見出し画像

「埋める」眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第21集

あけましておめでとうございます。皆様の一年が明るいものとなりますようお祈りしております。

さて。

今回で第21集。眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー、今月のテーマは「埋める」でございます。 精神世界の森奥に埋めるものはなんですか。過去か未来か現在か。秘密に埋める宝物。 掘ってくれるな栗鼠たちよ。秘密はどうか秘密のままに。 眠れぬ夜はあなたとともに。note内の古今東西より集まりました珠玉の19編。当月も開幕でございます!

目次
00 小説「感謝の泡が地を埋め尽くす」くにん
01 詩「悦楽の間」平沢たゆ
02 音楽「Day by day」ノート
03 小説「埋められた上で」アセアンそよかぜ
04 小説「埋める」千本松由季
05 コミック「タイムカプセル。」いとうちゃん
06 小説「自埋を薦める書」水浦詞葉
07 小説「混沌胡乱な街」泊幽子
08 コミック「ビデオテープの部族(その生態と歴史)」電気こうたろう(イエ・ネコゾウ)
09 詩「神話」伊藤緑
10 小説「穴男」ムラサキ
11 詩踊「Hate broken boy」竹下力
12 小説「土の雨」サトウ・レン
13 エッセイ「2019年12月13日(金)」ヒロシ
14 小説「好きで好きでしょうがないから」臼杵ともがら
15 小説「『埋める』連作 #ネムキリスペクト 」虎馬鹿子
16 小説「花ざかりの地獄」雨伽詩音
17音楽「とむらい」秋山羊子
18 コミック「あのこが好きだった本」イマイマキ

アンソロジーはこちらから。

解題
00小説「感謝の泡が地を埋め尽くす」くにん
冒頭はくにんさんの小説。締切が迫ってもアップが無いのでハラハラしておりましたが、ご参加頂けて良かった!
「埋める」行為を基軸のテーマにして創作するのは難しかったですが、そこはくにんさん。「埋める」事に正面から取り組んだ作品となっておりました。
人はなぜ死者を大地に埋めるようになったのでしょうか。ネアンデルタール人は花とともに死者を埋葬する習慣があったと言います。我々の血脈には累々と埋葬文化が伝わっております。狩猟採集の時代から大地は母なる神でありました。だから、死んだものを大地に還すのですね。きっと大地が再生してくれる、そのような願いがあったのかも知れません。埋葬は人類が発明した美しい文化だと思います。

01 詩「悦楽の間」平沢たゆ
平沢たゆさんの官能的な詩。
今回のアンソロジーのテーマは久々の「動詞」シリーズでした。(前回の動詞シリーズは2019年1月号「あける」でしたね。)
難しいと感じる反面、「動詞」の持つ可能性に胸踊る回となりました。
「する」「致す」「為す」、某かの行為を働く事にはエロティシズムが溢れております。「埋める」、ええなんと官能的な響きでしょう。
「行為」とは関係性であり、関係とは即ち愛ですから、動詞のある所にはエロスが生じるのです。
などなど、あまり突飛な持論を展開すると変態扱いされますので程々に。
たゆさんの詩も愛に満ちております。
「あなたの虚しさでわたしのさみしさを埋めてほしい」
受容の愛です。
そして「昭和枯れすすき」のような退廃感です。昇るのも、堕ちるのも一蓮托生。そのような愛もありますね。深い愛です。

02 音楽「Day by day」ノート
ノートさんのブルース。日々の生活に私たちは埋もれていきます。雑踏の中で私たちは自分自身を見失った迷子です。
時には立ち止まり、埋もれた「私」を見つけなければなりません。
ノートさんの優しい歌声に癒されます。

先日のnoteさんの記事で紹介されたボードゲームカフェ「ひとます」です。
日々の忙殺から解放される、とはもしかしたらこのようなものかもしれません。デジタルでは無い物の中に失われた「私」がいるような。仲間と遊ぶ。そんな時間の使い方も良いですね。


03 小説「埋められた上で」アセアンそよかぜ
墓地が舞台です。この墓地に埋葬された恩師。手を合わせながら自然と会話は恩師との思い出話になっていきます。
悼む、とは死者のことを想うこと。墓地で死者を思い出し、築かれた絆を再確認すること。死者のためでもあり、自分のためでもあります。葬送は時間を重ねて少しづつ深化するものです。悼む話。沁みじみと良い話です。

04 小説「埋める」千本松由季
千本松さんの小説です。
流れる鼻血が生々しい命、飢え、渇望を感じさせます。そういえば我々は生きております、飢えながら。月下に鼻血の花を咲かせながら、狂おしく生に餓えている男。最底辺であるだろう彼に、羨ましさを感じるのは私だけでしょうか。彼以上に我々は自らの生命を謳歌しているでしょうか。

05 コミック「タイムカプセル。」いとうちゃん
タイムカプセルを埋めたことはありますか?小学校の頃に私は学級の企画でタイムカプセル(手紙)を郵政省に預けました。手紙と当時使っていた硬貨を同封しましたね。手紙の内容は全く覚えておりません。それから10年経って自分宛に届いた手紙。まあ、子どもの書くことですから実に下らない。でも懐かしいですね。良いものです。
いとうちゃんさんの漫画はタイムカプセルを題材とした四コマですが、結末は実に意外です。我々が時間を超える事は甚だ容易ではありません。

06 小説「自埋を薦める書」水浦詞葉
本アンソロジー初参加の水浦さんの作品です。ご参加有難うございます。多くの修辞に彩られた美しい文章です。このような言葉の数々を私も使いこなしてみたいものです。
さて、この小説は皇帝の下に届いた「手紙」の形式をとっております。
手紙ですので、どのような状況なのか説明がありません。さて、この手紙の表すところは何でしょう・・・と読者は謎解きの気分で本作品を読み進めることになります。中々難しい。
慇懃に振る舞いながら、皇帝に対して冗談などを飛ばしていることから、近しい間柄とみてとれます。そして語られるのは「自埋の術」。これが実に奇妙奇天烈な内容です。光るキノコ、死樹、黒龍。まるでおとぎ話です。正気の沙汰とは思えません。果たして手紙の主は何を仰りたいのでしょうか。
水浦さんと言えば大変中国に造詣が深い方です。
中国古典に見られるような謎かけ問答が面白いですねえ。

07 小説「混沌胡乱な街」泊幽子
泊さんはロマン主義的な幻想文学を書かれることが多いですが、本作は珍しくSF作品です。記憶泥棒と記憶ジャンキー。牡丹芥子の阿片窟。合成獣のペットたち。制御不能の自立型機械。機械仕掛けのトランスヒューマン。
雑多なメタファが織りなす混沌。次々人体に埋め込まれるテクノロジー。人々が進んで機械化していく様が恐ろしくありますね。しかし、これらは人間の欲望の果てに辿り着いた必然的な未来です。あらゆる欲望が成就された未来において、なお人間は幸福になれません。いや、これを幸福と呼ぶのでしょうか。我々が生きる現世よりもっと。何をもって幸福と呼ぶのか、安易に計れぬものです。ましてや我々がすっかり土中に埋まってしまった未来に於いてなど。


08 コミック「ビデオテープの部族(その生態と歴史)」電気こうたろう(イエ・ネコゾウ)
稀代の漫画家イエ・ネコゾウ先生です。前出の泊幽子さんの小説と同じくトランスヒューマンのお話です。人間と機械のサイバネティクス的融合はロマンがありますねえ。それをストーリーテリングするために、SFではなく伝奇に求めるのがネコゾウ先生の奇々怪々の所以です。
頭にビデオテープの差込口のある民族の興亡の歴史。奇っ怪です。話を読み進めるほどに。
いまスウェーデンでは人体にマイクロチップを埋めるのが流行しているそうで、人々は手をかざすだけで電子決済ができるのだそうです。
他にも小指の隣に「親指」を拡張できるデバイスが開発されたりと、SF世界が確実に現実化している模様。(六本目の指の操作は足指で行うそうです。神経で直接操作できないなら、指と呼ばないんじゃないかなあ。でも、これで救われる人もいるのでしょうね。ああ、再生を願うという意味では地母神に死者を捧げる事と、サイバネティクスは似ております。)
ところで、私は携帯電話やスマートフォンが発売されたその時々に、かなり遅れて所持するに至りました。私にとってそれらはSF世界の産物であった訳ですが、いつの間にか持たぬ者が時代遅れと呼ばれておりました。私が想像するよりも足早に未来は到来するもののようです。
また、一時、私の周囲の人々がお互いのスマートフォンを交互に振り合う仕草を盛んに行っておりました。どうもスマートフォンを揺らすと互いの個人情報が交換できるようです。
あと十年も経てば人々はチップが埋め込まれた掌をつなぐだけで個人情報の交換ができるようになるんでしょうね。
ええ、まだ埋め込んでないの?
などと若者に言われるわけです。また一つ時代に取り残されるわけです。

09 詩「神話」伊藤緑
今回、企画に初参加されました伊藤緑さんの詩です。
この作品には「私」という一人称が殆ど語られません。ですから、この「私
」に当たる人物が何者なのか分かりません。「私」が神話世界に溶けて融合してしまったかのようです。怪奇で幻想的です。
其処に弓はあるのか、海はあるのか、月はあるのか。何もかも蒙昧です。果たして私の実在は?
神話は現実法則の通用しない超常の世界です。「私」であったものが「私」でないものに変化してもおかしくありません。

10 小説「穴男」ムラサキ
私です。穴男は虚無です。虚無には良いも悪いもありません。という話、です。


11 詩踊「Hate broken boy」竹下力
ポエトリーリーディングのライブを行っている竹下さんです。
詩のエネルギーとリーディングのエネルギーが混然一体と押し寄せてきます。怒涛です。圧倒されます。
このようなジャンルがある事は知っておりましたが、目の当たりにするのは初めてです。鬼気迫る表現力ですね。
僕を埋める、母。捨てる母。しかし、その母を愛している。これもまた一つの神話です。

12 小説「土の雨」サトウ・レン
サトウ・レンさんの小説です。
人間は理性の中で暮らしております。理性とは共同幻想です。公共の福祉です。人類が何故、人肉食を忌避したのか、それは誰かを食らえば自らが食らわれる危機が生じるから、と説明されます。それと同じく自らが犯罪を犯せば、犯される危機が生じます。そのために集団は規律を作り、犯罪を抑止します。
ところが、我々にはその理性が全く欠如してしまうことがあります。我々は一人になった時に幻想の枷から外れて自由になります。
自由となった人間は時に悪魔と呼ばれます。恐ろしい事です。私もあなたも誰だって一日のうち数刻は悪魔の時間がある訳ですから。
悪魔と悪魔の対決、なんて目には遭いたくないですね。

13 エッセイ「2019年12月13日(金)」ヒロシ
ヒロシさんの日記です。埋まらない予定。埋まらない文章。焦燥と混乱。
お母さんに似た人を探さなければなりません。いやいや、違う。迷走です。焦ります、気持ちが。
「人生が空白で埋め尽くされる」そんな言葉に「なぞなぞ」を一つ思い出しましたよ。
「何の変哲もない樽を、あるものでいっぱいにすると、元の重さよりも軽くなりました。何でいっぱいにしたんでしょうか?」
分かりますか?

14 小説「好きで好きでしょうがないから」臼杵ともがら
虎馬さんから推薦のあった臼杵さんの小説。臼杵さんとか、ヒロシさんの小説が私の理想です。ああ、こんな小説を書いてみたい。この小説も凄いですねえ。全く馬鹿馬鹿しい。
マテちゃんにクロレラをあげようとして焦らす所なんて本当に馬鹿馬鹿しい。にも関わらずこの浪漫。最高ですねえ。虎馬さん、凄い物をご推薦有難うございます。

15 小説「『埋める』連作 #ネムキリスペクト 」虎馬鹿子
で、当の虎馬さんの作品です。
「埋める」ことをキーワードに語られる追憶。ノートさんの解題で私たち自信が日常の中に埋没していく、と書きました。虎馬さんの作品の中で語られたのはその埋没した「私」自身のこと。
そうした「私」の数々は捨てたのではありません。豊穣と再生を願って埋めたのです。
そうして生えてきたのは実家の柿の木。
それを見て子々孫々の中に「埋められた私」、感性が受け継がれていきます。
あの頃は若かった。その若さを経ることも成長の通過儀礼なのでしょう。或いは自分の若さもまた、累々、血脈から受け渡されたものであったのかもしれません。
あ。
そう言えば、虎馬さんは本作に関連して「エロ過ぎるネムキリスペクト」という作品も発表しております。年明けには消すとの事でした。

https://note.com/toraumashikako/n/nde694cc9c89d?creator_urlname=toraumashikako

ラッシュガードの下に紐のビキニ。うむ、良いです。そのような秘密は好きです。流石です。

16 小説「花ざかりの地獄」雨伽詩音

文芸同人サークル「かもめ」主宰の雨伽さんの小説。大変面白く拝読致しました。
水槽、人形、香水などアンダーグラウンドなワードが盛り沢山。濃い世界です。
廃墟の温室で、僕は花を埋めながら、自分の心も埋めていきます。その埋没が窒息するかと思う程、重い。是非ご覧下さい。

17音楽「とむらい」秋山羊子
ピアノ弾き語りの秋山羊子さん。毎月新曲を発表されております。透明感のある歌声が素敵です。
今月の新曲は「とむらい」
コメント欄にも書きましたが、「死」というものはたった一瞬で完結するようなものではありません。死を自覚すること、受容すること、それから死ぬこと、死んだ後に悼むこと、弔うこと、幾度も弔うこと。そして残された者が哀しみを忘れること。
くにんさんの小説にも弔うことについて記述がありましたね。
我々は、自らの裡で死が完結するまで幾度も死者と対話しなければなりません。
死を正面から受け止めねばなりません。
受容は愛。冒頭、平沢たゆさんの詩にも添えた言葉です。死の受容は時として酷ではありますが、それもまた愛です。

18 コミック「あのこが好きだった本」イマイマキ
埋める。埋められる。埋めた者は地上におり、埋められたものは地下におります。その二者においては断絶しております。
「埋める」というテーマで今回のアンソロジーはまとめられましたが、根底には断絶や喪失という哀しみが湛えられておりました。また、その哀しみを克服しようとする願いの力があったように思われます。
イマイマキさんの作品も断絶の哀しみに満ちています。
この「本」は彼女であり、彼女を愛していた私。これは心中の物語です。そうした心中を通じて、私の心の再生を願う物語です。

人生に於いて、悲しみは、ある。
深い哀しみに囚われ、這い上がれない事もあるでしょう。
しかし、再生もまたあります。
再生を願う、願う力が私達にはあります。
いまこうしているうちに、力を落としている方がいて、安易な言葉はかけられませんが、どうか希望は捨てず。
埋められた種子が芽生える日が訪れますように。

一年間が終わり、
新たな一年が始まりますね。
本年も皆様が健やかにお過ごしされますように!

当月も有難うございました。

(近日、読者投稿と次回テーマアンケートを行いますよ。宜しくお付き合い下さい。)

アンソロジーはこちら。

#小説 #ネムキリスペクト #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #埋める