる如く、紅茶にレモンを入れると緑青の色に変わる、などなど吃驚の商品各種が揃っております。大変オシャレなアイテムで、喜ばれる事畢竟です。江戸川乱歩の紅茶など女御の心を鷲掴む事間違い無し。意中の女御への贈り物にいかがでしょうか?君のモテ期は今から始まる!
02 小説「雄しべたちの絡まり」千本松由季
千本松さんの小説、こちらは過去に書かれたものだそうです。美術大学講師でゲイ小説家の主人公に編集者は扇情小説を書くように勧めます。男女の情事は書けないと断る主人公に編集者は言います。
「女のことは花だと思えば良いんですよ」
名言ですねえ。
ゲイ小説と言えば千本松さん。小説家である主人公氏の小粋なやり取りが心地好い、軽快な恋愛小説です。
03 本日のchatGPT「戯曲・恋愛小説家」
数理落語家の吟遊さんのオペレートしたAI小説。
と、chatGPTさんにはこのような指示が出されています。天高く馬肥ゆる秋、学生の行き交う大学構内の、色の変わり始めたイチョウ並木。そこに大学生小説家がひとりいて、小説の題材を探している。彼の座るベンチの、反対側にもうひとりの大学生が座って、彼もやはり大学生小説家。通り過ぎる人々を観察しながら自然とふたりの会話が始まって、ふたりの将来には絶望しかない。夕暮れと共にふたりの気持ちも沈鬱に沈んでいきますが、偶然か、神の必然か、ふたりの眼前にひとつ、希望の徴候が現れる。
と、指示からするとこんな小説になるのでは無いかと思うのですが、chatGPT君の小説はもっと破戒的。さすが非人間の作品です。
04 コラム「令和日本の恋愛小説が熱い!」吉田大助
本コラムの中で「告ハラ」という言葉が紹介されています。この言葉を端的に要約するとキモイ男子が婦女子に告白する事が「告ハラ」。キモ男に人権が無い事は薄々気付いておりましたが、キモ男には恋愛の権利も許されない。
フラレた上にハラスメント扱いとは、男、可哀想過ぎる。もう地上にはいたくない。地底に帰りたい。
05 小説「絵の中で恋をしている」葵
葵さんの小説。
人間の内側に起こる心象を言葉に替えようとする事に文学の綾があります。面白い表現がいくつもありました。葵さんの作家としての成長と、今後の伸び代を感じます。
主人公は高校生の男の子。その男子年上女性に感じているものが、恋なのか、恋ではないのか。そのようなお話です。純真で良いです。
思えば私にも恋とは何ぞやと悩んだ年頃もあったように思います。海辺で生まれた海亀が、誰に教わらずとも一様に海を目指すように、人は誰にも教わらずに恋に辿り着く。この小説には多くの発見があります。大変面白く拝読しました。
https://forms.gle/x2Ej2rXUZxDPGEBs7
06 漫画「文豪の便から見るだめになる創作者」カケミツ
大庭葉蔵と言えば、太宰治の人間失格の主人公ですが、その大庭葉蔵の名を名乗る不思議な男に助けられたアマチュア文学家の青年の物語。本話ではいつもニヒルな大庭葉蔵が冒頭の夢の中で、不安強迫症に苦しみ、追い詰められていきます。「人間失格」を引用した不安神経症が迫真の描写です。
太宰治と言えば。坂口安吾は太宰治と仲が良く、芥川龍之介の自殺が報道された時に、共に戦慄をして、自殺病に取り憑かれました。その後に坂口安吾は自殺病を克服しますが、太宰治の自殺病は治りません。太宰治の玉川上水の情死について坂口安吾は以下のような文章を残しています。
小説家は芸道に棲う鬼。
その芸道の中にしか生きる事が出来ないにも関わらず、小説が書けなければ、その芸道の中には居られない。評価できる小説書きに一体いつまで書けるものか、鉛筆のように尖った先細りの人生です。難儀ですねえ。
今回紹介したのは第二話。このシリーズは第三話まで描かれ、マガジン「ならば檸檬を爆発させよ」に収録されています。
07 小説「ぼく、恋愛小説家になります。あるいは、白紙へと戻り鎮まれ恋しんぼ」としべえ
としべえさんの小説です。この暫く続いている山猫三兄弟シリーズは山猫次男のアナタジロウを主人公として進行します。
今回はアナタジロウの1984年のひと夏の物語を描いています。
1984年の出来事。
週刊文春が三浦和義のロス疑惑について追求する記事「疑惑の銃弾」を掲載。
植村直己がマッキンリーの単独登頂に成功し、翌日消息不明。
松本智津夫がオウム神仙の会を設立。
宮崎駿監督「風の谷のナウシカ」劇場公開。
グリコ・森永事件開始。1984年3月江崎グリコ社長が誘拐される。3日後に無事発見。その後5月に犯行グループがグリコ製品に毒物を入れたと発表。6月に犯人グループはグリコ事件の終結を宣言するが、9月に同一犯と目される人物が森永に脅迫状。「かい人21面相」による森永製品への毒混入事件。11月にはハウス食品にも被害拡大。
福沢諭吉、新渡戸稲造、夏目漱石の新紙幣。
エリマキトカゲが流行する。
オーストラリアからコアラ6頭が来日。それを記念してロッテがコアラのマーチを発売。全国にコアラブーム到来。
書き出してみると、すっかり忘れていた懐かしい事柄が多くあります。グリコ、森永事件ってありましたねえ。
いま改めて調べてみると、自分が感じていた以上に複雑な事件でした。私は当時子どもだったので「かい人21面相」という奇人が全国の菓子に青酸カリを混入した事件の印象しかありませんでした。が、江崎グリコ社長宅襲撃、社長誘拐事件とか、寝屋川アベック襲撃事件とか、一連の大小様々な事件が起こっている。そして少なくとも犯人グループとして三人の人間が確認されている。思っていた以上に大きな事件だったんですね。愉快犯的ではありますが。このような怪盗、怪人的犯行は街場の随所に防犯カメラが設置されている現代では難しいんでしょうね。昭和ならではの事件と言えます。
そんな世間の1984年と、としべえさんの1984年。いつの時代も人間は小説のような恋愛をしていて、それを書こうと書くまいと題材を持つ限り、誰もが恋愛小説家であります。
08 小説「恋愛小説家北田文明の新作」くにん
くにんさんの小説は、小説中の舞台が開幕し、舞台上で俳優によって演じられるドラマが描写されます。役者の動きが語られてト書のようですが、これは戯曲では無い。いや、戯曲なのか?珍しい構成です。そこで演じられるのは小説を書くことが出来なくなった小説家の物語。小説家に何とか小説を書かせようと新人編集者があれこれ策を弄しますが、果たして小説家は小説を書く事が出来るでしょうか。
ちなみに本作品はくにん氏の初のBLです。
くにん氏には白くにん、黒くにん、SFくにんと数人のくにん体がありますが、今後はBLくにんも登場するのでしょうか。
BLと言えば本企画の中では千本松さんがBLの名手として有名ですが、くにんさんのBLはプラトニックな志向性。白くにん亜種かと思われます。
https://forms.gle/UP7jixirQPaKj5wp9
09 小説「犬を連れた奥さんの犬の行方」海亀湾館長
執筆の締切日間際に高熱に襲われていたという海亀湾館長さん。発熱しながらの執筆は大変だった事でしょう。完成した作品は病床の中に書いたとは思えない程の意欲作。海亀湾館長とゴテンマリシティさんが文学について対談し、その様子をYouTubeで配信している。本作品中はその対談の様子が、それぞれのアイコンによって台詞分けされています。
そして、今回の対談の内容はチェーホフの「犬を連れた奥さん」。文学男子ふたりの深堀りが軽快に語られます。
作品に触れた時の解釈や、興味を持つ点って人それぞれで面白いですねえ。昨今はビブリオバトルなどが一般化しておりますが、知らない人のレビューよりも知人のレビューの方が人柄を知っているだけにより面白く感じます。レビューは人柄なんですね。本作品には海亀湾館長さんの人柄が余す所なく発揮され、大変面白く拝読致しました。チェーホフの「犬を連れた奥さん」は配偶者が共にいる男と女の逢い引きの物語。詰まる所は不倫です。不倫は文学には欠かせないものですが、実際に不倫等が発覚されるとそれは醜聞以外の何者でもない。不倫は文学では幾らでも美化されるのに、現実では全く美化されない。この文学と現実の乖離は何なんでしょうね。作中では海亀湾さんの不倫論なども語られて読み始めると止まりません。
あまりに解説が面白く、活字嫌いの私もついつい青空文庫で、件の作品を読んでしまいました。解説をされた後に読む作品は山場が分かりやすく面白いものですね。
私も当企画では解題と称して、下手な文章を書き連ねておりますが、猛省致します。
10 小説「恋愛小説家」闇夜のカラス
闇夜のカラスさんは登場人物の心情の機微を細かに表したヒューマンドラマも書かれる一方で、首だけのアンドロイドと恋に落ちる物語とか、近親相姦の姉が蛇になってしまった話とか、怪奇色のお話を多く書きます。恋愛小説家がテーマという事で私の予想では今回のカラスさんの作品は、恋愛小説家の機微を描く純愛系になるだろうと思っておりましたが、仕上がった作品は予想を超えて、クラゲのような軟体生物が海からやって来て、その正体は妖怪サトリであるという怪人もの。
このサトリについて、カラスさんがコメント欄で出したワードが「バディ」と「ミギー」。
男女の愛とは別に、友情とか家族愛とか人の欲求を満たす所属の愛というものがあり、人間は孤独では無い事を感じると幸福感を覚えます。常に隣にいて、自分を理解してくれて、救いの手を差し伸べてくれる存在。それがバディ。
「ミギー」は昔、連載された漫画、寄生獣に登場する地球外生命体。主人公と生命をひとつにする相棒でありながら、地球外生命体として倫理道徳と言った価値観は共有出来ない。勤勉な性格で、人間の持つ矛盾だらけの価値観を理解しようと努めます。この度の妖怪サトリもそんな視点で物語を眺めると、主人公とサトリの価値観の相違や、隔たりは悲しく見えます。かたや人間の感情が読み切れないハードボイルド作家。かたや心の内が全て読めてしまう妖怪サトリ。相容れない二人です。この二人に降りかかる物語はどんなものになるでしょう。ストーリーの組み立てが上手で読者を飽きさせません。
https://forms.gle/mJyv3MSZ3Ucoqi926
11 小説「ジェフ」千本松由季
千本松さんは過去作「雄しべ達の絡まり」を提出していましたが、新作も投稿されました。「ジェフ」はジェフリー・ダーマーという1990年代の米国を騒がせた猟奇殺人鬼。人肉嗜好者。
人間は自らの望みの儘に生きようとします。その為に仕事をします。生活をします。交友関係を築きます。
坂口安吾が太宰治を評して芸道の鬼と呼んだように、望みの儘に生きれば破滅しかない願望というものがあります。
愛する故にひとつになりたいとは、愛の常道ですが、「ひとつ」になる事の着地点が人肉食であったなら。愛して、食べる。そして喪う。摂食と消化の果てに残るものは空虚、そして飢餓です。
1984年、はとしべえさんの今回の小説で取り上げられた年ですがパリ人肉事件の佐川一政がフランスで不起訴処分を受け、帰国した年でもあります。
一時はサブカル界の寵児として引く手あまたとなった佐川一政ですが晩年は仕事が耐えて寂しい人生を送ったそうです。2022年11月24日、病没。ちょうど今から一年前ですね。
ジェフリー・ダーマーの最初の殺人は1978年ですから殺人歴は佐川一政より古い。佐川一政の事件(1980年)は1983年にローリング・ストーンズのミック・ジャガーが曲にしているくらい有名なので同じ時代に生きたカニバリスト同士ジェフリー・ダーマーも佐川一政については意識していたかもしれないですね。それとも他の殺人鬼含めて他人には興味が無いのでしょうか。
ジェフリー・ダーマーの殺人は当初から食人が目的ではなく、当初は死体愛好でした。坂口安吾の作品「桜の森の満開の下」で描写されたような生首遊びにジェフリー・ダーマーも興じています。カニバルに目覚めたのは1990年の殺人多寡の途中から。
などなど猟奇殺人についての話が続いておりますが、今回のテーマは「恋愛小説家」ですので、そろそろまとめに入ります。
「愛のカタチ」って様々ですね。
https://forms.gle/5hkoHNmSm1c2k5Wc7
12 小説「ヘルン先生と骨、1901年」
これは私。
小泉八雲、ことラフカディオ・ハーンは明治期に日本に訪れた外国人のひとりで、日本の伝説を集めた「怪談」などを出版し、今や知らぬ者のない耳なし芳一の話を世界に、日本に広めた人物です。ラフカディオ・ハーンの「怪談」は夏休みの子供向け選書には必ず登場します。それで、私は小泉八雲なる人物はさぞや日本語に堪能でそれで「怪談」も日本語で書いたのだと思っておりましたが、事実は全然違う。小泉八雲さんは、日本語殆ど分かりません。カナ文字は書けますが、漢字は殆ど読めず書けず。特に日本のあのくずし字。あんなもの全く読めない。日本語分からない小泉八雲は奥様である小泉節子夫人に日本の怪談奇談を蒐集させて、奥様の口伝を聞いて英語で執筆しております。だから角川の天野喜孝の表紙の怪談(文庫本)は小泉八雲が海外で出版した本「KWAIDAN」の訳本です。
それとラフカディオ・ハーンは日本に帰化して小泉八雲など日本名を名乗るようになりましたが日本の事はそんなに好きじゃない。欧化主義真っ只中の東京を嫌悪し、外国人に過剰反応して排斥しようとする田舎を毛嫌いしています。
少年期に片目が失明して白濁した、ギリシャ生まれの小男。性格は偏屈でその癖子供のような純真。怒りやすく、絶交癖があり、情愛は誰より深い。神秘と海と冒険を何より愛する男。それが小泉八雲の真実です。
海を愛した小泉八雲が死ぬ間際まで、避暑地として夏を過ごしたのはS県焼津。
焼津には小泉八雲記念館があり、毎年小泉八雲文芸コンクールが開催されます。(締切は10月1日)規定は原稿用紙5枚以内とかなりタイトな制限がありますが、ご興味ある方は是非ご応募ください。焼津の小泉八雲記念館は名誉館長に小泉八雲の孫にあたる小泉凡氏が就任しており、小泉八雲研究の最先端。小泉八雲についての深い造詣が求められる文藝賞です。
その文藝賞に応募した余波で、小泉八雲がマイブームになっており、また小説家小泉八雲の奥様愛が今回の恋愛小説家のテーマにも相応しかろうと、史実と空想を織り交ぜて小泉八雲にまつわる歴史小説のようなものを書きましたが、プロットを組み立てるうちにすっかり恋愛小説家がテーマであることを失念して、書き終えた後に無理矢理恋愛要素(奥様愛)を加えました。
小説中の小泉八雲のカタコトの日本語は「へるん先生言葉」と呼ばれたもので、奥様の手記、息子たちの手記に詳細な記録が残っています。拙作にて小泉八雲の魅力が少しでも伝われば幸いです。
13 漫画「人間失格」ドリヤス工場
で、今迄の包括をするべく人間失格。
この面白すぎる漫画はドリヤス工場先生。「有名すぎる文学作品を~」シリーズを初めとして「必修すぎる~」「定番すぎる~」などの続編も単行本として発刊されています。
商品化されているのでnoteにある漫画も有料ですが、人間失格は無料で読めます。
太宰治は当時にして文学界のスター。その太宰が「死ぬ気で恋をしてみないか」などと口説いてくる。女性には溜まったものじゃありません。「一緒に死のう」という口説き文句もあったようです。
一緒に死のう、は口説き文句になるんですかね。色男が使えば何でも口説き文句で、醜男が使えば何でもハラスメント。株価だろうが、天気だろうが、そういう事なんでしょう。
ジャン・ポール・サルトル「顔、何よりそれは深刻な問題だ」
と、この言葉を紹介しているのは佐川一政。
秋葉原無差別殺傷事件に寄せた記事の中での言葉です。
自殺するのは色男ばかり。
醜男は自殺しても喜劇にしかなりません。人間は悲劇を求めていて、自殺によって悲劇が完成するなら自死もまた良し。死んで、世間から笑われるようなら死なない。人生劇場の主人公としてのヒロイズム、そんな価値観があるような気もします。
それはそれとして、ドリヤス工場先生がグリコ森永事件について描いた漫画がありました。
一年間にわたる犯罪劇場。
最後に責任を感じて焼身自殺した警部の他に死傷者はいません。そして、公式記録では脅迫金を犯人グループが受け取れた事もありません。
沢田研二が愉快犯を演じた「太陽を盗んだ男」(公開は1979年)はプルトニウムを盗み、原爆を作ってしまった中学校理科教師が、国家権力を翻弄し、愚弄嘲笑する犯罪映画。主人公は大犯罪者のように国家を相手に苛烈な要求を突きつけたいが、彼には欲求も思想もない。要求を聞かれて答えに窮した主人公が咄嗟に出した要求は「テレビのナイター中継を中断せずに放送すること」。
戦後に若者たちが無軌道で享楽的な犯罪を繰り返した時期があり、それをアプレゲール犯罪と呼びますが、それは遊ぶ金を得るための強盗事件など、欲望を満たすための犯罪であったことに対し、太陽を盗んだ男の犯罪は物質的に得られるものが何もない。犯罪を人々に提供しているという点で劇場型であり、エンターテイメント型の犯罪の萌芽とも言える映画です。
グリコ森永事件も誘拐、襲撃、暴行、放火と荒事は目立ちますが、何処となくエンターテイメント的です。
14 音楽「愛してる、とか」テツオ
最後はテツオさんの超格好良いロックで終幕。アイシテル、トカ。良い曲なので聴いてください。
なんというか今回は、解題が全く恋愛小説に寄らない。ボヤキと毒と自殺と殺人の話しかしていない気がします。
純文系変態で知られるマルキ・ド・サドの作品は殆どがバスティーユ牢獄に収容されている時に書かれたもの。抑圧された変態イズムが芸術を産みます。
醜男の恋愛に纏わる抑圧された情念は、毒や殺人にもなりますが、文学にだって昇華しうる。
つまりは恋愛をしたい、できない、その醜男こそが崇高の恋愛小説家になりうる。いや、小説など書かなくても既にして諸君は恋愛小説家であると、言わせて頂きましょう。何故なら荒唐無稽で気宇壮大な夢ほど、偉大な文学であるからです。十億円プールの中で百人の美女に揉みくちゃにされたい!いざや誇れよ非モテ諸君。恋愛小説の金字塔は既に諸君らの脳内にある。諸君らのアイロニーをメランコリックを、書け、書いて世の中を薔薇色の幻想で満たそうぜ!
今回もありがとうございました。
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赤山羊派…批判でも、批評でも真実の言葉をお掛け下さい。どのような言葉であってもノーカットでお届けします。寄せられたご意見は公開される可能性があります。
次回テーマの投票
NEMURENUは次回テーマを投票で決めております。
次回、2023年12月末締切号のテーマの投票をお願いします。投票締切りは11月17日の金曜日18時まで。
次々回テーマ候補の募集
次次回のテーマ候補を募集しています。奇想天外のテーマを待ってるよ!